バグのある召喚士

ルケア

第1話召喚士はバグありでした

「ねえベル君。今日の結果はどうなるのかな?」


「どうなるのかなって言っても、なる様にしかならないだろ? 俺たち、農民の跡継ぎに成れない奴らは、青の宝玉しか使ってもらえないんだから」


「それはそうなんだけど、青の宝玉でも3種類の職業があるでしょ? 私はファイターしか向いてないと思うんだよね。魔法で戦うのって、なんか面倒だし」


「そりゃあ口よりも手が出るアーリアだからだろ? まあ、それなら俺はマジシャンか召喚士になるしかないわな。ファイターで被っても意味無いし」


「えー? 一緒でもいいんじゃないの?」


「タンクとアタッカーで分かれられるけど、出来れば、物理と魔法で分かれていた方が良いからな。被ってもいいのは召喚士の時だけだ。召喚士なら、2人で被っても簡単にパーティーが組めるからな」


「そっかー。でも、ランダムなんだよね? 上手くいくのかな……」


「まあ、上手くはいかないだろうな。そもそも俺たちは強制徴兵組なんだから、諦めるしかない」


 強制徴兵組とは、クレムベルグ王国での農民の長男長女以外の扱いである。職業を与えられたら、勝手にレベルを上げておかないといけない。勝手にレベルを上げておかないと、徴兵で死ぬからだな。死にたくなければ、レベルを上げるしかない。


 これは、前世のゲーム、『BTO』での設定だった。キャラクターは、全て徴兵される恐れがある。イベントは強制参加だし、その時間に参加できなくても、AI操作で強制的に参加をさせられる。まあ、設定では15歳を向かえると、強制的に軍属にさせられて、配属先が決まるという、恐ろしいシステムだった。……まあ、フレーバーなんだけどな。ゲームの設定だっただけで、現実になるとは思わないじゃないか。


 そう。これはゲームの世界。ゲームではない。現実なんだ。現実だというのに、気分は最悪だ。初めは、転生したことを喜んだ。当然だ。転生なんて面白い事しか起きない。そうやってどれだけの作品が生み出されてきたことか。そんな訳で、俺だって期待した。この世界で、冒険者になって、世界の全てを満喫するんだって、そう思っていたさ。


 それがBTO、ブレイブタスクオンラインの世界なんて思わないじゃないか。BTOでは、3種類の職業が存在する。それが、ファイター、マジシャン、召喚士だ。前衛、後衛、遊撃? とまあ、こんな感じなんだよ。そこから、召喚士は一生召喚士のままなんだが、ファイターとマジシャンについては、職業が進化していく。進化先は選べるんだけど、3種類のどれかになるのはランダムなんだ。


 だから、当然のようにリセマラをする奴らが大勢いた。サービス開始直後は、召喚士がぶっ壊れていたので、召喚士一択になっていたっけな。まあ、修正されてどの職業でも良くなったというか、召喚士じゃなくても良くなったというか。そういう感じである。まあ、召喚士では、最強ランキングを登り詰めることは出来ないんだけどな。とある仕様が変更されなかったが為に起こったんだが、まあ、それは良いだろう。召喚士になる可能性は33%。そんなに可能性としては高くない。まあ、どの道徴兵されるんだけどな。ゲームの仕様と同じであれば。


 俺たちは、10歳になると、職業選定の儀式を受ける事になる。それがさっき言っていた青の宝玉での事なんだが、青の宝玉では、さっき上げた3種類の職業しか出ない。生産職は赤の宝玉、その他色々な宝玉があって、それで儀式が行われるんだが、農家の次男以下は、強制的に青の宝玉なんだよ。それで、15歳には郡に徴兵される。そして、戦場に連れていかれる。自由なんて無い。まあ、BTOで遊ぶだけなら、5年間も憂慮があるんだから、その前に、サービスが終了するだろうと言われていたっけ。現実は厳しい。確定で徴兵だ。


「それでは、儀式に入る。青の宝玉よ。我らが戦士に祝福を与えたまえ」


 青の宝玉が光る。そして、俺の職業は、召喚士となった。……これは軍で使い潰された挙句、最終的には死ぬんだろうな。召喚士になると言う事は、そう言う事である。召喚士が一強だった時代は、ある種のバグがあったからなんだよ。その為に、召喚士以外は産廃になったんだが、その後、召喚士に修正が入って、召喚士は、戦争時の一発屋としての地位を確立させたと言ってもいい。まあ、そん紆余曲折のあった職業ではあるんだ。だが、この世界ではどうなんだろうか。ワンチャン召喚士は生き残れるのかね? 味方に恵まれれば、徴兵される5年間で生き残ることは可能だとは思うが、それも希望的観測でしかない。


「ねえねえ。何になった? 私は召喚士になったんだけど……」


「……俺も召喚士だ。まあ、これでならパーティーも組めるだろ。目的は同じだしな」


「そうなんだ。やったね」


「解っているのか? 5年後には5年間の徴兵があるんだぞ? そんな所で俺は死にたくないぞ」


「死なない様に頑張るんでしょ?」


「まあ、それはそうなんだけどな」


「一緒に居られるなら大丈夫だよ」


「……だといいんだけどな。5年後には解らないからな。徴兵されれば、部隊が別なんてことが普通にあり得るんだからな」


 ……2人とも召喚士である。まあ、これはこれで有りだとは思うけどな。被るなら、召喚士が一番マシだ。目的も同じなんだし、目標に向かって同じ方向に努力していけば良いからな。


「ファイターの奴はこっちにこい。まずは説明からだ。お前たちを一人前の戦士に仕立て上げるぞ」


「マジシャンはこっちな。早く来い」


「召喚士はこっちにこい。最強を教えてやるからな」


 最強か。確かに、召喚士は軍の一発屋としては優秀ではある。まあ、所詮は一発屋なんだけどな。召喚士には、一回での破壊力と言う事では、1番なんだが、継戦能力に問題がある。メインは召喚だからな。色々と難があるんだよ。だから、最強って言われても、対策を取られてしまえばお終いなんだ。召喚できる魔物は有限。無限に召喚できるのであれば、そりゃあ最強かもしれないが、そんな事はない。まあ、それでも、一番死ににくいとは思うけどな。後方で待っているだけでいいのであれば、だが。そんな事が、一兵卒で許されるのかどうかだ。貴族ならともかく、単なる農家の倅に、後方腕組み状態をさせておくのかって、問題はあるよな。


「よし、召喚士の諸君。君たちは運が良い。召喚士は最強の職業だ。それを俺が教えてやる。もしも、INTが10000を超えることが出来れば、宮廷魔導士団に組み込めるんだからな。君たちの将来は安泰だ。宮廷魔導士団で、後ろから強力な魔法を打ち込むだけでいいんだからな」


 はいはい。嘘を言われても困るな。そもそも召喚士は、攻撃魔法は無属性のエナジーバレットしか使えない。強力な魔法で一網打尽にするのはマジシャンの仕事だ。そもそもINT10000なんて無茶な事を言えと。レベルを10000近くまで上げないと無理な事じゃないか。5年でだぞ? そんな事は、召喚士では不可能だ。レベルの高い召喚士は信用するな。これが召喚士の心得だ。こいつは馬鹿なのか?


「いいか? 召喚士は最強の職業なんだ。何でも良いから魔物を契約しろ。そして、その魔物にレベルを捧げ続けるんだ。魔物はレベル100までしか上がらないから、何体か契約をしないといけないが、レベルが上がれば、SUPが1貰える。それをINTに注ぎ込んで、レベルを魔物に捧げるんだ。そうすれば、またレベルが上がった時に、SUPを1貰える。それを繰り返せば、INTが10000を超えるなんて直ぐだ」


 ……あれ? もしかして、この世界の召喚士って、バグが修正されていないのか? なんだそりゃ?

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