第49話 漁港大好きミナトくん【終】
今日も戸部漁港は賑わっている。
土日ということもあって、今日は漁協の「ヌマズサウルス当番」が割り当てられていた。俺の役目は埠頭に腰を下ろして見守るだけだ。すると、ハナとヌマズサウルスの子どもが勝手にショーを始めてくれる。正直、かなり楽な仕事だ。
当番にはそれぞれ特色があるらしいが、俺の回は特に評判がいい。
理由はシンプルで、YouTubeでバズった「ヌマズサウルスに乗る可愛いネコ」の実演が見られるからだ。
「ニャッ!」
ショーの締めくくりに、ずぶ濡れのハナが俺の肩へとよじ登ってくる。
これだけが唯一の欠点だ。濡れた体で容赦なくスリスリしてくる。まったく、この子は本当にいたずら好きだ。
しかも俺が嫌がっていること、そして客の前だから本気で怒れないことを、完全に理解してやっている節がある。
集金をしていると、子どもたちから次々と声をかけられる。
「ミナト〜! 一緒に写真撮ってー!」
「いいよー。でもちょっと待ってね」
そうやって呼ばれるたびに、ああ、俺もここまで来たんだなと実感する。
動画を撮り始めるきっかけになった大物YouTuberに少しでも追いつけただろうか。
今日の集金は五万円ほど。悪くない。
軽く金勘定をしていると、ヌマズサウルスの子どもが報酬をせびるように、俺の方へ寄ってきた。
「キュイ……」
「はいはい」
深海イカを一切れ与えると、満足そうに喉を鳴らす。
大事な商売のパートナーだ。
実はヌマズサウルスの夫婦には、最近もう一匹子どもが生まれている。ただ、そっちはこの子ほど人に懐いていない。もともと個体差なのか、この子が特別フレンドリーなのかは分からないが、少なくとも今のところはこの子が看板役だ。
一段落して、最初に声をかけてくれた少年のもとへ向かう。
「どこで撮りたい?」
「メガロドン!」
即答だった。
少し歩いて移動する。
そこにあるのは、戸部漁港名物のメガロドンの剥製だ。俺が釣り上げた個体を加工し、漁協に寄付したもの。全長二十メートルの巨体が天井から吊るされている。
子どもの隣に立とうとした瞬間、さっきまで俺のズボンで体を拭いていたハナが、慌てたように肩へ登ってきて、カメラ目線でドヤ顔を決める。
漁協が雇っているアルバイトの人がスマホを構えた。
「はい、チーズ」
「ニャッ!」
それをきっかけに、周囲の人たちも撮影希望で列を作り始めた。
「ハナちゃんかわいい!」
「ミナトチャンネルだ!」
「ハナちゃーん!」
俺は最初にメガロドンを釣り上げてから、さらに三匹ほど駆除に成功している。
他にも釣り上げた人はいるが、合計四匹も仕留めたのは俺だけだ。そのせいか、「メガロドン釣りのミナト」として、特に子どもたちからの人気が高い。
それでも、世界中のメガロドンはなかなか減らない。
被害状況から見て、少なくとも七十匹以上はいるのではないか、という推測もあるほどだ。モササウルスが比較的早く駆除されたのとは対照的だ。メガロドンは狡猾で、深海に潜むため対処が難しい。
だから俺は、全滅させるまで釣りを続けるつもりだ。
愛する沼津、そして駿河湾を守る。それが俺の使命だと思っている。
一時間ほど記念撮影に応じていると、ようやく列が途切れた。
ハナは俺の肩から地面に降り、大きく伸びをする。そして無言で歩き出した。振り返りもしない。俺が必ずついてくると信じきっているのだろう。
……まあ、ついていくけど。
向かった先は、いつもの海鮮丼屋だった。
「まぁ、ハナちゃん!」
おばちゃんが満面の笑みで迎えてくれる。
「ニャッ」
俺はさっき飯を食ったばかりなんだけど……。
とはいえ、ネコが勝手に入ったんです、とは言えない。入った以上、注文しないわけにもいかない。
「戸部漁港丼を一つ。ハナにはいつものをお願いします」
店内のテレビでは、山梨で公開が始まったブラキオサウルスの話題が流れていた。本栖湖周辺は世界中から観光客が押し寄せ、道路が麻痺しているらしい。
すごい話だ。
でも、元祖・古代生物の街は沼津だ。ここも負けていられない。
ハナはおばちゃんに撫でられながら、トロボッチを夢中で食べている。
その様子を眺めていると、俺の前に、明らかに多すぎる戸部漁港丼が置かれた。
「……量、間違ってませんか? 並を頼んだんですが」
「サービスだ」
そう言い残して、おじちゃんは厨房に戻っていった。
俺、来る前に魚介カレーを腹いっぱい食ったんだけどな……。
苦戦しながら必死にかき込んでいると、ハナがテーブルに前足をかけて顔を近づけてくる。近いし、息が魚臭い。
「こら、ハナ。テーブルに乗っちゃダメ」
「ニャ!」
まだ足りないらしい。
仕方なく丼に乗ってる刺身を少し分けて、床に置くと、満足そうに食べ始めた。
食事を終えると、ハナは今度は俺を先導するように歩き出す。
漁協の事務棟に入り、奥の倉庫の前で座り込んだ。俺の釣竿置き場だ。
……次は釣りか。
ハナに導かれ、以前巨大アンモナイトを釣り上げた場所へ向かう。
「ニャッ!」
釣り場の指定までしてくるネコなんて、この子くらいだろう。
ルアーを投げ、腰を下ろす。
ハナは俺の膝に乗り、そのまま丸くなってうたた寝を始めた。
しばらくすると、鈴が鳴る。
ハナが飛び起き、俺の足元をぐるぐる回る。
引きは強烈だ。
「今日の晩飯のおかず、増えるかもな」
「ニャッ!」
空はよく晴れ、富士山がくっきり見える。
穏やかな駿河湾を眺めながら、俺は思う。
この海を、沼津を、守りたい。
未来がどうなるかは分からない。けれど――きっと、これからも楽しい日々が続く気がした。
―終―
◾️◾️◾️◾️◾️
あとがき
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この物語の原点は、何気なくドライブをしている途中に立ち寄った「和歌山県立自然博物館」です。
和歌山はアンモナイトの産地としても知られており、モササウルス属の化石が発見されている土地でもあります。
実は大学生の頃、トンカチを片手に化石探しをして遊んでいた時期もありました(葉っぱや貝の化石くらいしか採取できませんでしたが)
気づかないうちに物語の下地になっていたのかもしれません。
また本作は、さまざまなYouTubeや小説作品から影響を受けています。
魚を釣る楽しさや、釣ったものを食べる喜び、土地ごとに違う食文化や港町の空気感。
そうしたものを丁寧に、楽しそうに描いている作品に触れるたび、「こういう世界はいいな」と感じてきました。
直接的な言及は避けますが、
YouTubeや小説など、数多くの作品に触れる中で、
「あ、これ好きだな」と思える構造や楽しさが確かにありました。
それらを自分なりに噛み砕き、組み直し、物語として形にしたのが本作です。
この場を借りて、そうした作品や創作者の方々に、心からの謝意を表したいと思います。
最後に。
ここまでお付き合いいただいた読者の皆さん、本当にありがとうございました。
作者フォローをしていただけると、とても励みになります。
またどこかで、別の物語でお会いできたら嬉しいです。
また何か釣っちゃいました? なぜか俺だけ古代生物が釣れまくる件 メモ帳パンダ @harilos
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます