果汁20%の物語。
七理チアキ
起こらなかったことも現実のひとつだ
大槻ケンヂ『今のことしか書かないで』を拝読して色々と私自身の原点を見たというか、これまでカクヨムで長編ひとつ、掌編ひとつ、そして現在も長編を連載中の身なのですが一貫して通ずる部分があるなという気付きを得ました。
自分の中に閉じて勝手に納得しておいてもいいお話なのですが、せっかくなので公開済みの作品を絡めつつ創作論モドキみたいな形で残しておこうと筆を取った次第です。
さて、掲題の「起こらなかったことも現実のひとつだ」。こちらはオーケンの単行本出版を記念して行われた燃え殻氏との対談の中で寺山修司氏の言葉を引き合いに出されたキーワードなのですが。そもそも、オーケンの小説とエッセイって結構線引きが微妙なところがあって、同一著者による青春劇『グミ・チョコレート・パイン』においてはエッセイやラジオで語られる著者自身の体験談を知っているとそういったポイントがふんだんに盛り込まれているので、「あれ? これ、オーケンの学生時代の本当の話?」という錯覚を覚えます。どこからか、あるいはパートごとに「起こらなかったもうひとつの現実」に分岐しているんですよね。多分。
そして、そういった分岐点に至る直前までの部分こそが作品のリアリティを担保しており、現実と地続きになっている感触を生み出しているのだと考えています。
学生時代にそんなオーケンの『グミ・チョコ』などに感化された私にとって、小説という創作に表現の手段が向いたときに「起こらなかったもうひとつの現実」を描いていく、現実から虚構に分岐する、あるいは虚構に現実を突っ込んでいく、という手法を取るのはもうごく自然な流れだったのだなと気付きました。というお話です。前振りが長くてスミマセン。
んで、この手法を用いてアウトプットした私の物語を「果汁20%の物語」と表すことにします。しました。この果汁、というのはもちろん現実のことを指しますが、じゃあ果汁100%だから優れているのか、とか無果汁だったらどうなんだ、とかそういう話ではなく、あくまで私にとって果汁20%くらいが書きやすいなあということです。
宣伝みたくなっちゃいますがこれまでの作品を振り返りますと……。
『レゾナントノイズ』
https://kakuyomu.jp/works/16818622177765278761
……中学校で出会った少年少女の二十歳までのお話です。
二人の主人公、七理ハルミと楠木ナミそれぞれの視点から同じ時間軸の物語を語っていくという形式の恋愛小説です。最後までお読みいただいた方には深く共感していただけたと自負しております。
お読みになっていただいた皆さまに、この物語に対して「私小説?」「作者の七理チアキって七理ハルミじゃね?」というような感想を抱いていただけたのなら、それはまさに「果汁20%」が成せる部分だと思います。
まず、明確に年代がいつかを打ち出しており、パートごとに存在していたバンド、作品名をガンガン出しております。この時点で見聞きしたことのある名前が一つでも引っ掛かると現実とのリンクポイントとして機能すると思います。
その上で私が実際に体験したいくつかのイベントを、私の人格を少しずつ与えているハルミとナミが追体験していくという組み立て方をしています。全部が全部、実際にあったイベントではないですし、二人の人格についても卒業文集から何名かの作文を読んで想像して補完してます。こういう子は多分こうだろうなと私にない部分を造形したり、イベントも流れを汲んである程度綺麗な思い出として見せられるように盛っているので、現実と虚構のバランスを鑑みるとやはり果汁20%くらいかなあという。
『雨二唄エバ。』
https://kakuyomu.jp/works/16818792435853332560/episodes/16818792435853441685
……夢も希望も大切な人もなくしてしまったバンドマンの物語です。
レゾナントノイズの登場人物からは繋がりそうで繋がらない感じのお話ですが、こちらは「起こらなかったもうひとつの現実」の部分によって組み立てた掌編です。
昔、仲良くさせていただいてたロックバンドの方との思い出をフィーチャーしてます。実際に毎週、吉祥寺で路上ライブをやっていて、私も都合がつく限り観に行ってました。
さらに交差点での事故。場所などシチュエーションは若干変えていますが実際にありました。バンドのツアーに付いていっていいということになり、機材車に乗せてもらい各地を回っていたときの出来事でした。幸いにして怪我人はおらず、買ったばかりの機材車が潰れただけで済みましたが、あの時凄惨な事故になってしまっていたら。という現実からの分岐を端にして着想しています。
現在、連載しております『パンク娘。』も冒頭の上半身裸で鉄パイプを持った男と遭遇した事実はございまして、そこから物語を広げています。暴漢以外にも私の実体験が少しずつ織り交ぜてありますので、そんなところにも着目していただけるとより楽しいと思います。過去作についても探りを入れながら読み返していただけると幸いです。
そういうわけで、小説執筆に初挑戦してから勘に頼っていくつか書いておりましたが、これまで私は大体20%くらいの果汁を混ぜると書き進めやすいなと、ようやく自覚できたというお話でした。私の中の勘の部分を言語化できたらまたこのように形として残すかもしれません。
創作活動をされている皆さまはどれくらいの割合が心地よいですか?書く側に立った時と読む側に立った時で心地よい果汁の割合が大幅に変わるかもしれませんし、その時々の精神的な状態によっても変わるでしょう。著者として、または作品ごとの個性となり得るひとつの要素なのではないでしょうか?
良かったら皆さまのお好きな果汁の割合を教えてくださいね。乱文失礼。
果汁20%の物語。 七理チアキ @shichiri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます