第二十章:囁かれる真実
白狐に導かれ、ユイたちが辿り着いたのは、荒廃した古都のさらに奥深く、朽ち果てた神殿だった。
そこはかつての栄華を語るように、壮麗な装飾の残骸が灰色の瓦礫の中に散らばっている。
中央には、ひときわ古く、巨大な石造りの祭壇が鎮座していた。
白狐が、その祭壇の隠された窪みを前足で軽く叩くと、仕掛けが作動したのか、長年埃にまみれていた古代の文献が収められた石の箱が現れた。
ミコがおそるおそる、その文献に触れる。
指先が触れた瞬間、青白い光が走り、膨大な量の情報が、彼女の意識の中へと雪崩れ込んできた。
文献は、【色の呪い】が単なる病や寄生生命体という現象に留まらず、この世界の根源たる「忘れ去られた神性」と、深く結びついていることを明らかにした。
太古の昔、その神性は世界に鮮やかな色彩と豊かな感情をもたらす、恵みの存在だった。
しかし、何らかの理由で人々から忘れ去られ、その信仰が薄れるにつれて、かつての祝福は世界を蝕む呪いへと変貌していったのだという。
レンは、番人として代々口伝で伝わってきたおぼろげな伝承が、この深遠な真実の、ほんの表層をなぞっただけのものに過ぎなかったことに、愕然と衝撃を受けていた。
さらに、文献には「色を操る者」についての記述があった。
それは、ユイのように、色を視覚ではなく、音や匂い、記憶、そして痛みとして認識する、特異な感覚を持つ者たちを指していた。
彼らは、世界の均衡を保ち、呪いに対抗しうる唯一の存在として、古の時代から稀に生まれてきたのだと記されている。
ユイは、自身の「色弱」が、世界のバランスを回復させるために生まれ持った、特別な“異能”である可能性に、戦慄した。
これまでの感覚の変質も、その力が目覚めようとしている、覚醒の兆候だったのかもしれない。
しかし、その力が一体何をもたらすのか。
そして、その力を行使するための代償とは、一体何なのか。
新たな、そしてより重い疑問が、ユイの心にずしりとのしかかるのだった。
(第二十章 了)
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