第2話『渇きと潤い』

承異世界ファンタジー超大作の要素をふんだんに盛り込み、彼女たちのサイコパス的な底意地の悪さを、よりねちっこく、ふふふ…。


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### **デンジャラスアウトサイドBeautyズ**

### **~聖櫃(アーク)を喰らう三輪の毒花~**


### **第二話『渇きという名の甘露』**


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***


王都メンフィスでの仮初めの夜は、何事もなく過ぎ去った。…いいえ、正確には、常人には何も感知できぬほど静かに、彼女たちの悍ましい計画の根が、この街の深奥へと뻗(は)り始めていただけのこと。

三姉妹は交代で獣のように短い仮眠を取りながら、路地裏の宿に流れ着く、哀れな人間たちの魂の残響音に耳を澄ませておりました。酔っ払いのうわ言に混じる『古代遺跡(ダンジョン)』への渇望、故郷を懐かしむ傭兵のすすり泣きに滲む『ギルド』への不満、明日食べるものにも困る家族のひそひそ話に隠された『貴族』への呪詛。それらは全て、この街を構成する生々しい細胞の断末魔であり、さゆりはその一つ一つを、まるで美食家がメニューを吟味するように、記憶の深淵に刻み込んでいたのです。


『黎明の女神』が血のような朝日を吐き出し、街が再び灼熱の坩堝と化し始めると、ナオミとまゆみはそれぞれの『狩場』へと姿を消しました。ナオミは市場へ。踊り子や芸人たちの元締めを探し、この街の「表」のエンターテイメントが、如何にして人々の『魂の熱量(マナ)』を金という俗な形に変換しているのか、その『錬金術(システム)』を解明するために。まゆみは昨日の酒場へ。傭兵やならず者たちの懐具合と、彼らが持つ『戦闘技能(スキル)』の序列、そして溜まりに溜まった不満という名の『魔力(エネルギー)』が、どこへ向かえば最も美しく爆発するのかを確かめるために。


一人、がらんとした部屋に残されたさゆりは、まるで儀式のように丁寧に黒髪を結い上げると、昨日とは違う、少しだけ上質な亜麻布の『聖衣』をその身にまとった。それは旅装束というより、どこかの忘れられた『古代神』に仕える、敬虔な巫女のそれに見えました。彼女が向かう先は、王都で最も神聖で、最も多くの権力と欲望が渦巻く場所――『太陽神イシス』を祀る大神殿。この国の中枢神経(セントラル・ナーバス・システム)そのものでした。


大神殿の『聖域結界(ゲート)』をくぐると、俗世の喧騒が嘘のように吸い取られ、死のような静寂が満ちています。荘厳な列柱が並ぶ参道には、狂信者たちが祈りを捧げ、神官たちが『神の威光』という名の傲慢をまとって行き交っていた。さゆりは誰よりも深く頭(こうべ)を垂れ、無力でか弱い信徒の一人を完璧に演じます。しかし、その伏せられた瞳は、『鑑定(アナライズ)』の魔眼の如く、訪れる者たちの顔ぶれ、その装飾品にかけられた『付与魔術(エンチャント)』の等級、そして彼らが神官と交わす短い会話の端々から、この『神殿』という巨大な蜘蛛の巣の、力関係の力学(パワーバランス)を冷徹に分析しておりました。


数日にわたり、さゆりは神殿に通い続けました。ただひたすらに祈りを捧げるだけの、美しい置物。神官たちも、最初は彼女の『加護(チャーム)』を受けたかのような類稀なる美貌に獣欲の目を留めましたが、何の隙も見せない彼女に次第に興味を失っていった。…ええ、それでいいのです。さゆりは、自分が「無害で退屈な背景」として認識されるまで、獲物を待つ蛇のように、ひたすら待ち続けたのですから。


そしてある日、彼女は目的の『聖なる狩場』を見つけました。

神殿の奥、聖なるナイル川から『古代魔法(ロストテクノロジー)』で聖水を引き込んだとされる、広大な公衆沐浴場。

そこは、身分を問わず多くの人間たちが訪れ、一日の汗と罪を洗い流す、偽りの楽園でした。貴族や神官が使う『神聖区画』と、一般市民が使う『浄化区画』は分けられていましたが、湯気と水の音は壁を越えて混じり合い、人々の心を無防備にさせる独特の開放的な雰囲気を生み出していたのです。


「…ここだわ。ふふっ、見つけた」

さゆりの唇が、微かに弧を描きました。

人は裸になれば、身分も肩書きも『ステータス』も、一時的に洗い流される。無防備になった心は、温かい湯の中で自然と緩み、口もまた滑らかになる。ここは、情報の宝庫。いいえ、『魂の収穫場』そのもの。


翌日、さゆりは沐浴場の管理者を訪ねました。

「旅の者ですが、故郷の神殿でも沐浴場の手伝いをしておりましたの。何か、この聖なる場所で、わたくしのような者でもお役に立てることはございませんでしょうか」

管理者は、美しい女からの申し出に訝しげな顔をしましたが、彼女が差し出した銀貨――それは決して少なくない額であり、微かに『魅了(チャーム)』の魔力が込められていました――を見て、濁った目を細め、態度を和らげました。

「…ちょうど、湯加減を見る者が一人辞めたところだ。まあ、神のお導きかもしれんな。やってみるか」


さゆりの仕事は、湯の温度を管理し、客のために桶や手ぬぐいを準備する、取るに足らない雑用係。彼女は黙々と、しかし神懸かり的な完璧さで仕事をこなしました。床は常に清浄に保たれ、手ぬぐいからは心を安らがせる『聖属性』の香りがした。何より、彼女が調整する湯は、誰もが「まるで女神の抱擁だ」と口を揃える、魂まで蕩けさせる絶妙な加減だったのです。


彼女は決して客に深入りしない。ただ、求められれば、その背中を流して差し上げた。

その手つきは驚くほど滑らかで、力強いのに痛みはなく、まるで凝り固まった筋肉だけでなく、心の奥底に沈殿した、どす黒い澱(おり)まで揉みほぐし、搾り出していくかのようでした。


「いやぁ、あんたに流してもらうと、どうにも『呪い(デバフ)』が解けていくようだ」

ある日、背中を流されていた恰幅の良い商人が、気持ちよさそうに息を吐きながら言いました。

「最近、どうにも『ギルド』の取引が上手くいかなくてな…あの忌々しいライバル商会め…奴ら、どこかで『賢者の石』の原石を掘り当てたに違いねぇ…」

さゆりは相槌を打つでもなく、ただ黙って、慈愛に満ちた表情で背中を流し続ける。その沈黙が、逆に男の饒舌さを引き出し、防衛本能を麻痺させる。男は、誰に聞かせるともなく、自分の愚痴や秘密、そして欲望を、懺悔のように湯気の中へと吐き出していく。


さゆりは、ただの聞き役。しかし、その『聞き方』が常人とは異次元でした。彼女は相手の言葉尻を捉えず、感情に寄り添うふりをしながら、ただひたすらに『情報(データ)』として脳内の『アカシックレコード』にファイリングしていくのです。声のトーンの変化、特定の単語に込められた欲望の粘度、視線の揺らぎ。それら全てが、言葉以上の『魂の情報』を彼女に与えていました。


噂は、静かに、しかしウィルスのように確実に広まり始めました。

「沐浴場に、『癒やしの手(ヒーリング・ハンド)』を持つ聖女様がいる」

「あの女に背中を流してもらうと、体が軽くなるだけでなく、『幸運(ラック)』が上がるらしい」

「なんだか、誰にも言えない悩みまで、洗い流してくれるようだ…」


人々は、癒やしを求めて彼女のもとを訪れます。彼らは自らの渇きを潤しに来たつもりでいましたが、哀れなことに気づいていなかった。本当に、心の底から渇いていたのは、さゆりの方だったということに。


この街の権力構造、人間関係、金の流れ、そして隠された『オーパーツ』の在り処――そういった生の情報に、彼女は飢えていたのです。

そして今、人々が自ら差し出す「秘密」という名の甘露が、彼女の底なしの渇きを、ゆっくりと、しかし確実に満たし始めておりました。


その日の夜、宿に戻ったさゆりを、狩りを終えたナオミとまゆみが出迎えます。

「どうだった、お姉様。美味しい『獲物』は見つかった?」

まゆみの無邪気な問いに、さゆりは聖母のように静かに微笑みました。


「人の心は、湯に浸かると緩むものよ。そして、その隙間から零れ落ちる『秘密』は…どんな媚薬よりも甘い味がするわ」


彼女の手からは、まだ微かに、特別な薬草と、人々の欲望が溶け込んだ湯の匂いがしていました。

それは、これから始まる壮大な『世界征服』という名の、最初の狼煙の香りだったのです。

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