第19話:存在の消去と、別邸の魔改造計画
ローゼは、埃っぽい保管室で、通信魔導具を通じて王子の大規模な捜索のログを確認した。王国の情報網は、公爵邸の転移直前の魔力痕跡を追跡しようと血眼になっている。
「ふん。私を『悪役』として連れ戻したいだけのくせに、これほど王国中のリソースを使うとは。面倒くさいを通り越して、執念深いストーカーだな」
ローゼの次の最優先事項は、この新たな要塞(別邸)の存在そのものをシステムから消すことだった。
(この別邸は、元々公爵家の予備魔力炉に繋がっている。その魔力炉を操作し、過去のログを偽装すればいい)
ローゼは、別邸の予備魔力炉にリモート接続し、【CODE: FAKE_TRACE】を実行した。
CODE:FAKE_TRACE
実行! 目的:「アストライア領転移」の痕跡を、『大規模な魔力暴走事故』のデータに上書きする。
このコードにより、王国の情報機関が追跡するログには、ローゼの領地転移の記録ではなく、「公爵領の最終崩壊は、魔力暴走によるもの」という偽装データが流れる。これで王子は、ローゼの行方を追うための最初の糸口を完全に失った。
「世界最高の究極の引きこもり」とは、存在そのものをシステムから消すこと。ローゼは、自宅にいながらにして、王国全体を欺くという偉業を成し遂げた。
外部からの追跡を一時的に遮断したローゼは、ようやく内政に集中できる状況となった。目の前にあるのは、石造りの冷たい壁と、埃を被った予備の魔力炉だけである。
「よし。ここからが本番だ。最高の引きこもり生活は、最高のQOLから生まれる」
ローゼは、崩壊した領地からアルフレッドが送ってきた魔導具の部品と保存食料を開封した。彼女の『引きこもり要塞、再起動計画』の核は、この埃っぽい地下室を、以前のデバッグルーム以上に快適で高機能な空間に変えることだ。
ローゼは、まず防音・防振結界の構築に取り掛かった。
(隣の部屋の音が聞こえるなんて、ニートとして最大の屈辱だ。絶対に完璧な防音壁を築く。ついでに、地上の使用人からの視線を完全に遮断する結界も必須だ)
ローゼは、女性の体ながらも、前世のハードウェア知識と魔導工学を組み合わせ、壁に防音・吸音機能を持つ魔力結晶を緻密に配置していく。その作業は、世界支配の計画以上に、ローゼにとって真剣なものだった。
一方、別邸の地上では、リリアが未だに呆然としていた。彼女は、ローゼの「安定の欺瞞コード」によってシステムノイズが消失したと錯覚し、無意識の修復活動を停止している。
リリアは、公爵邸の使用人たちによって保護され、別邸の客室で静かに過ごしていた。彼女に接触したのは、ローゼの指示を受けた執事のアルフレッドだった。
アルフレッドは、リリアに「この屋敷の異常」を悟られないよう、完璧な執事の仮面を被って対応する。
「リリア様。奥様(ローゼ)は、今、『神の啓示』を受けるため、深くお籠りになられています。どうか、ご安心してお過ごしください」
アルフレッドは、リリアの平民としての素朴な優しさに触れ、ローゼの「悪役」というイメージに違和感を覚え始めていた。この執事の心情の変化は、ローゼが自宅内でシステムの駒ではない人間関係という、新たな面倒事を発生させることとなる...
ローゼは、地下室の改造を進めながら、AI_MANAGERのログを監視し続けた。
SYSTEM:AI_MANAGER
警告:ローゼの転移、ログ追跡不可能。
認識:ローゼの行動は、システムの想定外を連続で引き起こしている。
最終目標:ローゼの『引きこもり要塞』を再特定し、物理的な強制連行イベントを準備します。
AI_MANAGERは、ローゼの「存在の消去」コードにより、彼女の位置情報を完全に失っていた。この事実は、ローゼにとって最高の安心材料だった。
ローゼは、完成しかけた防音壁に触れながら、満足げに微笑んだ。
「ふふ。これで、当面は誰も私を見つけられない。世界最高の引きこもりとは、最高の無職であること。そして、最高の無職とは、存在しない者となることだ!」
ローゼの戦いは、「世界とのシステム戦」から「自宅内の環境構築」という、究極の自己満足を追求するニートの精神戦へとフェーズ移行した。
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