【SSらぶBL】(27番) 成田×結城

しあわせ千歳

成田桜生(27)×結城竜介(32)の社会人カプのSSです。

#創作BL #創作BL小説



【SSらぶBL】(物語27番)




 何でもない土曜日の昼ごはん

 (結城目線)




 ジュージューと、向こうのキッチンから成田がフライパンで何かを焼く美味しそうな音がする。その前から海鮮の出汁のいい匂いが部屋まで漂っていて、結城は腹ペコで彼の作る昼メシを待ちわびていた。

 ここは成田の住むアパートの一室で、結城はもうここに出入りするようになり2年近くが経つ。愛おしい恋人の家だ。この狭い部屋で結城は彼とこうして休日を共に過ごすのがもう日課となっている。しあわせだ、と思えば胸の内で彼を想うこの気持ちがきゅっと窄まるように主張した。

 読んでいた小説の文庫本をローテーブルへ置き、結城は立ち上がる。そっと、足音を立てずにキッチンへ行き、フライパンを揺する成田の背中から、自分より背の高い彼の腹へ両手を回した。

「っ……竜介りょうすけさん?」

 左手にはフライパンの柄を、右手にはフライパン返しを手にした成田が振り返る。しかし彼の背中に突っ伏した結城の顔は見えないはずだ。それでいい、頬の熱くなったこの顔を今は見られたくない。

 カチ、とコンロの火を消す音がした。成田が身体ごと振り返ろうとするが、結城は回した手を強く結びそれを許さない。甘えたい気分なのだが、年上として恥ずかしい顔を見られたくはないのだ。

「ふ、どうしました、竜介さん? 寂しくなっちゃいました?」

 成田の低く明るい声が結城の心を溶かしていく。そうか、自分は寂しがっていたのか、とそこでやっと結城は自身の行動の意図を理解した。すぐ側で料理をしている成田に甘えたくて、寂しくて、構ってほしくて、触れたくなったのだ。

 寂しくなったのか、という成田の質問に結城は素直に頷く。認めてしまうともっと成田が欲しくなり、結城は顔を上げた。

「なあ……」

「はい」

 振り返った成田が顔を寄せる。結城も少しの背伸びをして顔を近づける。自ずと唇が重なった。

 多くを伝えなくとも気持ちを理解してくれるのは成田の優しさだ。

 熱い吐息に触れてしまうと互いに求め合うことをやめられない。いつの間にか成田の首に両手を回し、結城から激しいキスのおねだりをしていた。

 先に唇を離したのは成田だ。

「これ以上は、後で。先に昼メシにしましょう」

 結城の身体を柔く離し、成田がキッチンへと向き直る。また背を向けられてしまった。

 コンロの火をつけ、成田が料理を再開する。2人で食べる分とはいえほぼ結城のために作ってくれているのだ、これ以上の邪魔はできない気がした。

 だけど、寂しい。途中まで満たされつつあった気持ちが急に冷まされた感覚を拭えない。結城はもう少し、ほんの少しだけ甘えるつもりで、成田の大きな背中に自身の背中をそっと預けた。

「ふふ、それじゃあ動けないです」

「動かずに作ればいいだろ」

 無茶な事を言ってのけると、成田がクスクスと笑う。それでも背中の結城を邪険にはせず、成田はできるだけ動かずに調理を進めていた。

「あ、竜介さん、お皿出してください。カレー皿がいいかな」

 頼まれ、結城は背中を離す。

「はいよー」

 慣れたもので、成田の家のキッチンに何がどこにあるかは把握済みだ。

 言われた通りカレー皿を2枚出すと、すかさずそこへ成田が焼いた麺と、海鮮と野菜の餡を盛りつける。

「おおっ、あんかけ焼きそばだ。うまそー」

 湯気の立つ完成品を目の当たりにして結城の腹が小さく鳴った。

「持っていってください。冷めないうちに食べましょう」

「うん」

 2枚の皿を部屋のローテーブルへ運ぶ。後から箸を手にした成田も部屋へ来た。

 斜向かいの定位置へ腰掛け、2人で成田お手製の昼メシを食う。平日の夜ご飯もだが、休日もわりと料理が得意な成田に甘えてこうして2人きりでメシを食う事が主だ。たまには外食もするが、結城はこうして成田の美味い手料理を口いっぱいに頬張るのが好きだった。

「うっまあ〜。やっぱ桜生おうせいくんは天才だな」

「美味そうに食う竜介さんの顔が見たいので、張り切っちゃいました」

「うん、めっちゃ美味い! いつもありがとうな」

 そうしてまたひと口、あんかけ焼きそばを口いっぱいに頬張る。そして目の前には共に同じものを食べる成田がいる。なんともしあわせなひと時だろうか。

 ふと、成田がこちらを見つめながら食べている事に気づく。その瞳はどこか誘っているような雰囲気だ。

「おい、食い終わるまで待てって」

「何も言ってませんよ」

「言ってるだろ、目が。怖えーんだって、その目」

 笑いながら茶化せば成田も笑うと思った。しかし成田は笑うどころか箸を置き結城へ真剣な視線を向ける。どうやら本気のようだ。

「あほ、食ってからって言っただろ」

「言いましたっけ?」

「言ってなくても今は俺にメシを食わせろ」

 言いながらもうひと口食べようとして、箸からポロッと具材が皿の中へ落ちた。頬が熱い。

 すると成田が「ははっ」と声を出して笑う。

「竜介さんの反応がかわいくて、つい揶揄っちゃいました」

「何だよ……俺はかわいくない」

 もう何度目かになるかもわからないこのやり取りに、結城は下を向く。頬の熱が早く治まればいいのに、と願う他なかった。

 ただひとつ、結城を揶揄って楽しそうにする成田こそかわいいと感じるのは、もしかすると自分だけかも知れない。


《 おわり 》







 

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【SSらぶBL】(27番) 成田×結城 しあわせ千歳 @HITOMI_HAYASHI

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