宇宙を飛ぶ夢
がらがらと、キャリーケースが床を走る音が、マイアミ国際空港に響いた。
「ふろーりだーすぺぇすせんたぁ」
夫婦に見える一対の男女は、片手でキャリーを引っ張り、片手で四歳ほどの幼児の手を繋いでいる。幼児は小さなバックパックを背負い、るんるんと声を上げて、ぴょんぴょんとはしゃぐ。
「ルック、地面に気を付けなさい! まったくもう、スペースセンターではしゃぐのはアンドレイと同じね」
「はは、これが旅行さ。ルックが喜んでくれれば休暇を取れて良かったと思うよ。なあ、ルック?」とアンドリューはルックを抱き上げる。
「すぺぇすせんたぁ、きたいしてる!」
「そうかそうか、今回のメインだもんな。だけど南フロリダはスペースセンターだけじゃないぞ?」
アンドリューはルックを片腕に乗せて、東を指差す。そこに龍の如く天を貫いた、人間の知恵の結晶があった。
「見えるか、ルック? 遠くいて雲の上まで伸びてるのはな、いつか僕たちの夢を叶えてくれる
「いんた……すぺぇす……えれべえた」
「ああ、スペースエレベーターだ。いつかコロニーができたら、三人で遊びに行こう」
「うん、いこう!」
「見たかケーティ、ルックも行こうって。あーうちの息子はなんてかわいいんだ」
ルックにすりすりと顔を擦りつけているアンドリューと対照に、やれやれと彼を見るケイト。彼女はふと携帯式の電子時計に視線を落とす。
「ああ、列車の時間が! アンドレイ、間に合わないわよ!」
「なんだって!」とアンドリューは慌ててルックを肩車する。「よし、宇宙船アンドレイ号、全力前進ー!」
「ぜんりょくぜんしーん!」
三人を乗せた電磁列車の向かう先は、ISEの近くにあるステーション。三人の目的地はまだ民間人に開放されていないISEではなく、2410年代に新しく建てられたスペースセンターだ。
三人は荷物を予約したホテルに置いて休憩する。まだ昼間なのだが、スペースセンターツアーは翌日だ。本日はホテルの風呂からISEを眺めながらゆっくりする日だ。
まだ幼いルックはケイトの膝の上ですうすうと寝てしまった。
「寝たのか。疲れたもんな」
「しーっ、起こしちゃうでしょ」
「ケーティも肩の力を抜いたらどうだ。年に一度の旅行だぞ」
「ごめんね。どうしても警戒してしまうわ。仕事柄で……」と彼女はルックの髪を優しく撫でる。「私たちのせいで、ルックが不幸になってほしくないわ」
「……ああ。心配するな。僕がいる、君がいる。僕たちに勝てる
「ええ、そうね……。あなたの言った通りだと思うわ」
一抹の不安が彼女の心にあった。何年ものの経験からの勘なのか。ケイトはルックの小さい手を握る。
夢を見ているルックはぎゅっとケイトの服を掴む。
「むにゃ……うちゅう……さんにんで……いく……」
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