第8話 試練 ―― 天童 香との面会


 目覚めると白い大きな部屋と天井を照らす蛍光灯の光が見えた。

 近くにはナース服を着た看護師と白衣を着た医者がいた。

 どうやら心臓の音を聴きながら点滴を交換していたらしい。

 診察が終わると担当医から指示された場所に向かうように言われた。

 星野はそこに行き、三回扉をノックした。

 返事はない。

 なので、ゆっくりと扉を開ける。


「来たか。私はアヴァロン中央総司令部の副司令官。天童香だ。そんなに緊張しなくていい。とりあえずもっと中に入れ」


 扉を開けた先に待っていたのは、色気がある美女。

 皺のない軍服に身を包んだ彼女には大人の魅力があった。


 全体的に細めでやせ型の女性。

 一見ひ弱そうに見えた。

 けど、死線を乗り越えてきた風格みたいなのを感じられる。

 そのため、妙に緊張してしまう星野。


「話は聞いている。今回の一件大変だったな」


「はい。でも皆さんの力を借りることでなんとか生きて帰ることができました」


「そうだな。それで調子はどうだ?」


「おかげさまで任務前と同じぐらいに動けます」


「うむ。それはよかった」


 厳格な表情から笑みが生まれた。

 星野は緊張が解けてきたのでさり気なく周りを観察してみる。

 まず高級感溢れる広い空間が視界に入る。

 そして来客用と思われる2人掛けソファーが向かい合わせで置かれていた。

 細部にまでこだったデザインは司令室に上品な印象を与え、生活に豊かな彩りを与えているように見える。スマートなフォルムと色合いも部屋にマッチしている。

 ソファーの間に置かれた大理石でできた高級感溢れるローテーブル。

 これもいい味を出している。

 

 すぐ近くには印象的な大きな葉が特徴的なオーガスタが飾られている。


 花言葉はたしか。


『輝かしい未来』だっただろうか。


 その他にも縁起の良い物がチラホラと置かれていた。

 けど、どれも末端の人間では手が出ない物ばかり。


「基本的にある程度の戦場経験と加護が扱えるようになって副隊長に昇進するのだが、報告書を見る限り君は先日加護を使ったようだな。どの程度一人で扱える? できれば副隊長程度には使えて欲しいのだが」


 その質問に、星野は当時のことを思いだす。

 しかし難しい仕組みなどはわからないので、ありのままを話す星野。

 ところどころ知識の欠如からふわふわした内容になってしまう場面がでてくる。

 それでも天童は最後まで真剣に耳を傾け続けた。


「ふむっ。つまり加護の強制解放までか」


 星野は静かに次の言葉を待つ。

 そんな星野の前で天童がなにかを考え腕を組む。

 服がパンパンにはち切れそうなって大きな胸が強調される。

 いつボタンが弾け飛んでも可笑しくない状況。

 それに思わずかぶりつきたくなるような弾力が見てわかる。

 男なら思わず一度あの大きな胸の間に顔を埋めてみたいと……。


「これでは建前で隊を任せることもできない。やれやれだ」 


 その言葉に苦笑いで誤魔化す星野。

 現実に戻された思考は落ち込む。

 そもそも権限の関係で星野に閲覧が許された情報は少ない。

 なので階級が上の者と会話をすれば必然的にこうなる。

 それはここに来る前から薄々わかっていた。

 なので心理的なダメージは少ない。

 けど、実際に言われるとクルものがある。


「だが、それも一興!」


 思いにもよらない言葉に「えっ?」驚く星野。


「加護の強制解放はお互いの波長が合わないとそもそもできない。ならば波長が会う者同士なら問題ないというわけだ」


 突然笑みを浮かべた天童にゾッとする星野。


「これをお前にやる」


 天道は自分のデスクの上に置いてあった封筒の一つを手に取り投げる。


「そこには次のお前の任務が書かれている」


 最初に比べて、感情が見えて接しやすさを感じた星野は質問する。


「この手際……もしかして最初から決定してました?」


「さぁな? でもお前は家族の復習がしたいのだろう? 軍の志願理由にそう書いていたはずだ。その一歩欲しくないか?」


 息を呑み込む星野。

 これはチャンスだ。そう思わずにはいられない。

 星野はこの世界に来て、生きるノウハウや自分たちですらその日生きるのが大変なぐらいに貧しいながら衣食住を提供してくれた、この世界でできた家族を目の前で皆殺しにしたある人型のファーレンを殺したくて、戦場で戦うことを決めた。

 そいつは圧倒的な力で当時星野が住んでいた村人全員と派遣された隊長率いる小隊をたった一機で皆殺しにした。運よく廃墟の下敷きとなって敵に見つからなかった星野だけが唯一の生存者だった。


「失礼します」


 星野は一度頭を下げて、副司令官室を出て行った。

 一人残った副司令官室では。


「やれやれ。装備が不十分なBランク適合者3人だけで二等級が出てきた戦場を初任務で生還など勘弁して欲しいものだ。しかも加護の強制解放を初めてでありながら、三人同時にしただと? 異例中の異例なんだよお前は……。研究素材にされて殺されたくなかったら精々研究素材には惜しい人材にはなれ新米」


 一つ大きな荷が下りた天童は煙草に火を付けた。


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