第43話 魔王の刺客
ゾルグがアキトを使い魔とした契約が成立してから、わずか数時間後。
リリアンの宮殿は、突如として激しい魔力に襲われた。その魔力は、ゾルグの「本質」の力とは異なる、より冷徹で、軍勢を率いる者に特有の威圧感を持っていた。
ゾルグは玉座で不敵に笑った。「来たぞ、アキト。魔王の使い魔候補の中でも、最も老獪なヴァラクだ。奴はわたしの首を狙っている」
セレネは緊張しながら玉座の間を見つめた。そこへ、巨大な闇の門が出現し、一人の悪魔が現れた。
ヴァラクは、全身を漆黒の鎧で覆い、肩には魔王の直属であることを示す紋章を付けていた。彼の周囲には、数名の精鋭の悪魔部下が従っていた。
ヴァラクはゾルグを見据えた。「ゾルグ。魔王様の勅命により、貴様を討つ。貴様のような危険な力が、使い魔の座につくことは許されない」
ゾルグは立ち上がり、傲然と笑い返した。「フン、ヴァラクよ。老いぼれの勅命など、今や塵に等しい。貴様こそ、このわたしに勝てると思っているのか?」
ヴァラクは、ゾルグの後ろに立つアキトに目を留めた。「貴様が、ゾルグが作り上げたという人間上がりの使い魔か。貴様ごと、ここで始末してくれる」
ヴァラクは部下たちに命じた。「宮殿を制圧せよ。そして、ゾルグとその使い魔を捕らえろ! 抵抗すれば殺してもよい」
ゾルグは玉座から一歩踏み出し、アキトに視線を向けた。
「アキト。貴様の忠誠を試す時だ。奴らを貴様の定着した力で蹴散らせ」
アキトの瞳には、一切の感情の揺らぎがない。「わかった」
アキトはゾルグのナイフを構え、ヴァラクの精鋭部隊へと突進した。彼の動きは冷徹かつ正確で、ヴァラクの部下たちの急所を的確に突き、次々と戦闘不能にしていった。
その隙に、ゾルグはヴァラクと直接対峙した。
「貴様のような小物に、このわたしが討てるものか!」ゾルグは闇の魔力を凝縮した巨大な鎌を召喚した。
ヴァラクもまた、鋭い剣閃を放ち、ゾルグの鎌と激しく衝突させた。宮殿内に、再び激しい魔力の爆発が響き渡る。
セレネは、アキトがヴァラクの部下と戦い、ゾルグがヴァラクと戦う姿を、不安げに見つめていた。ゾルグとアキトは互いに牽制し合いながらも、一時的に共闘している形だ。
「お母さま、本当にこのままでいいのですか? ゾルグ様がヴァラクに勝てばいいですが、負ければ全てが終わりです!」セレネはリリアンに詰め寄った。
リリアンは玉座の間から距離を置き、静かに魔術を準備していた。
「勝敗など、どうでもいい」リリアンは、ゾルグとヴァラクの激戦を見ながら、冷たく言った。「私が望むのは、この戦闘によってゾルグと魔王様の戦争が始まること」
セレネはハッとした。「まさか、お母さま……」
リリアンは、ゾルグとヴァラク、そして魔界全体に広がる魔力の波動を感じ取っていた。
「そうよ、セレネ。私たちの真の計画は、ゾルグが魔王の使い魔になることではない。魔界の二大巨頭、ゾルグと魔王がぶつかり合うこと。その混乱と、両者が持つ力の『本質』を、観察者としてこの目で確かめること」
リリアンは手に持った魔導具を起動させ、アキトへと視線を向けた。
「アキトは、その戦いの舞台を整えるための道具に過ぎない。彼の定着した力は、この激戦のデータを収集するのに最高の『器』となる」
リリアンは、ゾルグの計画を利用して、魔界の秩序そのものの裏側にある『真理』を探ろうとしていたのだ。
「さあ、わたしに本当の力というものを見せて頂戴」
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