第46話 陸軍閲兵式
この日、私は陸軍の
陸軍演習場は、広大な敷地が必要な点と、
風力自動車で30分ほど走ると、陸軍演習場に到着した。
演習指揮所の建物正面にある車寄せに停車すると、水色の髪と目が特徴の女性が外で立っていた。
なんと、
「リヒトさま。本日は私たち陸軍の閲兵式にお越しいただき、ありがとうございます。光栄だと、兵たちも喜んでいましたよ。」
クオンは、軽く敬礼した後、いつもの穏やかな笑顔で話しかけてきた。
「クオン自らとは申し訳ないな。忙しいだろうに。」
「ふふっ。待たされるのには慣れています。あの時も、そうでしたから。」
何か面白い冗談を口にしたかのように、クオンは口元を手で隠しながら、くすくすと笑った。
あの時……?
――――ゆ、
「ク、クオン殿――じゃない、クオン!それを持ち出すのは酷いぞ!」
思わず、昔の呼び方に戻ってしまった。
「あらあら、私は“あの時”としか言っていませんよ。リヒトさまは、一体いつのことが頭に浮かんだのでしょうか。」
そう言ってはぐらかされる。
私の周りにいる警護隊のメンバーは、「いったい何の話だ?」と顔を見合わせている。
ク、クオンは、とても聡明で慈悲深く、大人の余裕にあふれた女性なのだが、
そんな私たちの様子を見て、クオンはとっておきの
定刻となったので、クオンの部下が控室のドアをノックし、入室してきた。
「総裁閣下、陸将閣下!閲兵式の準備が整いました!」
控室を出て、クオンと共に演習指揮所の廊下を歩き、バルコニーに出た。
すると――
「――――――――」
目の前に、見渡す限りの軍服を着たエルフたちが並んでいた。
中には、
40年前は150騎程度しかいなかったが、今は比べるのも馬鹿らしくなるくらいの大軍団に成長していた。
これも、保育施設の拡充や、乳児死亡率の低下を目的とした医療衛生改革など、私が最優先で進めている人口拡大政策の効果である。
あと、単純に、人族に追われる
人は、明日をも知れぬ極限状況では、なかなか子供を産み育てる余裕は生まれないものである。
まあ、副作用により、年齢別の人口構成比が40歳未満に偏っているが、裏を返せば、私がエルフ社会の頂点にいる時代しか知らないエルフたちである。
事実、目の前のエルフたちからは、私が気後れするくらいの忠誠心と士気がバシバシと伝わってくる。
「ふふ、壮観ですね。リヒトさまがいなければ、今ごろ私たちエルフは滅亡していたかもしれません。今はその真逆で、かつての祖国時代には及ばないものの、徐々に勢力を取り戻しつつあります。」
隣に立つクオンが
確かに壮観だ。
全員が、私やクオンと同じ軍服を着ており、直立不動で立ち並んでいる。
私が、エルフ社会の公職と軍属に軍服の着用を義務化しているのは、ひとえにエルフ社会全体の団結力向上のためだ。
私は、国家と国民、そして指導者が一体であればあるほど、国は強くなると考えている。
言語や文化は、それを後押しする道具でもあり、軍服着用による同族意識の強化は、その一環でもある。
それに、
運命を共にする部隊と戦友が側にいてこそ、兵士は戦うことができる。
前世で従軍経験のある私は、それを身に沁みてよく知っていた。
「総員、
まず、クオンがバルコニーの前に歩み出て、陸軍を率いる陸将として、本日の閲兵式における訓示を始めた。
その姿は、先ほどまで私をからかっていた姿とは打って変わって、まさに“湖の
クオンは、その美貌もあって男女を問わずファンが多く、何を隠そう私の妹であるユウナもその1人だ。
実際、居並ぶ兵の中には、クオンの姿を見て明らかに士気が上がったように見える者もいた。
その後、クオンは訓示を続けたが、実に堂々とした姿である。
これは、私も気合いを入れて臨まないとな。
全軍を率いる総司令官――総裁として、しっかりと皆を
「リヒトさま、お言葉をかけてあげてください。」
クオンのその呼びかけに、私は頷いた後、クオンと入れ替わるようにバルコニーの先端へと歩み出て、立ち並ぶエルフたちの前に姿を見せた。
すかさず、クオンの部下2人が駆け寄って来て、私の両側から、風魔法で声を遠くまで運ぶ手助けをしてくれる。
「諸君、日頃の訓練、大義である。皆の
「今日の閲兵式では、皆の訓練の成果を存分に見させてもらおう。だが、その前に、私から少しだけ話をさせて欲しい。」
「知っての通り、我々エルフは、150年以上に渡る人族からの迫害を受け、一時期は滅亡寸前にまで陥った。諸君の祖父母や父母、
「だが、我々は変わりつつある。かつては
「その証拠に、人族によるエルフの被害は、昨年で10年連続ゼロになった。これも、ウルスタイン周辺を巡回し、監視任務に就いてくれている諸君の努力の
私の感謝の言葉を受けて、直立不動だったエルフたちが、かすかに
私の言葉は決してリップサービスではなく、動かしようのない事実だ。
飛竜による哨戒飛行はとても有効だが、森の中など、どうしても見落とすポイントは発生する。
その穴を埋めてくれているのが、
「諸君は、我々エルフにとって、槍であり、盾でもある。我が種族の存亡は、ひとえに皆の努力と献身にかかっているのだ。そのことを、どうか覚えていて欲しい。」
「そして、同時に忘れないでもらいたい。諸君が全力を発揮できるよう、環境を整えるのが、我々上層部の仕事である。半年以内には、最新設備を整えた兵舎も完成する。田畑の
腹が減っては戦はできない。
そのあたりも、抜かりなく手を回す予定だ。
ここだけの話、来たるべきその日に向けた、携行保存食の研究開発も完了している。
「私は、諸君の活躍を期待している!!ゆえに、諸君も私のことを期待していて欲しい!!私と諸君は、単なる主従関係ではない――共にエルフ社会を守護する、同士なのだ!我が種族の
「そして、共に勝ち取ろうではないか!!もう誰にも
私は古代エルフ語に切り替え、握り拳を高々と掲げて、力強く呼びかけた。
『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』
すると、すぐに目の前の兵士たちからも、
『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』
『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』
『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』
『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』
『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』
『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』
『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』
『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』
『ラー・エルフ・ゲイン!!(エルフに栄光あれ!)』
そのかけ声は、いつまで経っても止むことなく、私が背中を向けてバルコニーの奥に入ってからも、後ろから高々と響き渡っていた。
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