主権国家
民を護る、国を護る、君主は国家第一の
先代の大王たるペンコフ王はそう言っていた。
私は託された使命を果たすことができるだろうか…
私が王になったのは本当に運が悪いことだった。
去年の秋にペンコフ王は崩御、次の王になった私の兄は即位記念の欧州歴訪中に航空事故で急逝…
全く王になる訓練も摂政をして経験もない私が王にならなければならないなんて…ひどいよ兄さん、あんまりだ。
兄は悪くない、そんなことはわかっている。
でも私は苦しいのだ。
私の子供の部屋の横を通りかかった時のことだ。
「それって、姉さんが皇位継承順位1位になるって事?」
チビ王子がクエタ王女に問いかける
「そうよ、私は将来女王にならなければいけなくなったの。」
「気の毒に…姉さん…ぼくにできることがあったら何でもするよ。」
「ありがとう、でもきっと、王様の仕事は簡単じゃないわ、でもありがとう、勇気がわいてきた。」
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、なんのお話をしているの?」
チビ王子もクエタ王女も核心を答えようとはせず、ただ、口を揃えて
「未来のことを話しているの」
と言った。
我が子たちにも心配をかけてしまっている。
私はどうするのが正しいのだろうか。
父さん、私はどうすればいいのでしょう。
そんなことを嘆いていても状況は前には進まないのだ。
この国の未来には暗雲が立ち込めている。
過激勢力の台頭、民族主義、なくならない格差、貧困、海外の脅威
まさに内憂外患である
私が沈んでいてはこの国も沈んでしまう。
もっとも、この考え方もおこがましいことではあるのだがな、我が臣民は、我が忠臣は、きっと私なんかがいなくてもやっていける。
やめだやめ、こんな事ばかり考えていては気が滅入ってしまう。
この国を護る使命は私に託されたのだから…
「失礼します」
「どうしたんだい?フェムト主席秘書官」
「全国家指導院の会合の時間がもうすぐです。お急ぎください。」
「もうそんな時間なのか⁉」
「ええ、あと8分で時間です」
「国王陛下、入られます。」
重々しい雰囲気だ。
ここで我が国の外交方針が決まることになるのだが、やけに最近はこの会合が多い。
国際情勢が混迷しているというが…
「国家最高法典第18条3項により、全国家指導員の御前会合が成立することを報告いたします」
「まず、現在の情勢についてです…」
やはりこの世界は混迷している。
今年イタリアは英仏との協調姿勢から一転、エチオピアに侵攻して国際的な孤立を深めた。
そして今日ではオーストリア問題で対立を深めていたドイツに接近している。
イタリアを後ろ盾にして独立を守ろうとしているオーストリアは、この難局をどう乗り切るのだろうか。
私はドイツがオーストリアを併合することになれば、怒った英仏がドイツへ制裁侵攻をすると見ている。
できればドイツにはヨーロッパで雁字搦めになっていてほしい。
奴らは南極北部の領有権を主張しているからだ。
奴らは去年、愚かにも鯨油ギャップを解消したいなどとの理由で我々に侵攻を行ってきたが、 先代の大王の優れた指揮と統制で退けることに成功した。
ヒトラーはノイシュヴァーベンラントなどと言って、我々の神聖なる領土を侵そうとしているが、そうはさせない。
南極は誰のものでもない、我々ペンギン王国のものなのだ。
ドイツは来年のベルリンオリンピックに向けて、ユダヤ人への差別をあたかも行っていないように、政治工作を図っている。
我々はベルリンオリンピックを絶対にボイコットする。
その点英仏は誠実だ。我が国に干渉することもなければ、我々へ攻めてくることもない。
まあ、そもそもこの二国はドイツほど鯨油に困っていないし、植民地から安く輸入できる。我が国を攻めてもメリットがないから攻めてこないのだろう。
我々がドイツと対立している中でアジアの大国である日本は正式に国際連盟から離脱したのだが、イタリア・ドイツ・日本の三国が接近しているしているという噂を最近よく耳にする。
まあ正直どうでもいい。奴らには我々を平定できるほどの時間的余裕もなければ、経済的余裕もないのだから。
「議題は、ドイツの脅威についてです。」
「では、軍部から順番に意見をお願いします。」
「軍部としては、ドイツとの徹底抗戦の姿勢を取るべきだと考えます。ドイツとは停戦が成立しましたが、次またいつ侵攻されるかわかりません。大国相手に譲歩したらそこで我が国は終わりです。」
「内閣としては、ドイツとの平和条約を早期に締結し、戦争の脅威を遠ざけるべきだと考えます。今現在のドイツと戦っても、我々の戦力では対応しきれません。」
「立憲セクターとしては、ドイツに対する一切の譲歩には反対です。ドイツは平和条約締結の条件として、東経44度38分から西経20度の間の地域の割譲を要求しています。これは我々を侵略するための橋頭保をわざわざ与えているようなものです。」
「福音民主同盟としては、簡単に大国相手に対して譲歩するのは、国民が認めないのではないかと考えます。」
「民主党としては、内閣の意見と一致しています。戦争は避けるべきだ。」
「連合自由党としては内閣の意見に賛成です。対話を選ぶべきです。交渉次第では領土を割譲せずとも平和条約を締結できるのではないでしょうか」
軍部と、野党の立憲・福音は徹底抗戦を訴え、内閣と、与党の民主・連自はドイツとの平和条約の早期締結を訴えている…か…
「陛下、最終決定をお願いいたします。」
やっぱりだ。会合の意見がまとまらないと私が最終判断を下すことになる。
「大国相手に一度でも譲歩をしてしまってはこの国にとって利益にならない可能性がある。私としてはドイツとの徹底抗戦を支持したい…が、一応は二重外交を展開して、ドイツ相手に、少しでも有利な条件で平和条約を結べるように交渉を展開してみよう。一方で、英仏、そして米国へ、我が国の独立を保障してもらえるように、そして、我々を支援してもらえるように交渉を持ち掛けてみよう。」
「国王陛下、ありがとうございました。」
「陛下のおことばに反対の者は挙手をお願いします。」
「反対するものはいないようなので、以上で会合を終了いたします。」
それにしても、いつも思っているのだが、国王の意見だから、そりゃ挙手制だったらこの空気感的に反対できないし、本当に忠臣の皆が気の毒に思えてくる。
どうにかならんのかね、この制度は。
我が国も英国のよう「君臨すれども統治せず」の体制にできればいいのだが、やはりそれができるほどには、まだまだこの国は真の意味では発展してないからな。
いや、やはり杞憂であったか。
私はこの国をまとめるために必要な存在なのだという事をいいタイミングで確認できた。
そうだ、私には民を護り、国を護る使命があるのだ。私が一番頑張らなくては。
ペンコフ大王、私はこの国を護ってみせます。
どうかこの国を見守っていてください。
きっとこの国はよい方向に向かいますから。
ペンギン王国の守人 @shinonome2010
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