気配りさん

氷山アキ

気配りさん

 やあ。

 オイラは気配り。

 その名の通り、『気』を配るのがオイラの仕事さ。

 なんでそんなことを?って?

 そりゃあ、世の中にオイラが必要とされているからだよ。


 例えばほら、見て?

 あの、机に突っ伏している学生さん。

「もし、どうしました?」

 声をかけると、学生さんは面倒そうに言う。

「テスト勉強しなきゃいけないんだけど、やる気がなくてね」

「やる気がない?大丈夫だよ、オイラに任せて!」

 オイラは学生さんの前に『気』を差し出す。

「やる気はここにあるよ。大丈夫だよ」

 学生さんはがばっ!と顔を上げて、バリバリ勉強し始めた。

「ありがとう気配りさん。君のおかげでテストは満点だ!」


 例えばほら、布団から出られない会社員さん。

「もし、朝ですよ」

「起きなきゃいけないんだけど……会社に行く気力がないんだ」

 オイラは『気』を布団の中に放り込む。

「行く気力は無くても起きる気はここにあるよ。大丈夫だよ」

 会社員さんはもぞもぞと布団から這い出し、どうにかこうにか起きて来た。

「ありがとう気配りさん。起きたら会社に行く気も出て来た」


 例えばほら、物陰に隠れて刃物を手にした怪しい人。

「もし、何をしているんですか?」

「気配を消して、俺を振ったあいつを待っているんだ」

 オイラは素知らぬ顔で、『気』を怪しい人の背中に貼り付ける。

 途端、怪しい人にみんなが気付いてお巡りさんもやって来た。

 オイラたぶん、良いことをした。


 他にも正気を失った人に『気』を押し込んで正気に戻したり、気が乗らない人の背中に『気』を乗せて気乗りさせたり、色々やってる。


 ただ、オイラは無闇に気を配っている訳じゃない。

 例えば。

 激務に追われて疲れ果てて、気が抜けた人。

 こういう人には『気』を配るより、あったかいお茶と甘いお菓子を配るのがいいんだ。

 例えば。

 厳しい言葉を浴びて、気持ちが沈んでいる人。

 こういう人には『気』を配るより、あったかい言葉とやわらかいクッションを配るのがいいんだ。


 つまり、気配りっていうのはこういう仕事。

 オイラはこの仕事、割と好きだよ。

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気配りさん 氷山アキ @hiyama_akira

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