Adventurers!~酒と宝があるから死に立ち向かえる~

西海子

1.反省会:酒場でクダを巻く冒険者ども

「おーい、リーダー、こっちこっち」

 ひょこと伸びた手が誘っていることに気付いた“嘆きの”ベルンシュタインは、よろよろとしている仲間・トリスティスの腕を引っ張って移動していく。

 人でごった返す酒場を進むと、テーブルに就いている四人組が見えた。

「ベルンは何飲む~?」

 その中の一人、パーティーで唯一の女性であるオルテンシアがのん気に問いかけてくる。ため息を吐いたベルンシュタインは「エール」とだけ答えて、空いている椅子にトリスティスを座らせた。

「おい、目は覚めているのか、トリス?」

「――はい、灰、はい……生き返ったばかりなので、頭がすっきりしませんが、灰……」

「だめだこりゃ……トリスはミルクでも飲んどけ」

「いやです、ミードのミード割りで……」

 テーブルに崩れ落ちながら、顔だけ上げてそう言ったトリスティスにオルテンシアは「はいはい」と苦笑した。

「ミード二杯ね、他は~?」

「俺もエール」

 くたびれた様子のアクラが言うと、言葉尻に被せるような蛮声が発せられた。

「一番強い蒸留酒を蒸留したもんを三杯だ!」

「うるせーよ、おっさん。これだからドワーフは嫌なんだ」

 アクラが顔を歪めて吐き捨てるが、豊かな髭に顔が埋もれているドワーフ・ラーワは全く意に介していない。

「そちらはどうする、ビャクゴウ殿」

 瞑目して身じろぎ一つしていなかったビャクゴウは、ラーワの言葉にようやっと目を開けた。

「ふむ、それがしは冷えた水を」

「はいはい、いつものね~」

 オルテンシアが注文を取りまとめてから、声を張った。

「看板娘ちゃ~ん、注文で~す!」

 良く通るオルテンシアの声に、酒場の看板娘・アレグリアが足音も軽くやって来た。

「はーい! あら、“嘆きの”旦那のパーティーだったの。ご注文はー?」

「エール二杯、ミード二杯、いっちばんキツい蒸留酒を三杯、ミルク一杯、冷たい水を一杯で」

「はいはい、了解。ご注文毎度ー!」

 アレグリアが背を向けかけたところで、アクラが思い出したように付け足した。

「あ、あとツマミ」

「――うちは材料持ち込みでーす」

 いつも通りの言葉が返って来て、アクラは「だよなぁ」と呟いてため息を吐いた。

 すると、ビャクゴウが静かに手を持ち上げた。

「では、こちらを」

 その手にはいやに大きい兎が一羽ぶら下がっていた。

 ぎょっとしたようにアレグリアが目を剥く。

「ちょっ……ちょっと、それ、首狩り兎じゃない!?」

「うむ、帰る直前に某が仕留めた」

 パーティーメンバーはわざとらしい大きなため息を吐き出して沈黙する。

 気味悪そうに大きな兎を見ていたアレグリアは、ビャクゴウに確認する。

「毒、無いやつ?」

「左様、首は刎ねるが毒は無かった」

「――じゃあ、まぁいいわ。それ、捌いて焼いてきてあげる」

「かたじけない」

「飲み物だけ先に持ってくるわね」

 カウンターの向こうへと姿を消したアレグリアを見送り、ベルンシュタインは肩を落とした。

「今日のツマミは焼きボーパルバニーか……」

「美味いんすかね、アレ?」

 アクラが半ば諦めたように呟くと、トリスティスが陰気な笑いを零した。

「ひひ、私の首を刎ねた兎です、美味しく食べてやろうじゃないですか……」

「こえーよ」

「いや、真理だ。食うか、食われるか。刎ねるか、刎ねられるか。それが迷宮の掟だ、若造」

 ラーワがうむうむと頷きながら言うが、オルテンシアが切って捨てた。

「死なない方がお得なの。飲み代だってタダじゃないんだから」

 ちらり、とオルテンシアの視線が自分にぶつけられた事にベルンシュタインは気付いた。

「……今日は僕の財布から飲み代は出すよ。蘇生費はパーティーの財布から出すがな」

「是非もない、人の命には変えられぬよ」

 ビャクゴウが再び瞑目して言うと、他の面々も飲み代が奢りということで納得したようだった。

 そこへアレグリアが次々に飲み物を運んできた。

「兎はちょっと待ってねー、ごゆっくりー。あ、暴れたら叩き出すから」

 いつも通りの注意を付け足した看板娘に片手を挙げて了解を示すと、リーダー権限ということでベルンシュタインが木製のマグを手にした。

「じゃ、乾杯」

「かんぱーい!」

 一斉に声が上がり、それぞれが一頻り飲み物で喉を潤す。

 それを待っていたベルンシュタインは、ダンとマグをテーブルに置いて、鬱々とした声で宣言した。

「では、本日の反省会を開始する」

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