第12話自分の足で歩む
ラヴェンナがラ・ルヴィールを後にしたのは、冷たい朝の空気が澄み渡る日のことだった。湖畔の静けさと美しさを惜しむ気持ちはあったが、彼女は新しい道を歩む決意を固めていた。馬車に乗り込む際、宿の主人や市場で知り合った人々が見送りに来てくれた。
「お気をつけて。きっと素晴らしい旅になりますよ。」
「また戻ってきてくださいね!」
彼らの温かい言葉に感謝しながら、ラヴェンナは軽く手を振った。
(この街で過ごした日々は、私にとってかけがえのないものになりましたわ。でも、ここで終わるわけにはいきません。次の一歩を踏み出さなければ。)
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旅の途中の思索
馬車は静かに進み、広がる風景を窓越しに眺めながら、ラヴェンナはこれまでの出来事を振り返っていた。
(私がこの旅に出るきっかけとなったのは、婚約破棄と家の束縛からの解放。でも、それだけではありませんわ。この旅の中で出会った人々が、私の心に新しい視点を与えてくれた。)
エリアスとの対話や市場での出来事は、ラヴェンナにとって大きな転機だった。彼女は、貴族としての地位や義務に縛られるだけでなく、自分自身の意思で行動する喜びを初めて実感したのだ。
(私はただの「誰かの娘」や「誰かの婚約者」ではなく、一人の人間として生きていきたい。それが私の目指す道ですわ。)
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次の目的地での出会い
馬車が次の目的地である港町セリューヌに到着したのは、夕方近くだった。この街は交易の拠点として栄え、港には多くの船が停泊していた。街並みは活気にあふれ、異国の文化が感じられる独特の雰囲気が広がっていた。
ラヴェンナは宿を確保した後、港の周辺を散策することにした。夕日に染まる海を眺めていると、一人の少年が彼女に駆け寄ってきた。
「すみません、お姉さん。この辺りで紛失物を探しているのを見ませんでしたか?」
その少年は汚れた服を着ていたが、瞳には強い意志が宿っていた。
「紛失物ですの? 具体的にはどんなものですか?」
ラヴェンナが尋ねると、少年は小さなメダルのようなものを描写し始めた。それは彼の家族にとって重要なもので、どうしても見つけたいのだという。
「わかりましたわ。一緒に探してみましょう。」
ラヴェンナは少年とともに港を歩き回り、近くの人々に聞き込みを始めた。
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助け合いの中での発見
聞き込みの中で、ある船員が少年の探し物を拾っていたことが判明した。その船員に話を聞くと、メダルは船の中に保管されているとのことだった。
「助かりましたわね。」
ラヴェンナは少年とともに船に向かい、船員からメダルを受け取った。少年がそれを受け取った瞬間、目に涙を浮かべながら彼女にお礼を言った。
「ありがとうございます、お姉さん。これがなかったら、家族に顔向けできませんでした。」
「気にしないで。これも何かの縁ですわ。」
その言葉を口にした瞬間、ラヴェンナの心に温かい感情が広がった。誰かの役に立つことで、自分の存在が意味を持つと感じられたのだ。
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自分の力を信じる
宿に戻ったラヴェンナは、少年との出来事を思い返していた。この旅の中で、彼女は徐々に自分の力を信じるようになっていた。
(私は貴族の家に生まれたからこそ、他の人々にはない特権もある。その力を、自分のためだけでなく、誰かのために使うことができるかもしれませんわ。)
ラヴェンナの心には、新たな目標が芽生え始めていた。それは、自分の自由を守るだけでなく、他者と共に生きる道を模索するというものだった。
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次の目的地への準備
翌朝、ラヴェンナはセリューヌの市場で必要な物資を整えながら、次の目的地について考えていた。彼女の胸には、今まで以上に強い決意が宿っていた。
(この旅は、私が私らしく生きるためのものですわ。どこまで続くかはわかりませんけれど、自分の足で歩んでいきます。)
市場の活気に包まれながら、ラヴェンナは静かに微笑んだ。
「さあ、新しい一歩を踏み出しましょう。」
彼女の瞳には、明るい未来への希望が輝いていた。
婚約破棄万歳! みずとき かたくり子 @yuru2025
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