第28話 インフルエンサーMei

 戦場とユイナがハッスルしている頃、街中を歩く異様な美女集団が、人目を惹きつけていた。


「おい!見てみろよ道路の反対側」

「あ、どうした?えっ……」

 

 俺は持っていたスマホをアスファルトの上に落としてしまった。


「あれ程の女、テレビでも見たことない

それも集団で歩いていやがる」

「糞!俺はもう我慢できない!」


 男はスマホで写真や動画を撮りまくり近くの商業ビルに駆け込んで行った。


「お前の気持ちは痛い程わかる……俺も駆け込みたかったが、遅かったんだよ」


 男は哀しげにふっと笑った。

男の前がジンワリと滲んでいたのだった。



「何よあの人たち、めちゃクソ美人ばかりでしょう!」

「男が一人だけ居るわね。はっ!まさかのハーレムかしら!」

「よく見なさいよ冴えない男だよ。きっと付き人か荷物持ちね」

「だよね〜私もそう思う」


「あうっ!ちょっとMei急に立ち止まらないでよ!」


「マネージャーあそこ見て」


「何よ、いきなり。なっ!なんなのあの子達は!芸能界でも見た事のない美女だらけ!」


「早速スカウトを「違うそこじゃ無い」しなくちゃ!えっ?」


「先頭で手を振り回している子よ」


「歳の割には子供ぽくない?」


「多分JKね。よく見てあの子Tシャツの上にブラジャーを着けているわ。そしてあちこちに穴の開いたTシャツにジーンズ」


「穴の開いたってMeiよく見えるのねってスマホで拡大してんのかよ!」


「マネ!接触するわよ!」

「あー!待ってよー!」



「ねえロウ何処に行くの?」


「業務用を取り扱っている店で調味料や食材を買うのさ、お酒も買わないと人数も増えたしね。飲むだろうお酒」


勿論!誰も反対しなかった。


「お兄ちゃん私服を買ってくるわ」


「お、そうか。終わったら連絡してくれ」


「旦那様、私達もアズサちゃんと行って宜しいでしょうか?」


「別に構わないけど……あっ!お金わたしておくよ」


 俺は収納から500万を代表として君子さんに渡したが、あまりにもの金額に驚いていた。


「こんなには……」


「いいって、俺の奧さんには良いものを着せてあげたいから、それにずっと軟禁状態だったんだろ向こうに行ったら慣れるまで不便かもしれないし、色々と揃えたほいがいいと思うよ」


「旦那様!」


 抱き締められてキスをされた。

気が付いたらオリビア達とも路上でキスをしていた。


「きゃーー!」 「なんだとーー!!」


周りから悲痛な悲鳴や怒号が飛び交う。


「しかし、凄いヘイトだな、俺襲われるんじゃなかろうか……まあ全員返り討ちにするけどな」


「ロウ、コイツらロウを狙っているよ!

遥か上空に吹っ飛ばしてやるね」


「やるねって死んじゃうから駄目だよクリス」


「ロウ様、私が地中深くに沈めて見せます」


「駄目だよ、息が出来なくて死んでしまうよマリア」


「それじゃ余が全てを焼き払ってしんぜよう」


「何処の魔王様だよ!皆んなキレイサッパリ死んじゃうから辞めてくださいオリビア様」


「うーん良い考えだと思ったのにじゃ」


「皆んな俺の為に怒ってくれてありがとう

これは俺の問題、だから俺に任せて」


 周りを見渡しひと睨み、すると周りの雑多共は腰を抜かし糞尿を垂れ流しガクブル震え出した。


「奥様それでは、まいりましょう」


「はい」とオリビアとクリスが腕にしがみ付きマリアには正面から抱き締められた。


「マリアさん俺も貴方も大変歩き辛いのですが……」


でも柔らかくて気持ちいいわ。


「嫌!離れないわ!」


 ってか、マリアさん自分だけ浮き上がってる。じゃ俺もと、不気味な塊が歩道の上を滑る様に進んで行く。




 アズサ達一行は手近な百貨店に入り婦人服売り場を目指した。

平日の夕方前という事で比較的空いているような気がした。


 お兄ちゃんの奧さん達は会社の制服姿でタイトなスカートに白のブラウス、その上に濃いめのチェック柄のベストを着ている。


 ただでさえレベルが上がり、美人度が増しているのに制服なんて着ていたら、エロさ万倍一攫千金ですわ。


 ほら、猿どもが集まって来たよ。

何かの撮影かと思って周りをキョロキョロしている猿もいるけど、鬱陶しいには変わらない。


「お姉ちゃん達は服とかいっぱい持っていそうだけど」


「軟禁される前は結構もっていたけどね

難癖付けられて借金漬けにさせられて持っているもの全て売られたわ」

「奴らは最初から目を付けていたのね

気付いたら、もう遅かったんだ」

「何人かは私達を助けようとしてくれたようだけど、相手が極悪興行と知るとそれっきりだったわね」


「御免なさいね余計な事聞いちゃって」


「いや!アズサちゃん達には感謝してるのよ。私達を地獄から救ってくれたもの」


「矢島さんやオリビアさん達アズサちゃんやユイナさんには返しきれないほどの恩があるわ!」


「恩なんて……」


「ぶっちゃけ言うとワクワクしているのよ」

「あ、それは私もよ」

「異世界だよ!ファンタジーだよ!剣と魔法の国でレベルは無限!やるきゃないしょ!」


 ああ、お嫁さん達が脳筋でよかったね。お兄ちゃん。


「あの、ちょっといいかしら?」


 サングラスにキャップのイケているお姉さんが声を掛けてきた。後ろにもう一人いる。


 えっ、誰?私に言っているのかな?それは違う後ろのお姉ちゃん達だ。


 無視してサイズを選んでいると、更に

声を掛けて来た。


「私は貴方に言っているのよ!」


「えっ!嫌だなんでキレているの?」


「私はキレていません!」


「そう言い切る人程キレるでしょう」


「Mei貴方の負けよ」


「なんでよー!」


☆☆


「スィーツは別腹ね鱈腹焼肉食べた後でも

食べられるわ」


「それはアズサちゃんだけだと思います」


「酷いー!久美子さん!絶対クリスも食べられる筈だわ!」


 クリスさんって矢島さんのチンコを四本も切り落としたエルフの子ね。


久美子はただ微笑むしか無かった。


「あの、私はこう言う者です」


 名刺をチラッと見てからアズサは大声をあげた。


「えーー!やっぱり、超有名インフルエンサーで新鋭奇抜のファッションリーダーのマイさんだー!」


「……みぃです」


「……」


「ここのカフェは冷房が効いているのね」


 君子さんのナイスフォローでも暫くの間無言が続いていた。


「ところで、話と言うのは?」


君子さんの助け舟だ。


「実はアズサさんのファッションをみて閃いたのです!是非そのファッションの意匠登録を我々で行いたいのです!」


「意匠登録?」


「デザインを模倣されないように保護する特許みたいものなのよ」


「へー、そうなんだ。さすが君子さん」


理解してないね。と皆が思った。


「で、何を意匠するの?」


「そのTシャツの上のブラジャーよ」


「へっ?これ?」


「そうです。それを見て私はビビビと来たのよ!」


「そうなんですか……でも好きでこのような格好をしているんじゃないんです!」


「え、狙ったファッションじゃ……」


誰が好き好んでこんな格好するかよ!


「聞きたい?知りたい?本当に知りたいんですか?知ってしまったら後戻りは出来ませんよ」


 満面の笑みのアズサの目は一切笑っていなかった。


「もしかしたら、貴方の処女が喪失するかもしれませんよ?」


「なっ!」


何故私が処女な事を知っている?

その様な素ぶりは一切してない筈なのに。


(アズサちゃん魔法つかった?)

(あ、久美子も気付いた)

(多分相手の心を読んだのね)

(君子も分かった)


(流石、お兄ちゃんのお嫁さんズですね。相手の思考を読んだだけですよ。お姉ちゃん達の方が精度高いでしょう)


(限界迄殆ど使う事無いからね)

(お姉ちゃん達もMeiさんの思考読めてるでしょう)

(へへ、バレていた)

(勿論!)


 なに、この人達無言で微笑み合っているってマジ不気味とMeiは思った。


「意匠登録は好きにして下さい。それじゃ私達は帰りますのでご馳走様でした」


「ちょっと待ってよ!ファッションは根本的ベースまで知らないと完全なる再現はできないの無いよ!」


Meiさんはそこ迄考えているんだ。


「今のライフスタイルも変わるし人生観も普段の生活もごろっと変わるけど大丈夫なの?私は一切の責任を負わないからね」


「ぐっ……大丈夫なはずよ」


「マネージャーさんは?」


「マネも私と同じ気持ちよ!」


「本当に?」


マネージャーの山田は頷いた。

Meiとは、一蓮托生の心つもりでいつも行動している山田にとっては譲れない物がある。


「勿論他言無用よ」


「わかったわ」


マネージャーも頷いた。


「うひっ!」


アズサは笑った。

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