第十八章:記憶の断片
「色を喰らう異形」が去った跡に残された、感覚情報が欠落した“世界の傷痕”。
ユイ、ミコ、そしてレンは、そこで立ち尽くしていた。
「聴こえる……」
ユイは、この虚無の中から微かな「残響」を捉え、それが過去に喰われた「色」の断片であると確信していた。
彼女の言葉を信じたミコは、意を決して一歩前に出る。
青系の色しか見えない彼女は、ユイの導きと、自らの能力の可能性を信じ、傷痕の中心――かつて広場だったであろう地面に、そっと手を触れた。
触れた、瞬間。
ミコの脳裏に、凄まじいまでのイメージの奔流が駆け巡った。
それは、数多の色彩が、泣き叫ぶ人々から暴力的に引き剥がされ、喰われていく、
人々が為す術もなく絶望に沈む中、まだ定まった形を持たない、原始的な姿の異形たちが蠢き、まるでご馳走にありつくかのように、無慈悲に色を貪り食らう光景。
さらに、この呪いが単なる自然現象ではなく、明確な意思を持った何者かの仕業であるかのような、不穏で冷徹な“思考の残滓”さえも、ミコは感じ取っていた。
『もっと、もっとだ。全ての色を、感情を、記憶を喰らい尽くせ』
それは、感情がそのまま色として認識されていた、より古い時代の悲劇の記録。そして、この【色の呪い】の、遥かなる起源を示唆していた。
「……うっ……ぁ……!」
ミコが苦痛に顔を歪めながらも読み取った記憶の断片に、レンは言葉を失い、衝撃を受けていた。
彼はこれまで、色の番人として呪いの存在は知っていたが、その深遠な起源や、過去にこれほど多くの犠牲があったことを、これほど生々しく感じたことはなかった。
彼の「匂い」で感じる色覚が、ミコから奔流のように伝わってくる記憶の「感情の匂い」――恐怖と絶望の腐臭――と共鳴し、それが紛れもない真実として彼の全身に迫ってくる。
この記憶は、呪いが太古の昔から存在し、幾度となくこの世界を侵食し続けてきたことを物語っていた。
そして、それは、世界の色と感情を貪ることで生き長らえる、寄生的な生命体である可能性を、強く、強く示唆していた。
ユイたちは、これまで漠然としていた呪いの正体に、一歩深く、そして危険な領域へと足を踏み入れたのだった。
(第十八章 了)
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