誰だ、そよ風のレオンなんて言った奴は!

暇野無学

第1話 転生先はお約束

 TV等でやっていた臨死体験、人は心臓が止まっても暫く脳は生きているって本当なんだなと考えていたものだ。

 何故こんな事を考えているかといえば、渓流釣りに出て豪雨に見舞われたからである。

 天気予報は晴れ時々曇りで、小雨程度は降るかもと思っていたが土砂降りになった。


 雨が降れば渓流は増水確実だから避難すべきで、下流に逃げても時間が掛かるだけだから斜面に取り付き登り始めた。

 足元も掴む木々や下草も土砂降りの雨で濡れて滑りやすく、難儀していたが増水しても安全な所に辿り着いた時にはホッとした。

 下を見れば降り出した雨で川の水位が上がり始めていて、川を下って帰ることは無理と諦めた。


 ここで雨が止むのを待っていても仕方がないので、上に登り一山越えれば県道に出られるはずだ。

 取り敢えず雨宿りの場所を求めて斜面を登っていて、笹が覆い被さるようになった斜面の窪みを見つけた。

 幸い地面の枯れ葉も濡れておらず、万が一の野営には好都合なので利用することにした。

 渓流釣りに来るときは常に野宿用の装備と非常食は持っている。

 笹の葉が庇になった所で濡れた服を着替えてから奥に足を踏み入れて、あっと思ったところで身動き出来なくなった。


 不味った、窪みに枯れ葉が積もっていた所に踏み込んでしまったようで、怪我の痛みなどないが、身体が動かないって事は不活性ガスでの酸欠か?

 こんな所で死んだら遺体も見つけてもらえない。


 んな事を考えているのに意識が途切れない、それどころか手足の感覚が無いのに意識だけははっきりしていて・・・神様は出て来ないなぁ。

 神様仏様アッラーの神よ、意識があるのなら輪廻転生の輪に・・・それなら仏様にお祈りすれば良いのかな。

 薄ぼんやりとした感じの中で、長い時を過ごしていたようだった。


 そして突然浮遊感か落下しているのか身体が、心が引っ張られていく。

 そして暖かい所から肌寒い所に放り出されたが、これが新たな誕生だと気づいたのは暫くしてからだった。


 * * * * * * *


 ゲップが出ると背中をトントンと叩かれてベッドに寝かされる毎日で、周囲が見え始めると想像通り赤ん坊になっている。

 輪廻転生に間違いないのだが、俺の記憶ははっきりしている。


 日本人高須浩一。享年27才。渓流釣りの最中に土砂降りの雨に遭い、避難中の事故により死亡。

 まぁ、渓流釣りに出ての行方不明扱いになるんだろうな。

 車を下流の空き地に止めているので捜索はされるだろうが、あの天気じゃ流されて死んだものと見做されて捜索打ち切りかな。


 家族仲は良くも悪くもなくあっさりした関係で、一人暮らしの俺が消えたところでさして悲しむこともなかろうと思う。

 大した額ではないが、保険の死亡特約で両親の老後の足しにはなるだろう。

 心残りは読みかけのラノベの結末が気になるが、こればっかりはどうしようもないので諦めた。


 周囲が見渡せるようになり判った事は、石壁の家で貧しい世帯のようだが、母さんが美人だった事。

 見事なおっぱいに眼福だと喜んだが、食欲に負けてしまったのは一世一代の不覚だ。

 そして不覚に嘆いていたが、魔法が存在するではないか!

 何せオムツを交換したら、母さんがクリーンと唱えると極僅かな光りのようなものに包まれてさっぱりした。


 情報量が少なすぎるが、魔法の存在する世界のようだ。

 そしてラノベで定番の異世界転生そっくりなのには笑ってしまったが、あーとかうーとかの喃語しか喋れないので笑いにもならなかった。


 * * * * * * *


 喃語の発声練習を始めたがここで困った。

 前世の記憶を持って生まれているので迂闊な言葉を発する訳にはいかない。

 この世界の言葉は両親や兄弟達から話しかけられて、それを聞いていれば自然に理解出来るようになったが、いきなりぺらぺらと喋れば大騒ぎ確実だ。


 結果として無口な子供を演じることになり、無口で偏屈な子供と思われた。

 平成の世から見知らぬ世界に生まれ変わったのだ、基本的な考え方が合わないのは仕方がない。


 それに両親と姉に兄二人がいて、両親は仕事に出て不在なので三男坊の俺の面倒は姉が見てくれている。

 九つ年上の姉とはいえ日本ではまだ小学生で、兄二人もまるでがきんちょなので話が合わない。


 五才になる頃にはこの世界の事も少しは判り始めたが、まるでラノベで読んだ世界で呆れてしまった。

 ラノベの作者はこの世界から日本に転生したに違いないと確信した。

 いや逆か、前世世界からこの地に転生して度量衡を前世に合わせたのではないかと推測する。

 そしてこの世界から再び日本に・・・あー面倒くさい!


 一日は24時間で一月は30日、一年は360日で十二ヶ月と閏年が無い。

 一週間は六日で五の週迄の簡単極まりない事。

 月は・・・まだ月を見たことがないが、赤い大きな月でないことを祈ろう。


 通貨は貨幣だが十進法で単位はダーラ。

 最低貨幣は100ダーラで、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨の四種。

 鉄貨は100ダーラ

 銅貨は1,000ダーラ

 銀貨は10,000ダーラ

 金貨は100,000ダーラ

 100ダーラ以下の貨幣は存在せず、商品は100ダーラからの抱き合わせ販売となる。

 江戸時代の一文銭なんてのが存在したら、数えるのが大変だし重くて敵わないので妥当なところかな。


 長さの単位は㎝、m、㎞で、重さはg、㎏。t、と馴染みの単位なので有り難い。

 絶対に居るだろう転生者に感謝。


 ラノベの設定で良く有る中世ヨーロッパ風で、機械文明には程遠く魔法とスキルが存在する世界。

 今のところは母親の生活魔法しか見た事がないので、どの様な魔法が存在するのかは不明。

 ちょいワクテカしている自分がいるが、独り立ちまで先が長そうだ。


 * * * * * * *


 下手な質問は前世の事を知られそうなので、耳からの情報だけを頼りに漸く家族の全体像が判ってきた。


 父親、ハロルド、60才。

 母親、ベティ、54才。

 長女、ベリンダ、15才で九つ年上。

 長男、モリス、13才で七つ年上。

 次男、ラルフ、10才で四つ年上。

 末っ子の俺は、6月生まれで現在6才。


 長女のベリンダは一月生まれの15才なので、授けの儀で水魔法、調薬スキル、調理スキル、裁縫スキルを授かっている。


 これ幸いとベリンダから魔法の事をあれこれと尋ねて判った事は、この世界には十大魔法と数多のスキルが存在するらしく、創造神フェリーシェンヌ様よりそれらを授かること。

 スキルを授からなくても、練習次第では授かったスキルよりも優れたスキルの使い手になる事もあるらしこと。

 ベリンダは調薬スキルを授かったので、巣立ちの儀を迎えたら薬師になるつもりらしい。


 十大魔法とは、風魔法、水魔法、火魔法、土魔法、雷撃魔法、氷結魔法、結界魔法、転移魔法、収納魔法、治癒魔法。


 スキルとは、ベリンダが授かった調薬スキルを含む仕事に役立つ鑑定スキル等で、それとは別に生活に役立つ調理スキルや裁縫スキルなどが存在する。

 それ以外に人に知られていなくても、何かに特化して優れている場合はスキルとして発現するらしい。


 割と知られているのではテイマースキルで普通は牛馬を使役するものだが、冒険者達は野獣を仔の時から育てて使役している者がいるらしく、そんな時にはテイマースキルを獲得しているそうだ。


 近所の小母ちゃん連中の井戸端会議から仕入れた知識では、父はエールの醸造所に勤めていて母はホテルの食堂で調理の補助をしている。

 四人兄弟の末っ子で三男坊の俺は、授けの儀の結果次第では巣立ちの日を迎えたら何処かに奉公に出るか、冒険者になるほかなさそうだ。


 * * * * * * *


 九才から教会で基礎学習を習うために通い始めたが、程なくして生活魔法が発現した。

 母と姉は喜んでくれて早速教会に出向き、喜捨を奮発して魔力を測ってもらうと魔力27と判った。

 生活魔法の魔力は7以上有れば何とか生活魔法が使えるし、魔力が27なら魔法を授かる確率が高いそうだ。

 ただ魔力10前後では生活魔法が使えない者もいるらしく、次兄のラルフが魔力8でこれに当たる。


 俺の事を知ったラルフは不機嫌になってしまった。

 家族六人のなかで生活魔法が使えないのはラルフだけなので無理もない。

 親父と長兄は何とか使えて魔力も12と11、母と姉は魔力が16と25だったので俺が家族の中で一番魔力が多い事になる。


 因みに生活魔法が発現する10才前後には魔力測定が可能となるが、病弱な者は魔力が低くて10以下の事が多いらしい。

 魔力が5以下の者で10才を越えて生きている者は先ずいないそうで、5~10では身体の弱い者が多いと聞いた。

 そして生活魔法が発現した時点で魔力が20以上有れば魔法を授かる確率が高く、姉のベリンダも水魔法を授かり魔力が60と増えている。


 ただこの授けの儀が曲者で、生活魔法の時は魔力が29が最高らしいがそれでも魔法を授かる保証はない。

 確率が高いだけらしくて、授けの儀に100人参加して20~30人程度しか魔法を授からない。

 魔法を授かっても魔力が僅かしか増えなければ、魔法が使えるようになっても直ぐに魔力切れを起こして倒れてしまうそうだ。

 なので元々魔力が少ない者は授けの儀を受けても無駄なので参加しないらしい。

 攻撃魔法や治癒魔法を授かり、魔力が75以上でも自由に魔法が使える者となると半数以下と聞いた。


 俺は三男で四人兄弟の末っ子、姉のベリンダが薬師ギルドで修行をしているが一人前になるのには時間が掛かる。

 長兄のモリスは今年巣立ちの儀を迎えたら、親父の働くエールの醸造所で見習いとして働くと言っている。

 次兄ラルフは今年13才になり基礎教育が終わるので、ホテルの手伝いでもして小銭を稼ぎながら仕事を探すつもりだそうだ。


 俺は母から魔力溜りを感知する方法と、魔力操作の基本を教えて貰う事になった。

 この時に初めて母さんが猫人族とエルフのハーフだと知り驚いた。

 だって母さんはとっても綺麗だけれど、見た目は猫人に近くてエルフの特徴といっても綺麗なのと、猫人にしては背が高い程度だからだ。


 その点親父は銀狼族の見た目そのままで、銀髪に鋭い目付きに頑丈な体躯と何処から見ても銀狼族100%

 姉さんも母さん似で、俺がそれに続いているらしい。

 俺って猫人とエルフが1/4ずつに銀狼族が1/2と初めて知ったよ。

 赤ん坊の時から見慣れていて、気にしていなかったからなぁ。


 因みに長兄のモリスは親父を優男にした感じで、次兄のラルフはエルフ寄りの銀狼族って感じだそうだ。

 俺は?の問いには、あんたは未だ子供だけど私に似て猫人族が強く出ていると言われた。

 母さんは半分エルフの血が流れていても魔力が少なくて、魔法を授かっていないなんて不思議な感じだった。

 まっ、100%エルフでも魔力が少なく魔法を授からない者は結構いるとは言ってたけどな。


 *** 何時ものお願い。 ***


 誤字脱字衍字などは、ご指摘の場所の前後をコピペして、問題の箇所を〔〕で示してくれると助かりますので、無学伏してお願い申し上げます。


 例、誤字脱〔〕衍字などは、ご指摘の場所〔が〕前後をコピペし〔て〕て、のように問題の箇所を〔〕で示して下さい。


 (o_ _)o ヘヘー タノムゾー

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