第47話 伊東に行くなら◯◯◯♪

 今週末の三連休は亮太とハナと一緒にキャンプだ。

 漁協のマネージャーが車を出してくれて、最終日に迎えに来てくれることになっている。


 俺が漁協に寄付したハイエースに二人の原付を積んであるので、キャンプ場からのちょっとした移動も楽だ。


 今日は本当は琵琶湖系YouTuberのタナポンさんとのコラボ予定だったんだけど、身内の不幸があったようでキャンセルになってしまった。結局いつものメンツだな。


 ハナはさっきからバッタを追い回している。

 どうせあとで俺の前に獲物を持ってきて自慢してくるだろう。

 釣りもいいけど、こうやってのんびりするのも悪くない。


 ここは静岡県の伊東市の海岸沿いにあるキャンプ場。目の前にはきれいな海が広がっている。

 伊東市は伊豆半島の東側、熱海の少し南あたりだ。

 伊東にはずっと来たいと思っていたんだけど、原付で来るにはちょっと遠くて来そびれてたんだよな。


 今は砂利混じりの地面にペグを打ち込み、テントが飛ばないように土台を作っている。


「ニャッ」

「どうしたのかなー、ハナ? 立派なバッタだね!」


 ハナがバッタをくわえてドヤ顔でやってきた。

 たぶん「これはあげるよ」ということなんだろう。俺が受け取ると満足げに次の狩りに向かっていった。


 猫は人間のことをデカくて鈍くさい同族だと思っているっていう説を聞いたことがある。これも餌を恵んでくれたつもりなんだろうか。


 今回は小さめのテントを二つ立てる。これは亮太からの提案だ。

 俺がハナと寝るのを邪魔したくないらしい。

 たしかに以前のキャンプでは、亮太が横にいてハナが少しやりづらそうだった。


 テントを立て終わり、焚き火に火をつけていると、亮太が隣に座ってきた。


「亮太も、かなり貯金たまってきたんじゃない?」


 最近は金が余っているので、俺は会社の従業員に金を配りまくっている。

 俺を含めた三人の社員は、全員が1000万円プレイヤーだ。

 税金が上がるから、あとは会社の留保にしている。


 亮太はウチの会社の株も持ってるから、資産はもう億を超えているはずだ。


「まぁ、まったく使わないけどね」


 俺たち二人とも散財する気がないので、戸部漁協に出資しまくっている。

 今では俺たちは戸部漁協の最大の出資者だ。

 トロール船の新規就業のために資金はいくらあっても足りない。


 あー、のんびり過ごすのはいいなぁ。

 二人でだべっている間に、ハナがせっせと俺にバッタの死骸を貢いできて、気づけば七匹も手元にあった。


「ハナ、もうバッタは充分だからね」

「ニャッ!」


 俺の目を見て真剣な顔で鳴いた後、再びバッタ狩りに向かうハナ。

 せっかく愛猫からのプレゼントだから、有効活用するか。


 キャンプ場から歩いて数分のところに砂浜がある。

 バッタを餌に釣りをすることにした。


 テントに戻って釣竿を持つと、その瞬間ハナがバッタ狩りをやめて駆け寄ってきた。

 ほんと、この子は釣りが好きだなぁ。


 砂浜の釣りで狙う本命は、なんといってもキスだろう。

 この時期のキスはうまいんだよなぁ。


 ハナは砂浜に座り込むのが嫌なのか、椅子に座っている俺の膝に乗ってきた。重い。

 せっかくなので撫でてあげよう。


「ニャッ……」


 ハナは目を閉じて喉をゴロゴロ鳴らす。


 目の前の海は一見平和に見える。

 けれど、数時間ここにいたらすぐに気づく。船が一隻も見えないってことに。


 これは完全にモササウルスのせいだ。


 一か月ほど前に現れた新種の古代生物は、メガロドンより被害が大きい。

 メガロドンは基本的に餌と判断したものしか襲わなかったし、小型漁船の被害も確率的には低かった。

 今年に入って漁を再開していた漁協もあったそうだ。


 けど、モササウルスは目についた漁船を片っ端から襲ってくる。

 小型船での漁業は再び全面自粛状態だ。


 そのぶん駆除しやすいとも言えるかもしれないが……向こうのほうから捕鯨船に近づいてくるからな。

 メガロドンは俺が倒した一匹だけだが、モササウルスは既に二匹も駆除されている。

 漂着した個体を合わせれば、すでに三体の死骸が確認されているわけだ。


 漁業の未来を憂いながら、しばらく粘ってみたが、餌がバッタでは何も釣れないようだ。

 淡水魚ならこれで釣れるんだけど、海ではさすがに無理か。

 バッタなんて普段食わないだろうし、食いつきが悪いのも当然だろう。


 ハナを撫で続けていたら、気持ちよさそうに完全に寝てしまったので、亮太に抱っこ紐を持ってきてもらい、起こさないようにテントへ戻った。


 今日はバーベキューをする。

 肉もたっぷり持ってきてある。車で荷物を運べるからこそできる贅沢だな。


 肉を焼いていると、匂いに釣られたのか抱っこ紐の中のハナが目を覚ました。

 リラックスした姿勢のままにゃーにゃー鳴いていて、可愛い。

 これは「早くご飯よこせ」という意味だな。


 この子は肉はあんまり食べない。猫って肉のほうが好きそうなイメージだったんだけど。

 持ってきたトロボッチを皿に出すと、抱っこ紐から飛び降りて食べ始めた。いつ見ても美味しそうに食べるよなぁ。


 今日の釣果はボウズ。一匹も魚が釣れなかった。

 まぁ、そんな日もある。


 明日は少し離れた湖でニジマス三昧の予定だ。

 あそこは漁協が放流している場所だから、間違いなく釣れるだろう。


 寝袋にくるまってスマホを見ていると、ハナが無理やり中に入ってきて、「狭いっ」とでも言いたげに抗議してくる。


 ハナを寝袋から追い出し、お気に入りのタオルケットでミイラみたいにぐるぐる巻きにすると、すっかりおとなしくなった。

 ほんのりと温かくて、抱き枕に最適だ。本当に可愛い子だ。


 外に出ると、古代生物とやたら遭遇する俺だけど、こういう平和な一日も悪くない。


 腕に伝わる温もりを感じながら、ゆっくり眠りに落ちていった。

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