転生したら料理スキルだけチート! 異世界グルメで王や竜まで胃袋で支配しました
妙原奇天/KITEN Myohara
第1話 俺のチートは「料理」だけってマジですか?
――腹が、減った。
それが、異世界に転生して最初に感じた感想だった。
気づけば俺は、見知らぬ草原のど真ん中に立っていた。空はやけに青く、太陽は二つ。ファンタジーっぽい鳥が「ピュイピュイ」鳴いて飛んでいる。
どう見ても、地球じゃない。
「……マジで転生しちゃったのか、俺」
事故の直前の記憶は、たしかにある。深夜のファミレスの厨房で、閉店作業をしていたはずだ。バイト仲間が帰ったあと、滑って転んで……ガツンと後頭部を打って。
それで、目が覚めたらこれだ。
「神様、これって“テンプレ勇者召喚”とかじゃないですよね……?」
周囲を見回しても、光る魔法陣も、メイド服の女神様もいない。
代わりに俺の目の前に、古びた木札が浮かび上がっていた。
【スキル一覧】
・料理 Lv.MAX
・味覚強化
・嗅覚強化
・鑑定(食材限定)
・収納(食材限定)
「……いやいやいや、ちょっと待て」
武術とか、魔法とか、ないの?
〈料理〉って。なんでよりによってそこだけMAXなんだ。
「異世界チートって、普通“無双スキル”とか“転生特典”とかつくもんじゃないの!?」
俺の叫びをよそに、腹がグゥと鳴る。現実は非情だ。
とりあえず腹を満たすために、辺りの木の実を拾って口に入れる――
「……苦ッ! うわ、なにこれ!」
舌にビリビリと刺激が走った瞬間、木の実が淡い光を放った。
【
「……えっ、なにその警告ウィンドウ!?」
【〈料理スキル〉による自動調理を発動します】
次の瞬間、俺の手の中の木の実がホワッと光り、焼きリンゴのような甘い香りを放ち始めた。
恐る恐るかじると――
「……うまっ!」
香ばしい皮と、とろける果肉。舌にひろがる甘みと酸味のバランスが完璧だ。
さっきまでの毒っぽい苦味は一瞬で消え、代わりに懐かしいアップルパイの風味が舌を包んだ。
「これ……俺のスキルが勝手に“調理”したのか?」
つまり、〈料理〉スキルって“食べた瞬間に調理してくれる”タイプの万能スキル?
それ、めっちゃ便利じゃん。……いや、もしかして最強なのでは?
と、調子に乗ったところで、背後から野太い声が響いた。
「おい、そこの小僧!」
振り返ると、毛皮の鎧を着た大男が三人、こっちに歩いてくる。手には槍。完全に野盗の風貌だ。
あっ、やばい。異世界テンプレその2、「初遭遇が野盗」きた。
「おい、なに食ってやがる。お前、ハングベリーを素手で!?」
「毒だぞ、それ!」
「おまけに匂いが……な、なんだこの芳香……!」
野盗たちは驚いたように鼻をひくひくさせ、目を見開いた。
やがて、一番背の高い男がごくりと喉を鳴らした。
「……一口くれねぇか?」
「え、いや、食べると――」
止める暇もなく、男は俺の手から奪い取って、豪快にかじった。
瞬間、彼の身体が光に包まれ、毒々しい紫の肌がみるみる健康的な色に戻っていく。
「う、嘘だろ……身体の痛みが消えた……! この果実、癒しの薬より効く!」
まさかのヒーリング効果。料理スキル、恐るべし。
他の二人も群がるように果実を欲しがり、あっという間にその場は即席の“試食会”になった。
「うまい!」「なんだこの香り!」「涙が出てきやがる……!」
気づけば野盗たちが地面にひざまずき、俺の手を取った。
「……料理の神よ」
「いや、違うって!」
――でも、俺は悟った。
このスキル、戦うよりも“食わせる”ほうが強い。
「なぁ坊主。俺たち、元は村の狩人だったんだが、魔物に村を滅ぼされてな……」
「食料も尽きて、毒果実を食べるしかなかったんだ……」
そう言って彼らは泣いた。
野盗になったのも、生きるためだったらしい。
「……だったら、俺の料理、食ってけよ」
俺は言いながら、ウィンドウを開いた。
【素材:ハングベリー×3】【追加素材:草の根×2】
【料理スキル Lv.MAX 発動】
風のような光が舞い、俺の手元に現れたのは――
湯気を立てる「ハングベリー煮込みスープ」だった。
漂う香りに、三人の男が息をのむ。
一口すすった瞬間、彼らの目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。
「……あったけぇ……。あの村の母ちゃんの味だ……!」
まさか、味覚に“記憶”を呼び起こす効果まであるのか。
スキルの説明欄を開くと、小さな文字が追加されていた。
【特殊効果:食べた者の“最も幸福だった記憶”を再現する】
「……なるほど、“心を満たす料理”ってわけか」
戦うチートじゃない。けれど、心を動かす力ならある。
それはきっと、誰も持っていない最強のスキルだ。
スープを飲み干した男たちは、頭を下げた。
「坊主……いや、ユウタ殿。俺たちはこれから何を食べて生きればいい?」
「食べ物のある村を探せばいい。――でも、どうせなら俺が作るよ。少し旅をしながらな」
俺は笑いながら、収納スキルに残りの素材を詰め込んだ。
草原の風が吹き、空が高く澄み渡る。
「まずは……調味料を探す旅、だな」
この世界の料理を知り、この世界の人たちを笑顔にする。
そう決めた瞬間、ウィンドウが再び光った。
【称号:料理の旅人 を獲得しました】
【新スキル:味覚言語 を習得しました】
――味覚で意思疎通? なんだそれ、めっちゃ気になる!
俺の“食卓ファンタジー”は、ここから始まる。
🌿次回予告
第2話「竜、スープに落ちる」
燃え盛る森で出会ったのは、飢えた竜。
一匙のスープが、千年の孤独を溶かす――!
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