地獄の温もり

兼穂しい

第1話

*

* Chapter 1 春香と大河

*


「旦那さんとは一番最近、いつしたの?」


「2~3日前かな。」


「生で?」


「もちろん。妊活なんだから。」


「それなのに今、俺とこんなことしてる。」


春香の上に覆いかぶさり乳房を揉み続ける大河。


「・・・だって、向こうも浮気してるし。ね、そろそろ。」


「あぁ、チェックアウトだね。明日やだなー。」


「休日出勤お疲れ様です。なんか主任に目の敵にされてない?」


「されてるー!わかる?されてるんだよー!」


「大河くんは欠勤多いからだよ。」


「だって働きたくないんだもん!」


呆れたように笑う春香。




*

* Chapter 2 夏実と木下

*


木下の上にまたがり淫らに腰を振る夏実。


「あ、いくって。夏実ちゃん!」


「エー、まだ本気出してないー。」


「あんまりイジメないでよ。アイツのせいで休日出勤させられて疲れてるんだから・・・。」


「あー、あの欠勤の多い新人くん。管理職は大変ですね。」


「大変なんだよぉ。いたわってくれよぉ。」


夏実の上に覆いかぶさり、形の良い胸に顔をうずめる。


「・・・最近、彼とはどうなんだい?」


「・・・うん。上手くいってますよ。でもなぁ、アイツもてるから。もてまくるんですよねぇー。だから既成事実つくろうと頑張ってます。」


「既成事実とは?」


「ガンガンやって妊娠しようかと。そしたら向こうも逃げられなくなるから。昨日もいっぱいやりましたよ。・・・私、なんか、最低ですよね。」


苦笑いする木下。




*

* Chapter 3 秋菜とシャチョー

*


「な、秋菜。俺と結婚してくれ。」


「エー。」


「俺、いい歳だからさ。お迎えも近いからさ。俺が死んだら遺産は全部お前のものだから、若い男とくっついて贅沢三昧で暮らせばいいんだよ。」


「うーーーーーーんーーーーーーー。(それもアリなのかな)」


「出すぞ!」


「アッ」


「ウッ、ウッ、ウッ・・・!」


「また中に出してるーーーーーーー。」




*

* Chapter 4 春香出産

*


春香は出産した。


夫との間に出来た子と思っていたが違う。


浮気相手の大河は、いつも春香の前で避妊具を装着して見せてくれたので安心していたが、後背位の度にコッソリと避妊具を外し、春香と生本番を愉しんでいた。


子供の父親は大河である。


確証はないが、子供の成長と共に顔が大河に似てきたことで春香はそのことに気づいた。

だが今更騒いだところでどうにもならない。


春香はこの秘密を墓場まで持って行くことにした。




*

* Chapter 5 夏実出産

*


夏実は出産した。


彼氏と無事結婚した末のことだった。


だが、彼氏との間にできた子ではない。


木下の家で酒を飲み過ぎて意識を失ったことがあった。


木下は意識を失った夏実を抱いた。


子供の父親は木下である。


確証はないが子供の成長と共に趣味、嗜好が木下に似てきたことで夏実はそのことに気づいた。


だが今更騒いだところでどうにもならない。


夏実はこの秘密を墓場まで持って行くことにした。




*

* Chapter 6 タクシー(1)

*


タクシーの後部座席で、健康診断結果を気にするシャチョーこと、木下大河。


(俺、死ぬのかな・・・。でもまぁ、やりたい放題のいい人生だったよな。)


これまでの人生を振り返る。


とりわけ女性遍歴を。


(新入社員時代に知り合った桜井春香ちゃん、可愛かったなー。転職先で知り合った涼川夏実ちゃんも。)


葉山秋菜と知り合う前の木下は子供染みた夢を持っていた。


それは20代の肉体を持つ自分、春香、夏実で激しく3Pを愉しむこと。


風の噂で二人とも出産したことを聞いた。


時期的に二人とも自分がこっそり生本番を愉しんだ頃と計算が合うから聞いてみたいと思っていた。


「まさか俺の子じゃないよね?」と。


春香、夏実との関係は数回愉しんだあと自然消滅していた。


(懐かしいなぁ。二人とも元気かな。幸せに過ごしてるといいな。)




*

* Chapter 7 電話

*


娘からの着信に気づく春香。


「はい。アンタひさしぶりね。なんなの、全然連絡寄こさないし。」


「うん。(ズルズルッ)ごめんね。」


ウドンをすする夏実。


「秋菜は元気?」


「(ズルズルッ)わかんない。(ズルズルッ)」


「・・・いい加減に仲直りしなさいよ。アンタがお腹痛めて産んだ子でしょ。へんな男に捕まってたらどうするの!?」


「秋菜だってもう大人なんだから・・・。(ゴクッゴクッ)」


「なんでアンタはそうなの。私が離婚した頃から投げやりな感じよね。『苗字、涼川に変わるのイヤー』って泣いて、それから、」


「またその話ぃぃーーー。(ズルズルッ)」


「苗字と言えばアンタいつまで葉山姓を名乗り続けるつもり?旦那さん亡くなって随分経つのに。」


「今のままで不都合とかないし。役所やら金融機関の手続き面倒みたいだし。秋菜も葉山姓気に入ってるから。」




*

* Chapter 8 タクシー(2)

*


タクシーの後部座席で隣席の妻・秋菜を気遣う木下。


「疲れたろう。俺が代わるよ。」


産まれたばかりの冬美を胸に抱いていた秋菜。


落とさないよう、そっと木下に手渡す。


腕の中の冬美の温もりに思わず目尻がさがる。


不意に運転席のラジオから"娘に性的暴行を振るった父親"のニュースが流れた。


(おぞましい・・・ケダモノめ。ウチの子だけはそんなコトとは無縁の世界で幸せにしてみせる。)


レストランの駐車場へと滑り込むタクシー。




*

* Chapter 9 レストラン

*


親子3人水入らずの食事と思い込んでいる木下。


秋菜はサプライズを用意していた。


勇気をだして母・夏実に連絡し今までの非礼を詫び、仲直りの場として今日の食事会を提案していたのだ。


レストランの個室に夏実、祖母の春香が既に到着している。


まだ見ぬ名も知らぬ秋菜の夫について、口々にあれこれと想像し、楽し気に笑い合う二人。


レストランの名は「業火」。


"晩餐"が始まる。



~ Fin ~

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地獄の温もり 兼穂しい @KanehoShii

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