いつもの7時50分

渦島怜

第1話

 早朝の、ターミナル駅。ここは路線が6本も通っている大きな駅なので、毎日、お客さんで大変混雑している。僕もその中の一人。制服の上着ポケットから定期を取り出して、改札にかざす。すんなりと開いたゲートを通り抜け、たくさんの人の流れに合わせながら、ぞろぞろと歩いていく。僕が目指すは、1番線ホーム。学校の最寄り駅に停まる路線だ。


 いつも、この時間に駅を使うけど、集団になって歩いている周りの人たちには、全く見覚えがない。

 さっそうと歩くお洒落なおねえさん、遅刻しそうなのか、殺気立ってるサラリーマン、ヘッドフォンの大音量が漏れてる、眠そうな大学生。皆で一緒くたになって進んでいても、いずれはそれぞれの乗る電車のホームに分かれていく。

 おねえさんは3番線のホームへの階段を上っていった。僕が一度も乗ったことのない路線だ。一体、どんな街に続いているんだろう。やっぱり、お洒落な街なのかな。


 1番線のホームに着いた僕は、6号車の乗車口に並ぶ。少し離れた自販機の影に、赤黒い顔をした、くたびれたおじさんが寄りかかっている。とてもお酒くさい。酔っ払いだ。

 今日の通勤・通学にはげむ僕たちと違って、おじさんはまだ、昨日の余韻よいんから抜け出せずにいるみたい。ホームは混んでいるけど、おじさんと自販機の周囲だけ、ぽっかりと不自然にいている。でも、仕方ない。本当にお酒くさいし、もしも酔っ払いに絡まれたら、誰だって怖いからね。


 将来、お洒落な人になるのか、それとも人に避けられる酔っ払いになるのか、その分かれ道はどこにあるんだろう。進学する学校、成績、他人との関係、仕事、趣味、それとも本人の性格?

 僕は一体、どんな道を進んでいる途中なのか。この道で、あっているのか。あのおじさんを見ていたら、何だか少し不安になってきた。


 7時50分の電車が、ホームに到着する。まずホームドアが先に開いてから、電車の扉がガタガタと続いて開く。僕はいつも通り、電車に足を踏み入れて、中に乗りこむ。

 まさか、学校に行くことが酔っ払いの道に通ずるなんて、ある訳ない、はず。

 ふと、そんな迷いがじわじわと心に広がったので、僕は雑念を振り払おうと、軽く頭を振った。すぐ隣に立つおにいさんが、途端とたんに不快そうな顔をする。僕は慌てて動くのを止めた。

 

 この毎日の積み重ねは、僕をどこへ連れて行くのか。電車は今日も、時間通りに進む。

 

 

 

 

 

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いつもの7時50分 渦島怜 @Fauna_f

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