第3話 灰色の光
アルバ:「あのぉ、さっき帰るって...確か緋縅隊って南を担当してる隊ですよね?今真逆に向かってるような...」
アルバは恐る恐る問いを発した。
ゼラノスは右手で持っていたアルバを右脇に抱え持ち直し、民家の屋根の上を走りながら
ゼラノス:「面倒臭いけど、拾わないといけない人がいてな。ここら辺のはずなんだけど」
と言うとゼラノスはスピードを落とし、コンビニの屋根の上で立ち止まった。そして、周りをキョロキョロ見渡し始める。
???:「どこに目ついてたんだ!ここにいるだろ!」
右横の街路樹の方から何やら声が聞こえる。アルバは街路樹を注視するが、そこには人なんて見当たらない。ただ、手のひらサイズの白い変な生き物が必死に枝にしがみついてるだけである。
ゼラノス:「ハハハ、もっと分かりやすい場所にいてくださいよ。かくれんぼじゃないんすから」
ゼラノスは笑いながら街路樹に近寄り、枝にしがみついてる変な生き物を左肩にポンッと乗せた。
アルバ:「動物と戯れてる時間あるんすか?人探ししてるんですよね?」
アルバは少しずつゼラノスに対しての緊張も薄れ、意見するようになり始めた。
???:「ゼラ、なんだこのチンチクリンは」
アルバは目を疑った。本来言語を話せるのは人間のみであり、例外的に話せるとしてもせいぜいインコぐらいだろう。しかし、目の前にいる訳の分からない生き物はハッキリと話したのである。今日1日予想外なことが起きてばかりだが、これは格別だ。
ゼラノス: 「あぁ、こいつは雑よ...新人君ですよ。」
確実に今雑用って言いかけていた。そこも引っかかったが、アルバにはその生き物が不思議で仕方なかったし、その生き物に対して隊長クラスが敬語を使っているのも引っかかる。
アルバ:「お前なんで喋れんだよ、てかなんだ?ネズミか??」
それを聞くやいなや、生き物はアルバの頭に飛び乗ってアルバの頭を本気でペチペチしながら
???:「チンチクリンのくせになんだその言葉使いは!私は人間なんだから話して当たり前だろ!」
アルバは余計混乱した。自分の目がおかしいのか?お世辞にも人間には見えない。それに何故怒られているのかも分からない。
ゼラノス:「まぁまぁ、そのくらいにしてやってくださいよ。誰だって話すネズミを見たらそうなりますよ」
ゼラノスが生き物を
???:「人間に見えないのは仕方ないとして、私はネズミじゃない!チンチラだ!!ゼラ、お前はそろそろ覚えろ!」
宥めようとしたのに余計に怒られたゼラノスは、左手で自分の髪を掻きながら申し訳無さそうに苦笑した。
ゼラノス:「このチンチラは元人間で、俺の師匠だった人だよ」
優しい目をしながらゼラノスはアルバにそう伝えた。チンチラは短い腕を組み、アルバの頭の上でプンプンしている。
ゼラノス:「名前はアテナ・ヴェルメール。16年前の光の柱が出たあの夜に、光の塊が当たってこの姿になっちまった。」
アルバ: (アテナ?どっかで聞いたことあるような?)
アテナという名前に少し引っかかったが、それよりもこの動物が元人間だということに疑問が溢れる。
アルバ:「"目覚め"は発現しなかったんですか?」
ゼラノスはチンチラの機嫌を伺いながら話を続けた。
ゼラノス:「詳しく言うと、アテナ姐が当たった光の塊は俺らのそれとは少し違った。俺らの光は白に近い黄色のような輝きだったが、アテナ姐の当たった光は暗く淀んだ色だった」
アルバは初めて聞く話に相槌を打つのも忘れていた。
ゼラノス:「そもそも光の柱から出てきた光の塊の数も少なかったが、アテナ姐の当たった灰色の塊はもっと母数が少なった。けどな、アテナ姐のような事例は片手で数えられるほどだが報告されている 」
アルバはどんな顔をして聞けばいいのか分からなかった。先程まで怒り回っていたチンチラも神妙な顔つきに変わっている。それを見たゼラノスは
ゼラノス:「まぁハズレくじ引いたってことだよ」
と笑い始めた。するとまたチンチラは元気よく怒り始めた。
アルバも愛想よく笑ったが、この話はアルバにとってかなり衝撃的なものだった。
話がひと段落つくとゼラノスは1人と1匹を抱え、また緋縅隊の基地に向かって走り始めた。
走りながらゼラノスはアテナに愚痴をぶつける。
ゼラノス:「なんで何度も俺に緊急メッセージ送ってきたんすか。そのせいで俺が試験抜けることになったんすから」
アルバ: (チンチラのためにあんな重要なイベント抜け出したんだ...)
アテナ:「仕方ないだろ、他の隊員はお前が仕事しないせいで大量の任務を消化中だったんだ」
ゼラノス:「いや俺も仕事中だったんだけど...」
アテナはゼラノスの言葉を右から左に受け流す。
アルバ:「なんであんな枝にぶら下がってたんすか?」
アルバの素朴な疑問にアテナはほれ来た!と言わんばかりに話し始めた。
アテナ:「聞いてくれよぉ、いつもと同じように基地の庭で散歩してたら腹減った鷲に捕まって隣町まで連れてかれちまって。鷲の腹に一撃かましてやったんだけど」
スラスラと壮絶な話を始めるアテナにアルバはツッコミたいがそんな隙もなくアテナは続ける。
アテナ:「一撃くらった鷲が上空で離しやがって地面に真っ逆さまに落ちたんだよ。なんとか下には停車してる引越し業者のトラックがあったから、それに間一髪しがみついたんだけど...」
アテナの話の続きを何故か急にゼラノスが続ける。
ゼラノス:「そのトラックが急発進。その直後にまた急停車。それでアテナ姐だけ吹っ飛ばされた。ちょうど吹っ飛ばされた先があの木の枝だったってことだね」
アルバ:「そんな訳ないんじゃ...」
アルバはにわかに信じ難く口を挟もうとする。
アテナ:「あぁそうだ」
アテナの返答にアルバは驚愕する。
そこに続けてゼラノスが
ゼラノス:「やっぱりね。先週と同じじゃないですか」
最早アルバにはこの2人が何を言っているのか理解できない。
アルバ:「先週と同じって...先週も全く同じことがあったんですか?!」
ゼラノスとアテナは、(こいつは何を驚いてるんだ?)という顔でアルバの顔を見ながら声を合わせて答える。
ゼ.ア:「「うん、そうだけど?」」
アルバ:「うん、そうだけど?で済むかぁ!」
アテナ:「お前はいちいちやかましいな」
アテナは呆れたように言う。
そしてゼラノスが
ゼラノス:「アテナ姐はとてつもなく運が悪いんだよ。先月は梱包材と間違われてダンボールに入れられて他国に輸出されかけてた」
アテナ:「梱包材と間違えてダンボールに詰め込んだのお前だろ!」
チンチラが叫ぶ。
アルバ:「はぁ...」(俺ここで生き残れるかな...)
アテナがブチ切れゼラノスがケラケラ笑うのを横目に、この隊でやっていけるか一層不安が増すアルバだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます