『だぶんぐる版・国に選ばれた勇者の俺、パーティーにいらないと思って追放した万能士《レンジャー》は、実は超優秀なチートスキル持ちでした』(原作:@h-ar-u 様)

だぶんぐる

『だぶんぐる版・国に選ばれた勇者の俺、パーティーにいらないと思って追放した万能士《レンジャー》は、実は超優秀なチートスキル持ちでした』

【前書き】

本作は、自主企画『あなたの作品を原作で書かせてもらえませんか?』の応募作。

『@h-ar-u』様の『国に選ばれた勇者の俺、パーティーにいらないと思って追放した万能士レンジャーは、実は超優秀なチートスキル持ちでした』を原案にだぶんぐる改変で書かせていただいております。

また、原作連載中の為、敢えて方向性をズラさせていただいておりますし、短編に纏める為に変更や色々と勝手な想像による補完をさせていただいております。違いを楽しんで頂けると嬉しいです。

@h-ar-u様、ご提供ありがとうございます。是非、原作もお読みください。




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『-長い歴史を持つエリラント王国には多数の勇者が国に選ばれ歴史にその名を残している。人に歴代の勇者で印象深いものは誰かと問えば、多くの者がある勇者を挙げる。その者は勇者として選ばれたが、後に王国歴でも唯一無二の英雄という称号で呼ばれる存在をあろうことか追放し、史上最も器の小さな勇者と呼ばれた。その勇者の名は―』

(エリラント王国史・勇者と英雄の章より)






「お前はパーティーには要らない! 今すぐ出て行け!」


 俺の鋭い声に驚き、ゆらゆらと揺れたように見える焚火の向こう側で万能士レンジャーであるアルターは言っている意味が理解できない様子で茫然としていた。


「ど、どうし、て……」


 くしゃりと自分の黒髪を掴みながらアルターは歪んだ顔で声を詰まらせる。

 アルター自身も俺の言わんとしていることを理解しているからだろう。ただただ髪と同じく真っ黒な瞳を俺に向けたままどうすればいいのか必死に考えているようだ。


 俺は……アルターがうっとおしかった。

 アルターさえいなければ、もっとスムーズに冒険できるのにとずっと思っていた。


 やっと……やっとスッキリする。


 俺が自分でも自慢の青髪を掻き上げ口を開こうとした瞬間、アルターが話し出す。


「どうしてだよ! レイン! 今までも一緒にやってきたじゃないか!?」


 アルターが焦ったような表情で俺の名を呼び、睨みつける。


 レイン・ナイトレット。


 それが俺の名前であり、今の勇者の名前でもある。



 そう、俺はエリラント王国に選ばれた勇者。

 その俺のパーティーに『アイツ』は、『ただの荷物運び』でしかないアルターはもういらない。


「……確かに、俺とお前、それにフィリアやエルセーヌもパーティー結成時から、いや、それよりもずっと前から幼馴染として一緒だった」


「そ、そうだよ! 僕たち、ずっと一緒だったでしょ! ねえ!? フィリア! エルセーヌ!」



 アルターは、助けを求めるように俺達の両側で焚火を挟んでいる二人を見る。銀髪ボブカットでグラマラスな美女回復術士のフィリスも黒髪ロングスレンダー美女魔導士のエルセーヌも気まずそうな表情を浮かべるだけでアルターの方を見ない。


 誰もが分かっているからだ。アルター追放の理由を。


「アルター、お前も分かってるだろ。お前の天賜てんしじゃあ、この先の俺達にはついていけないに決まってる!」


「う……!」



 俺がビシッとアルターに向かって指を差し告げると、唇を噛み、顔を俯かせる。



 天賜。


 俺達の住むエリラント王国では16歳で大人として認められ、街にある教会でそれぞれ固有の能力を与えられる。その能力のことを天賜と呼ぶ。


 天賜には沢山の種類があり、《剣》や《盾》、《回復》や《魔法》といった冒険者向きの天賜から、《大工》や《鍛冶》などの職人向きの天賜も存在する。


 そして、エリラント王国民は自分の天賜に合った職業ジョブを選ぶことが殆どであり、《回復》の天賜の中でも最上級である《回復聖》の天賜を持つフィリスは回復術士を選んだし、《魔法聖》の天賜を持つエルセーヌは魔導士を選んだ。

 俺は《剣》の天賜の最上級である《剣聖》の天賜を持っており、この天賜は勇者の証と言われ、俺は国から選ばれ勇者となった。


 だが、万能士であるアルターの天賜は……。



「でも、僕の《格納》の天賜は便利だよ!」



 そう、アルターの天賜は《格納》。黒い穴を作り出し、異空間に物を収納できるというもの。

 確かに冒険者には必要なものは多いし、物を沢山準備出来れば便利だ。アルターも今まで荷物の運搬やら食事の準備や買い出しなどよくやってくれたのは間違いない。



「これからも荷物持ちでも何でもやるし……」



 アルターがしおらしい態度を見せ、俺達と一緒にいたいと懇願してくる。

 その様子を見せられると俺は……どうにも湧き上がる苛立ちを押さえられなくなりそうになる。

 必死に抑え込みながら口角を上げ俺はアルターに『事実』を告げる。



「確かに、お前の《格納》の天賜は便利だと思うぜ。だがな、荷物を収納するだけならこの前の依頼クエストで得た報酬の補助魔法で習得したし、別にお前がいなくてもいいんだよ!」


「ちょっとレイン! 流石に強く言い過ぎだと思うよ」



 じっと俺とアルターのやりとりを聞いていたフィリアが我慢できなくなったのかその美しい銀髪を揺らしながら立ち上がり俺をじろっと見る。


 冒険の途中で立ち寄った街すべてで10人以上の男から求婚されるという伝説を生み出すほど整った顔立ちに見惚れそうになるが今はその時じゃあない。

 フィリアも理由は分かっているから今まで黙っていたわけだし、彼女自身の思いも分かっている俺はフィリアに対しては素直に頭を下げる。


「確かに、言い過ぎたかもしれない。すまない、フィリア。だが、俺の言いたいことも分かるだろう?」


 俺の先制攻撃に面食らったフィリアの目を見つめる。フィリアは散々彷徨わせた視線をアルターに向け優しい声色で説得を始める。



「そう、だね……。ねえ、アルター。レインの言い方は酷かったけどね、私もアルターがパーティーを離れるのは賛成だよ」


「そんな……フィリアまで……」



 フィリアが優しい天使のような声で説得してくれているというのにアルターは、ただただショックだ、みたいな表情を浮かべている。俺はアルターの察しの悪さに苛立つが、天使フィリアは違った。理解力のないアルターの為に親切丁寧に1から10まで説明してくれる。



「だって、危険じゃない? 私達は、王国に選ばれた勇者であるレインがリーダーを務める勇者パーティーなんだよ? 受ける依頼クエストも高ランク。もしこれからより危険なクエストに当たって私でも治療できない大怪我を負ったらどうするの?」



 危険なクエストと言われアルターは悔しそうに右腕をぎゅっと掴む。そこには傷も何もないし痛みもないはず。回復聖の天賜を持つフィリスが治したのだから。

 この前のクエストで大怪我を負ったアルターの右腕を。


 クエストにはランクがある。S、A、B、C……とランクが下がっていけばいくほど危険度も下がっていき、最終的には子どものお使いみたいなものまである。


 俺達、勇者パーティーが引き受けるのはいつも危険なクエスト。その中でアルターはそもそも戦闘向きではない天賜だったから随分前から戦いでは足を引っ張っていて、この前のクエストではそれを決定づけるような大怪我を負った。



「そうだね。僕のせいでみんなに迷惑をかけるのは申し訳ない」



 もっと早く気づけよ馬鹿野郎、という言葉を飲み込み、俺はただ頷いた。

 すると、ずっと静かだったエルセーヌが立ち上がり、アルターに謝罪の言葉を告げる。



「ごめんね、アルター。別れるのは寂しいけど、アタシもこれ以上アルターに危ない目にあってほしくない。だから……」



 エルセーヌは幼い頃からアルターと1番仲が良かった。その彼女が俺の意見に賛成してくれるならもう確定だろう。


 エルセーヌの美しい黒髪とスレンダーな身体という絵画の如き美しさの後姿を見ながら俺は伸びる鼻の下を、さも本気でアルターのことを悩み抜いたんだというような苦悶の表情を作り必死で抑え込む。


 ちらりと涙ぐみながら二人を見て微笑んでいるフィリアを盗み見る。

 銀髪ボブカットがよく似合う美しい顔に回復術士の服の上からでも良く分かるスタイルの良さ……胸! 尻!


 ふおおおおおおおおおおおお……お、お、おぅん……。


 俺は地面につくくらい伸びそうな勢いの鼻の下を、目じりを押さえるように手で顔を隠し誤魔化すてんさいのしょぎょう。



 計画通り。



 手で隠しているのをいいことに思い切り口角を上げ笑顔を浮かべる。笑いがこみあげてきて身体も震えているがこれも泣いている感じに見えているに違いない。


 そう、全ては、菓子の袋に厳重に隠し『読んだら死ぬ』と注意書きをしておいた俺の秘密のノートに書いた計画の通りだ。


 俺のハーレムプロジェクトの。


 パーティーってのは昔から4人が原則になっていて、それは国から選ばれた勇者の俺でも例外ではなく絶対に4人。


 俺は……男の俺1、美女3のハーレムパーティーがっ!!! 組みたいっっっ!!!


 勿論、声には出さない。飽くまで紳士で勇者でクールな俺を装う。


 だが、俺の心は叫び続けていた!



 ハーレム! ハーレム! ハーレム! モテたい! モテたい! モテたい! イチャイチャしたい! イチャイチャしたい! イチャイチャしたい! と!!!!



 その為には、アルターは邪魔な存在でしかなかった。4人が定員である以上アルターがいる限りハーレムはつくれない。その上、何故かアルターの方がいつの間にか美女達とエンカウントしまくってるし、ちょっとやさしくしただけで好意を持たれているっぽい!


 エロいことには興味ないみたいな顔してちゃっかりモテムーブをするなんてズルすぎるだろ!


 ちなみに、俺はエロいことは勿論興味はある! だが、顔には出さない。紳士だから。

 だが、酒場での男同士の馬鹿トークでは盛り上がる。しかし、アルターはそんな話には興味がないのか準備で忙しいからと野郎どもの輪に加わらないのだ。


 そして、大体美女とエンカウントしてやがるんだ!!!!


 なので、アルターは追放。それは俺の中で決定事項だった。

 フィリスの言う通り何もしなくてもこれからどんどんクエストが危険になれば死んでいなくなる可能性はあったが、流石にそれは後味が悪い。なので、追放。

 しかも、お前の為って体で追い出すことで優しいレインを演出できるという正にてんさいのしょぎょう!


 アルターも今まで足を引っ張っていた自覚があるのだろう、エルセーヌの言葉にも何も言い返せずぐっと唇を噛んで拳を震わせている。



 だけど、《格納》の天賜しかもっていないお前に出来ることはほとんどないだろう?



 アルターは暫く考え込み、そして、顔を上げ悲しそうに笑うと宣言した。



「そうだね。僕のせいでみんなに迷惑をかけるのは申し訳ない」



 ぐぷと俺の中で何かがせりあがってくる。

 そうだ。俺の中で、一番アイツが、アルターが気に喰わない理由。


 アイツのあの感じだ。

 あの僕は我慢します顔が一番気に入らないんだ。


 だが、それももう見なくていい。


 俺はみんなに倣い立ち上がる。揺らめく焚火の明かりに照らされ夕暮れみたいな色に染まるアルターのむかつく笑みを受け流し、微笑みながら告げる。



「というわけだ。アルター、お前とはここでお別れだ。今までありがとうな」


「うん。僕もみんなを不安にさせたくない。今までありがとう。またどこかで会おうね」



 僕もみんなを不安にさせたくないのならもっと早くに出来ることがあっただろ。


 俺はその言葉を飲み込み、アルターに背を向け明日に備える。



 さあ! 明日からは忙しいぞお! 俺のハーレム勇者としての伝説が始まるんだから!!



 だが。


 このアルターとの別れが、天才である俺の予想をはるかに超えた物語の始まりだったなんてこの時の俺は、知る由もなかった。


 いきなり、アルターと別れてすぐの話になる。

 それからして俺にとって予想外の連続だった。



「まずは! アルターの代わりの仲間探しだ!」



 条件を提示し、希望する人間を募る。条件は非常に理にかなったものだ。


 勇者パーティー新メンバー急募

 希望職種 盾士or弓士or鑑定士

 希望天賜ランク S


 追記 性別不問!(本当に女性でも大歓迎!)



 最後の一文は俺のこだわりだった。



「……レイン、その女性でも大歓迎って、ちょっと強調しすぎじゃない?」



 フィリアは怪訝な表情で俺を見て訪ねてくるし、エルセーヌも腕を組み何やら考え込んでいる様子。


 ま、まずい! この俺の威厳が!

 ……なーんてな。こうなることも俺は予想済み。俺は二人に向かって用意していた『解答』を言う。



「確かに、そうかもな。だが、これは別に邪な意図があるわけじゃあない。男の方が単純な筋力があるから強いイメージはある。だが、女性が弱いかと言われれば答えはノーだ。フィリアやエルセーヌのような美しく強い女性もいる。つまり、俺は自身のない人も歓迎って意味でこの文を付け加えたんだ」



 どうだ! この完璧な解答!

 理論も完璧な上に、フィリアやエルセーヌの好感度も爆上げだ!!!


 もちろん、俺の本音は『新たな美女を加えてハーレム作戦だぜ、うっひょー!』だが、これを知られればマジで嫌われるかもだから心の奥に封印しておく。


 ちらりと見るとまだフィリスとエルセーヌは疑いの眼差しを向けていた。

 何故だ!?

 だが、俺は天才勇者レイン。駄目押しの作戦も準備済みだ!



「そもそも重要なのは役職だろ。エリラント王国は今なお魔王軍の脅威に晒されている。俺達がやるべきことは魔王と魔王軍七幹部の撃破。その為に、俺達に足りない遠距離攻撃や防御、トラップやアイテム鑑定の質を高めるといったことが出来るSランク天賜を持つ人材を確保することだ。それに何も反していないんだからいいじゃないか」



 そう、飽くまで俺の付けた条件は、美女の登場確率を上げる為のものであり、入り口を広げようとしているもの。胸のサイズや顔のランクを条件に付ければ当然狭き門となり反感を買うのは当たり前だろう。だが、俺の出した文章は、初心者歓迎! とっても明るくて働きやすい職場です! みたいなもの。


 まあ、Sランク天賜という条件があまりにも狭き門だしな。天賜にはランク評価があり、俺やフィリス達のような聖のつく天賜はSランクでごく僅かな選ばれた人間しか持っていない。ちなみにアルターの【格納】はCランク。まあ、物を出し入れするだけの能力と言われているし仕方がないだろう。



「……まあ、レインの言う通りか。そうね、魔王達を倒す為にも……それに、パーティーを去ってくれたアルターの為にも、とびっきりの仲間を選ばないとね」



 はい出た! アルタァアアアア!

 別れてから女性陣がことあるごとにアルターの名前を出してくる。



「そうね。アルターはCランクの天賜でもあれだけすごかったんだもの。アルターが納得できるくらいの人材を見つけないと」



 はいアルタァアアアアアア2回目ぇえええ!


 エルセーヌもアルターの名前を出して、しかも、すごかったなんて言っている。

 いなくなったからって美化しすぎじゃないだろうか。

 大体、アイツはこの街にまだいるはず……



「ギャハハ! なんだこのアルターってやつ!」



 はいアルタァアアアアアア!

 と、下品な声がアルターの名前を呼んだことに反応して振り向くと、その声がよく似合う下品な顔の見知らぬ冒険者達が張り紙を見て爆笑している。



「見ろよコレ、募集板に“荷物持ち積極的にやります”だってよ!」


「誰がそんな募集出すんだよ! 正気か? いや逆に気になるわ! それが狙いか? すげえなこのアルターって馬鹿!」


「「ギャハハ!」」



 冒険者達がアルターの出している募集の張り紙を何度も見ては笑っている。

 此処に来てまだ間もない冒険者達なのだろう。周りの冒険者達、主に女冒険者達が剣呑な空気を放ち始めている。何より俺の両隣が……怖い!!!!



「ふ~ん、アイツら。アルターのこと何も知らない癖にねえ」


「アタシが……消す……!」



 くそう! なんでアルターばっかり女性冒険者にこんなにモテるんだよ!

 おかしいだろ! 俺の方がモテる為の努力をして、モテる作戦を練りまくってるってのにぃいい!


 グギギ……こ、う、な、れ、ば……!


 (主にアルターへの)怒りに震える俺はフィリスとエルセーヌを制し、笑っていた冒険者二人組のところに向かう。今は張り紙の傍にいた金髪の女性弓士の事モメているようだ。


 まさか! あの女性もアルターに騙されて!?


 くっそおおおおおおお! アルトゥワアアアアアアアアアアアア!



「《剣聖》の天賜よ……我が魂に応えよ!」



 俺は天賜を発現させ高速移動で女性と男共の間に割って入る。

 ちょっと金髪の女の子からいい匂いがした!



「な……! なんだ、てめえ!」



 しかし、その香りも一瞬酒臭い男くさい野郎共が俺に迫ってくる。



「落ち着け。俺は、勇者レイン。この募集しているアルターってのは俺の元パーティーメンバーでね。いくらヤツが《格納》というCランク天賜しか持ってないからって、あまり馬鹿にするのは男のやることじゃないぞ」



 俺は、激臭野郎共に出来るだけ紳士的に接してやる。アルターの天賜がCランクであることを伝えながらも、元パーティーメンバーに気配りも出来る優しい勇者様で女性陣の好感度もアップ間違いなしだろう。


 それに……俺は今後ろにいるであろう金髪弓士の子が気になって仕方なかった。

 高速移動で横切る瞬間、ちらっと見えたが……すっげえオッパイ大きかった!


 見たい! 後ろのオッパイが! 前のオッサンじゃなく!


 さりげなく後ろの女の子を制す振りをしてあわよくばちょっと当たったりしないかなと思って伸ばした手は空振り。まあいい、俺の振り返り勇者スマイルに見とれた瞬間にオッパイチェックしよう。そうしよう。



「大丈夫かな、おじょ「おい、てめえ! 勇者だかなんだか知らねえけど気取ってんじゃねえぞ!」」



 オッサンがオッパイを見ようとするのを邪魔してくる!

 俺の襟を掴んで臭い顔近づけてくんな! なんなら、ちょっとオッサンの雄ッパイが見えて、いやだああああああああああ!



「なんだあ~ビビってんのか!? おい! おい!」



 オッサンが調子に乗って俺を煽って襟を引っ張ってくる。面倒くせえ! こっちはモテたいから紳士的に対応してやってんのによ!

 ああ、後ろのオッパイが俺は見たいだけなのに! 前のオッサンが邪魔!

 オッパイ! オッサン! オッパイ! オッサン! 雄ッパイ! オッサン! オッパイ! オッサン! 雄ッパイ! オッサン! オ……オ……オッパアアアアアアイ!



「お、おっぱ……こ、これは!?」



 あまりの見たさのせいか幻覚で現れた大きなオッパイに手を伸ばすと、ねちょっという感覚。違う! これはオッパイじゃねえ! 油まみれの顔面だ!



「オッサンじゃねえかあああああああああああああああ!」



 掴んだオッサンをぶん投げて隣のオッサンにぶつけると二人とも吹っ飛んで壁にぶつかり気絶。ま、まあ、結果オーライだろう。それより!



「キミ、大丈夫だった、か、い……?」



 俺が振り返ると、そこにはオッパイはなく……いや、金髪の女の子はいなかった。



「あれ? さっきの子は?」


「ああ、さっきの子ならなんか慌てて走っていったわよ」



 そう言ったのは、オッサン冒険者達が吹っ飛んだことに満足そうなフィリア。


 な、そんな……! い、いや、分かったぞ! 助けに入った俺があまりにかっこよくて照れてしまったんだ! それで思わず駆け出しちゃったんだ! そうに違いない!



「ああ、そうだ。さっきの子、アルターの募集張り紙熱心に見てたし、アルターのところに来てくれるんじゃないかな!?」



 なあああああああああんでだよおおおおお!

 何故……何故、追放したアルターが俺のハーレムの邪魔をしてくるんだああああああ!


 だが、追放したはずのアルターが俺の計画の邪魔をしてくるのはこれだけではなかった。

 これは飽くまで始まりに過ぎなかったのだ……。



 一か月後。



 応募してきたメンバーの面接をする日。

 俺達が面接用に借りた一室の隣に奴はいた!



「まさか、アルターのトコロの面接と同じ日で部屋が隣同士になるなんてねー」


「あはは……そうだね。ま、まあ、僕は面接する側って言うよりしてもらう感じになりそうだけど……」



 嬉しそうなフィリアに迫られちょっと顔を赤くさせ頬を掻きながら照れているアルター。


 ナンデ?


 なんでアルターが?


 いや、確かにアルターも募集張り紙をしていた。だから、こういうことはあり得た。

 だが、何故俺が……



「アルター、ワタシ達の代わりにアルターと一緒に戦ってくれる仲間なんだからちゃんと選ぶのよ」



 エルセーヌはフィリアに対抗するようにアルターの腕をとってアルターに話しかけている。

 ちなみに、今、レインの両隣、空いてますよ。


 なんでだよおおおおおおお!



「あ、そっちのひ、一人目、来たみたいだよ。ウ、ウチも来たみたいだしお互いいい仲間に出会えるといいね」



 そう、そうだ。これは飽くまで面接。勇者パーティーに入る方がすごい奴に決まっている!


 アルターの言う通り、俺の方へ真っ直ぐ向かってくる冒険者とアルターの方へ向かってくる冒険者が……並んでみると分かる。圧倒的にウチに来たヤツの方が強そうだ! アルターのところに来たのなんて……身体は細い、デカいのなんてオッパイだけだ!



「ん?」



 オッパイ?


 ぎょえええええええええええええええええ!?


 よ、よく見ればアルターの方に来たのはこの前の金髪弓士の女の子、顔もかわいい! 何故アルターのほうにぃいいい!? 一方、俺の方に来たのは……



「盾士のサンドル・ケーロンだ。よろしく」



 マッチョで強そうな……男だ!



「わああああ! すっごい筋肉! これは頼りになりそうだね!」


「た、確かにな!」



 フィリスが嬉しそうにしているので、俺も笑顔で応える。

 だが、内心は腸煮えくり返っている!


 何故こっちはマッチョでアルターの方は美女なんだあああああああああ!



「では、面接と参りましょう。さ、レイン行きますよ。アルターも頑張ってね」


「う、うん。では、どうぞ」


「はーい! なんだか、かわいい荷物運びさんだねえ」



 金髪美女が笑ってアルターを可愛く揶揄っている。

 一方。



「ふむ、勇者もいい筋肉をしているな。素晴らしい!」



 マッチョ男が俺の筋肉を暑苦しく褒めてくる。

 俺はなんとか笑顔を作りながらサンドルを部屋に招き入れる。

 違う! 俺が求めているのはマッチョじゃない、ビッジョなんだ!


 だが、悔しいがサンドルは《火炎耐久》というSには届かないものの使えるAランク天賜の持ち主だったし、非常にまじめな感じで二人からも好印象だった。


 だが、俺がそれ以上に気になったのは……隣の様子だった。

 キャッキャと楽しそうな女子の声が聞こえて非常に腹立たしかった。


 アルターは、コミュニケーションが苦手とか言ってるくせに女子には気の利いたことが言えるから何故か大体女子と話す時は盛り上がっている。



 気になる……!



「おっと、靴紐が……失礼。ああ、フィリアやエルセーヌも気になったことがあれば聞いていてくれ」



 そう言って俺は靴紐をなおすふりをして屈むと



「《剣聖》の天賜よ……我が魂に応えよ(ボソッ)」



 こっそり天賜を発現させ、目にもとまらぬ突きで壁に穴をあける。そして、飽くまで自然に穴を覗く。


 すると……



「へええ~! アルターとウチって相性抜群じゃない!?」


「あはは! かもね!」



 あんぎゃあああああああああああああああああああああああ!

 あ、あ、あ、相性ぅうううううううううう!?

 あんちくしょうううううううううううううう!


 アルターとあの金髪美女が楽しそうに盛り上がってやがった!

 俺は現実から目を逸らし、面接に戻る。うん、マッチョ。能力は高い。男。


 涙が溢れてくる。


 何故、アルターのところばっかり……!



「ど、どうした勇者? 何故泣いている?」


「い、いや。君のような人材が来てくれるなんて嬉しくてね……だけど、俺達も最後の一人を決める重要な選択だからな。ちょっと考えさせてくれ」



 まだ女性冒険者が来ないと決まったわけではないし!


 サンドルは勿論だと男らしく頷き、去っていく。

 いいヤツではある。だが、男だ!


 次こそは女性が……!

 そう期待していると遠くから可愛らしい声が聞こえ、こっちに近づいてくる。


 きたきたきたー!


 と、思っていると、



『ゴメンね~! 遅れちゃったかも! まだ面接大丈夫かな!?』



 と、隣のアルターのところに入っていく!



「ぐ、ぅうううううう……!」


「レ、レイン!? どうしたの!?」


「ご、ごほん! い、いや! なんでもない。あの、そう! サンドルがいい人材だったからな! 悩みそうだなと! これからどんなメンバーが来てもアイツと比べちまうからな!」



 と、アルターへの恨みの余りに出てしまった声にそれらしい理由をつけて誤魔化す。

 二人はその理由に納得したようでそれ以上何も聞かない。そんな二人にバレないよう俺は頭を抱えて悩んでいる振りをして再び穴を覗く。



「あー悩ましいなやまっ……!」



 穴の向こうに居たのは青髪ショートのこれまた美女! エルセーヌのようなスレンダーな体型をしている。だが、お尻は彼女のほうが大きい。それもまたよしっ!


 って、ヨシ! じゃねーよ!


 何故、アイツのところにばかり美女が!

 俺のトコロには!



「鑑定士のマーラ・スチュアートだ。天賜はAランクの《博識》の……」



 はいオトコォオオオオオ!!


 もう鑑定士とかAランク天賜とかどうでもいい! 男!



「《博識》はアイテム情報が分かる優れた天賜ですね」


「いいじゃない。私達もドロップアイテムでの失敗は数多くあるもんね。レインなんかドロップアイテムの剣をすぐに使おうとしたんだけど、それが呪いの剣で1週間ゾンビ化してたんだから! あれは笑っちゃった!」



 俺の恥ずかし失敗エピソードなんてどうでもいい! 問題は男!


 マーラは礼儀正しく知性を感じさせるトークで二人から好印象を得ていた。

 あと、隣の青髪美女もアルターに対していい印象を抱いたみたいだった! くそう!


 ああ、俺のパーティーには女が来てくれない運命なのか……ひどいぜ、神様。


 そう思っていたら、最後のメンバーは……



「あのー、まだ面接、いいかな?」



 さっきの金髪美女! ポニーテールでスタイルも良く活発な印象の美女がこっちにも来てくれた!?



「なんで……? さっき、アルターのところで……」


「あー、見られてた? まあ、隠す事でもないしやっぱり自分を活かせるパーティーに入りたくてね。アルターのところでも話をさせてもらったんだけど……その、こっちも話させてもらえたらなあって、駄目、かな?」



 駄目じゃないぃいいいいいいいいいいい!

 めっちゃかわぃいいいいいいいいいいいいい!


 なんだ金髪ポニーテールの上目遣いって! めっちゃかわいいぞ!

 オッパイおっきいし!


 俺は勇者の速さで席につき、彼女への面接を始める。



「君良いね」


「え? ウチまだ自分の事何も喋ってないよ?」



 慌て過ぎた。だが、絶対に彼女は良い。俺の心がそう叫んでいる! 彼女はいいぞ! と!



「えと、ウチは弓士のカナ・ニホースト。天賜はSランクの弓聖」


「素晴らしい! 俺達と同じ《聖》を冠する天賜とは! ヨシ! 採用!」


「レイン、がっつきすぎじゃない? 落ち着いて」


「……! あ、あはは、そう言ってくれるのは嬉しいけどね、さっきも言われたみたいにアルターのところでも話をしていて……」



 くっそ! アルターめ!



「ウチは弓士だから。矢は多く持っていた方が良いからウチの天賜から考えると彼の天賜ってすっごく相性が良いの」



 確かに。


 弓士は魔力を必要としない遠距離が出来る有能な職業だが、矢の数に限りがある事や矢に対する出費が大きいというところを嫌がる冒険者パーティーもいる。

 俺達も収納魔法を覚えたが矢を大量に納める余裕はない。


 だが! だが! カナはかわいい!


 俺がなんとか彼女をこっちに来させるいい理由がないか頭を高速回転させていると



「それいいね! アルターのパーティーに行きなよ! アルターの良さはアタシらが保証する。そうだ! 共同クエスト一緒にやろうよ!」


「うん、いい考えね。こんなに強い弓士がアルターのパーティーに行ってもらえるなら、アルターの強さも活かせるしね。そうでしょ? レイン」



 いや、俺は……俺は…………!



「確かに。俺もカナの才能が一番活かされ、カナが笑顔になれるパーティーが……い、いい、と、思うよ……!」



 かっこつけてしまったあああああああ!

 だけど、無理じゃん! みんなアルターのところがいいよって言ってるのに! 俺だけ反論なんて出来るわけないじゃん! 二人にも睨まれたくないし!



「あ……面接に来て、別のパーティーに入るのを応援してくれるなんて……へ、へへ……あ、ありがと……」



 んぎゃあわああいいいいいいいいいいいいい!

 こんなかわいい弓士の子、泣かしたりしたらぜってえ許さねえからな! アルター!



「……おっと、靴紐が」



 俺がカナの為にアルターへ念を送ろうと空けた穴からアルターを見ると……



『ワタシはスキルを使うと服が破れて裸になっちゃうから替えの服がたくさん持てる人がいたら嬉しいって思ってたの!』


『あはは! よろしく! マリア』



 青髪美女とはまた別の黒髪ロングおねーさんと楽しそうに話してやがる!

 しかも、服が破れるだとお!? ていうか、オッパイでけええええええええええ!


 な、な、なんで……あいつばかりぃいいいいいいいいいい!



「ね、ねえ、レインだっけ? かがんだままなんかすっごい鼻息荒いけど大丈夫!?」


「あー……気にしないで。レインってそういうやつだから」


「そう。レインはそういう人なの」


「どういう人!? ねえ!?」


 

 なんか女性3人で楽しそうに話していたが、アルターへの怒りでいっぱいだった俺は全然話が耳に入って来なかった。


 ちなみに、うちにはサンドルが入った。男だけど。




 そして、更に一か月が経つ頃、あのアルターの評価は一変していた。



「すげえよ! あのアルターってヤツ! 魔王七幹部の一人を倒したんだって!?」


「ああ! アイツの《格納》って、普通に物を吸い込むだけだけと思いこんでいたんだが、仲間が危機に陥った時に彼女を助けようと必死に手を伸ばした時に吸い込めて分かったらしい! すげえよな!」



 そう、アルターの《格納》は規格外のものだった。魔物を吸い込んで無力化してしまうのだ。

 おまけに、カナをはじめとしたSランク天賜持ちの美女達も強くて今一番注目のパーティーと言われている。



「それにしても……自分がやるべき七幹部の一人を先に倒されるわ、しかも倒した人間は自分が追放した奴だわ……勇者『様』は何を考えているんだかなー」


「ああ、アイツこそ無能なんじゃねーか!? ぎゃはははは!」



 よく見れば一月前はアルターを馬鹿にし、カナと喧嘩をしていた下品な冒険者だ。

 サンドルが注意しに行こうとするのを俺は手で制し、先を急ぐ。



「あーあ、なんか最近はあの勇者様、ランクの低いクエストしかやってないらしいぜえ?」


「アルター様がいなくなってうまくいかなくなってびびっちゃったんじゃねーの!? アルター様は今や美女達にモテモテ、レイン様は今や雑魚モンスターにボロボロ……ぎゃははは!」



 こんな罵声は俺の予定にはなかった。

 アルターめ! アルターめぇええええええええ!




 今回のクエストはあるダンジョンに住み着いたゴブリンの討伐だった。

 どうやら数が多いらしく共同クエストとして引き受けたんだがそのパーティーが……



「アルター! ひさしぶり!」


「やあ! フィリア! エルセーヌ! ひさしぶりだね! うれしいよ、一緒にクエストが出来て!」



 フィリアとエルセーヌが嬉しそうにアルターに駆け寄っていく。

 っていうか、なんでこんなところにいやがるんだよ! アルタァアアア!!!



「びっくりよ。魔王の七幹部まで倒した貴方がこんなクエストをやってるなんて」


「うん、なんとなくこのクエストを受けたくなって」



 なんとなくで受けてんじゃねーよ! お前、俺たちをつけ回してんじゃねーの!?



「それにしてもアルター、強くなったんだねえ」


「まあ、ぼちぼちだよ」



 ぼちぼちじゃねーだろ! 魔王七幹部倒しといてぼちぼちじゃねーだろ!

 魔物を無力化出来るってぼちぼちじゃねーだろ!



「アルター、何か雰囲気変わったわね?」


「そうかな。オレはオレのままだよ、エルセーヌ」



 いや、明らかにアルターは変わった。恐らくカナたちのようなSランク天賜を持ち見た目も美女な3人に認められて自信を持ったんだろう。

 だが……



「!!! お前達! 話をしている場合じゃないぞ! アレを見ろ!」



 サンドルが叫び指さした先には、クエスト内容にあった以上の……とんでもなく異常な数のゴブリンたちが集まって俺達を睨みつけていた。



「な、なに……あの数、あんなのアタシ、見た事ない……」


「大発生だ……! オレの感じたイヤな予感はコレだったんだ……」



 みんな震えている。当たり前だ。気持ち悪いほどに埋め尽くされたゴブリンの海が目の前にある。俺だってさっきから手が震えている。

 このゴブリンたちが飛び出せば、王国は大打撃を受けるだろう。だが、俺達が戦っても勝てるかどうか……。


 そんな事を考えているといつの間にか、アルターが一歩前に進み出ていた。


「みんな……逃げて……この危機を王国のみんなに伝えてくれ。オレが命の限り止めてみせる……!」


 アルターが悲壮感を漂わせながらも必死に笑顔を作ってみんなに笑いかける。

 こいつは……!



「でも! アルターがしんじゃ……!」


「オレがなんとかするから「うるせぇえええええええええええ!」え……レイン?」



 はいアルタァアアアアアア! ハラタッタアアアアアア! 

 俺は! コイツがやっぱり嫌いだ!



「なんの策もねーのになんとかするとか言ってんじゃねー! 気休めにもなんねーよ! 大体テメーの天賜はまだ魔物を大量に吸い込めるわけじゃねーんだろうが! 酒場で馬鹿に聞いたわ! エルセーヌ! お前が一人で助けを呼びに行ってくれ!」


「で、でも……それじゃあ彼女達が危険に……!「うるせぇえええええええええええ!」」



 コイツはマジで何を考えてるか分からねえ! 気持ち悪すぎる!



「今、逃げ切って無事でもコイツ等が飛び出して行ったらどうなるかわかんねーだろうが! だったら、サンドルが壁になって守った方がいい! そんでフィリアに回復してもらえ! お前の仲間のマリアちゃんやハルちゃんやカナちゃんは援護が得意だから援護してもらえば持ちこたえられるだろうが!」


「そ、そうか……でも、なんでオレのパーティーのみんなの能力を?」



 ぎく。べべべべつに気になってスリーサイズとか調べたついでに知ったわけじゃないからね!



「今はそんなこと言ってる場合じゃねーだろ! エルセーヌなら一人でも火力があるから道を切り開けるし足も速い」


 

 スレンダーだしな!

 フィリアやマリア、カナはちょっと胸が邪魔で走りづらいだろうし!

 アルターの馬鹿もよくわからねえ自己犠牲の心がようやく落ち着いたのか俺の提案に頷く。



「よし! じゃあ、ここでコイツ等を食い止める! 援護は任せた! 暴れるぜぇえええええええええ!」



 ここからは勇者である俺の見せ場だ!



「オレも! やるよ!」



 はいアルタァアアアアアア! テメエは本当に出張ってくるなあ!?



「《剣聖》の天賜よ……我が魂に応えよ!」


「《格納》の天賜よ……我が魂に応えよ!」



 絶対にっ! 俺の方がっ! アルターより活躍して! モテるんだいっっっ!!!!



聖絶煌剣エクスカリバーッ!!」


零識格納グリード・エクリプスッ!!」



 アルターがやはり一気には吸えないが、何度も天賜を発現させ魔物達をどんどん吸い込んでいく! くっそおおおおおおおお! そんなのズルだろお! 俺は必死に斬ってんのによおおおお!




「いやあ、噂には聞いてたけど、やっぱりすごいね……おたくの勇者さん」


「そうでしょ? すっごい馬鹿でスケベだけどすごいのよ」


「あ、やっぱり? ワタシも随分じろじろ胸を見られたし、鼻の下めっちゃのびてたから、そうだと思ったわ」




 なんかサポート組がアルターの方を見ながら話をしている気がする! くっそおおおおお! 俺を見ろ! アルターより! 俺の方が何百倍もモテたいのにいいいいいいいいいいいい!

 俺の方がいっぱいゴブリンをぶったおしてやらあああああ!



「ごめんねー。アタシも昔っからアイツに胸見られてた。エルセーヌのお尻とかも。でも、大丈夫よ。アイツ小心者でかっこつけだから絶対に触っては来ないから。モテたいから女性の意見はすぐに『確かに』って尊重するしね。まあ、レインは昔からモテたいって願望だけで戦ってるからねー」


「うむ。ウチのリーダーは小心者だな。おれがパーティーに入った時に低ランククエストから始めようと言われ不満を言ったことがあるんだが、そうしたら『お前は馬鹿か! 急造パーティーでなんかあって、フィリアやエルセーヌに傷でもつけたらお前責任とれんのか!? あああん!?』と、凄い剣幕で怒られたぞ」


「へえ~」


「小心者で、あのアルターにも嫉妬深い器の小さいリーダーだがな。何故か憎めない。街の男達も欲望に忠実なのにかっこつけなレインが大好きでな。この前食ってかかってきた新参者もレインのことが大好きな野郎どもにボコボコにされていたよ」



 サンドルがなんか俺の方を見てニヤニヤしてる!?

 くっそおお! 野郎共はいっつも俺を馬鹿にしてきやがる!

 俺が一番じゃああああああああああああああああああああ!



「…へえ~、レインってすごいんだね」


「あれ? カナ? あれあれあれ?」


「え? ち、違うよ!? だ、だってさ、女好きでも、その、女の子が一番輝ける場所があると思ったらちゃんとそっちをお勧めしてくれるし、なんかそのアルターとはちがう真っ直ぐさがあって、いいというかなんというか……ああもう! さ、さあ! サポートサポート!」



 なんかカナの顔が赤い!? も、もしかして……アルターに見惚れていたのとか!?

 くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 俺の方が、俺の方が頑張っているのにぃいいいいいいいいい!




「レイン! 大丈夫!?」



 はいアルタァアアアアアア!?

 うるせぇえええええええええええ!

 お前なんかお前なんか、大嫌いだぁあああああああああああああああ!!!


 絶対に負けてやらねえからなああああああああああああああああ!!!!!




 この日、結局俺達はゴブリンの半分以上を倒し、残りは王国軍によって殲滅された。

 千以上のゴブリンを倒した俺だったが……嫌な予感を感じ向かった先にいたゴブリンキングを倒したのはアルターで、この日からアルターは王国の英雄と呼ばれた。



「ア、ア、アルターめぇえええええええええええええええええ!!!!」







『-後に王国歴でも唯一無二の英雄という称号で呼ばれる存在をあろうことか追放し、史上最も器の小さな勇者と呼ばれた。その勇者の名はレイン・ナイトレット。誰よりも卑屈で誰よりも欲望に忠実な男。だが、その為には努力を惜しまず恥さえも捨てる。そして、その愚直な姿は多くの者に愛された。最も器が小さく、最も多くの人々に愛された勇者を、英雄を追放した勇者を、ハーレムを作りたいと叫びながら1人の女に尽くし続けた勇者を、私を含め皆忘れることはないだろう』

(エリラント王国史・勇者と英雄の章より)





※※※※※※※※


あとがき


追放する側の物語って主人公にするには結構無理があることが多いんですが、原作ではレインの憎めなさというか愛らしさが最近のいい子主人公やクール主人公にはない愛され系な感じでそこをうまく表現できたらと思いながら書かせていただきました。


本作は、連載中の作品の邪魔にならぬよう敢えて方向性を変えるためにだぶんぐる流で暴走気味に書かせていただきました。締めも原作はそうなるとは限りません。想像です。アルターの英雄設定も今のところ原作にはありません。


原作は、長編用ですし所々違いますので、是非そちらをお楽しみください。




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『だぶんぐる版・国に選ばれた勇者の俺、パーティーにいらないと思って追放した万能士《レンジャー》は、実は超優秀なチートスキル持ちでした』(原作:@h-ar-u 様) だぶんぐる @drugon444

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