2話 圧倒的LIKE

1週間後。


顔がええ~~~~~~~~~~~お耳ふさふさ~~~~~~~~!!


あっ皆様こんにちはこんばんは。サクラです。

開幕思いが溢れて人知れずニチャァと笑顔を浮かべてしまいました、失敬。


ここは大講堂。

絶賛上級生との選択授業、『幻想生物学概論』中です。


1週間前、推しの探索に余念のない私は、上級生も選択可能な項目を片っ端から選び、ウッキウキで先生に提出したのだが


「やる気があるのは素晴らしいことだけど、1年生のうちで取れるのは4科目までだからね」


と優しく諭され、泣く泣く絞る羽目になった。


中でも興味や知識のある『幻想生物ファンタズム学概論』『幻想生物学各論』『園芸』『体力育成(選択)』。これらを残すことにした。

ちなみにリタも『幻想生物学概論』と『幻想生物学各論』を一緒に選んだ。しかし他二つは、


「ボクは魔法薬学の応用が気になるから、そっち見てみるよ」


とのこと。そっちも楽しそうだなぁ……。


ちょっと心細い気持ちもありつつ、今は居てくれるのでいいのだ。ずっとくっついてたら鬱陶しがられるかもしれないし。それに、こんな美少女をずっと独占するのは世間に申し訳ない。


時を戻して今。

結論から言うと大当たりだった。

私の斜め前の席には、例の赤茶色の髪をした狐人族の推しがいたのだ。さらに嬉しいのは、学年が絞れたこと。

この幻想生物学概論は、高等部は1年生と2年生しか取ることができない。つまり、彼は2年生ということだ。

あとは名前がどこかで知れたらいいんだけど~~~~~~~~~~!へい!ユーのお名前気になっちゃうゾ☆


「なぁテオ、なんか寒気しない?」

「しないけど。何お前風邪ひいてんの?」

「いや、そうじゃなくて……うまく言えないんだけどなんか刺さる。視線的な何かが。」

「は、自意識過剰だろ」


ぴょーんと伸びた私の兎の耳が、前の席の些細な言葉を一言一句違わず拾う。拾ってしまう。


ああ、これは……もしや……いやもしかしなくても……


「ふふ、ふふふふふふふふふふふふへ」

「ねぇサクラ。よだれ垂れそうだよ」


お名前知ってしまったーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!


そっとハンカチで私の口元を押さえてくれる超絶スーパーウルトラ優女リタ。憂い顔も好き。


教授が恐ろしいものを見る目で私たちを見ていた。いや私を。




斜め後ろから見る推し――テオ先輩の姿は最高だった。

時間が過ぎていくにつれ、頬杖をついた後ろ姿が少しずつ左に傾いていったり。ふさふさのお耳は段々横に垂れていき、時たまぴるる、と動いたり。

実に眼福である。

テオ先輩の隣にいる垂れた犬耳の方はご友人のようで、自分の方に傾いてくるテオ先輩を肘で軽く小突いていた。


てぇてぇ(五体投地)


今すぐリアルで五体投地したいがさすがに公の場なので抑える。ついでに口角が天井に刺さりそうだがそれも抑えて、努めて真面目な表情を装った。


「サクラ……」

「んっhゴホン、どうしたの、リタお姉さま?」

「リタで……まぁいいか。あのね、顔が……まるで悪の幹部……は言い過ぎか。悪役令嬢が悪だくみしてる時みたいな表情だ。」

「あ、あまり変わらないかもその二つ~っ。」


リタに指摘され、両手で頬をむにむにとほぐす。確かに口の端が筋肉痛みたい。

ついでに軽く毛づくろいをした。顔に毛は生えてないけど。


「これで大丈夫かな?」

「うん。何もやましいこと考えてないように見えるよ」

「やましいことは最初から考えてないよ!?」


器用に小声で叫ぶと、リタも小声で「あはは」と笑う。笑った時にちらりと尖った八重歯が見えて大変かわいらしい。普段ミステリアスな雰囲気だから、こうした年相応の笑顔を見ると同性ながらきゅんが止まらなくなる。


「メロいですわお姉さま」

「メロ……なんだいそれは」


気にしないでオタクの妄言だから、と流させていただいた。

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