2 現実世界でこんにちは
いや、これもう……3じゃん!
その3じゃん! マジでぇッ!?
「……」
……こ、こうなるともう勉強どころではないぞ。
無理だ此処から勉学に励むのは。
俺は荷物を纏めて立ち上がり、歩き出しながらマナーモードを解除してスマホを注視する。
注視してそして問い掛けた。
『まだ敷地内にいます?』
『いるよ。ネクロさんと同じ図書館にいるなら。自販機一杯あるコーナーの前』
「……」
自然と足取りがそちらへ向いた。
正直、有耶無耶にしてしまうのが一番良いのかもしれない。
例え事実がどうであれ、お互い気付かないふりをするのがきっと一番良い。
……だってこんな風にお互いの素性を知って、折角楽しくコラボできる相手との関係が悪くなったりしたら嫌だろ普通に。
勇音さんとならともかく、残念ながら篠岡と仲良くやれている光景なんて浮かんでこないから。
事実やれるだけの事をやろうとして、結果うまく行かなかった訳だから。
それでも歩を進めるのは、このままモヤモヤしたくないってのもあるんだろけど。
それはそれとして。
「……」
「……」
クラスメイト、篠岡美紀と話すきっかけが欲しかったのかもしれない。
……追いついて顔を合わせて、早速アタフタと目を反らす篠岡との会話は中々発生しないのだけれど。
だけどそれでも痺れを切らすように、逃げるようにスマホに視線を落として何かを打ち込む篠岡。
そしてその直後飛んでくるメッセージ。
『これ答えだね』
……答えか。
そして答えなら。
勇音凛が篠岡美紀で、今俺の目の前に居るのが元気で明るい女勇者ではなく、人付き合いが苦手なクラスメイトなのだとしたら。
「答えですね。いや、答えだな」
せめて声を掛けるのは俺からである方がきっと良いだろう。
そしてそれから篠岡は何度も視線を逸らしてはこちらを見てを繰り返し、やがて言葉を紡ぐ。
「こ、こここ……コラボの打ち合わせでも、す、する?」
怯えながら。
それでも勇気を出すような、そんな提案。
……それを聞いて、少し疑問に思った。
なんで篠岡は有耶無耶にしようとしなかったのだろう。
俺以外にもクラスメイト全員と距離を置いていた篠岡だ。
今回の事も有耶無耶にしてしまえば良い。
距離を取ればいい。
篠岡が何も動かなければ、俺は此処に立ってすらいないのに。
なんでそうせず、そんな言葉を一生懸命俺に向けてくれているのだろう。
正直それは分からない。
それが分からない位に、リアルでの俺達の距離はあまりにも遠い。
それでも。
篠岡がそういう意思を示してくれてるのであれば。
勇気を振り絞ってまでそういう意思を示してくれたのならば。
俺にそれを無下にする理由なんてない。
「篠岡がそれでいいなら……やるか」
俺がそう返答すると、少しだけ表情が綻んだ気がした。
……そして。
「……うん」
初めて篠岡とまともなコミュニケーションが成立したと、そう思ったんだ。
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