雨は止んだのでしょうか

雨は止んだのでしょうか。

先ほどまで顔にかかっていた雫が、いつの間にか落ちてこなくなっています。

ここから見上げる空は鈍色ですが、それはいつからだったのでしょうか。

たしかに青空だったのですが。

もう思い出せません。

わたしはあなたのことを愛していました。

だからあなたがわたしを憎んだことも、理解できました。

わたしは過ちを犯したのでしょうか。

それほど大きな過ちを犯したのでしょうか。

あなたの人生を壊してしまうような。

あなたがここでわたしの首を絞めている間、わたしはあなたの瞳を見つめていました。

そのときだけは、あなたはわたしを見つめてくれていましたね。

けれど、わたしにはもうあなたを見つめることができません。

わたしには、もう時の流れを感じることもできません。

いつの頃からでしょうか。

あなたがわたしを見てくれなくなったのは。

幼い頃は、確かにわたしを見つめていてくれたのに。

あなたがあの女（ひと）を連れてきた時に、ああ、やはりこの時が来たのだと。

わたしは密かに覚悟を決めたのです。

あなたが自由であるようにと。

あの女（ひと）はあなたをわたしから奪いましたが、それはあなたが選んだことでもありました。

わたしはそれも知っていたのです。

時が来れば、それは自然なことなのです。

わたしはそれを、静かに自分自身に認めました。

どこでどう、間違ったと言うのでしょうか。

どこから、こういう結果に導かれたのでしょうか。

かつて、わたしがあなたの父親を埋めたように。

あなたも、わたしを埋めたのですね。

それは、確かに青空の広がる秋晴れでした。

雨がまた降り始めたようです。

あなたは今、わたしの声を聞いていますか。

※以下は、事件の報道より

【母親遺棄事件】資産目的で共謀か　雨で露見、白骨遺体発見

滋賀県〇〇市——

市内在住の無職・佐藤健一容疑者（30）とその妻・佐藤美咲容疑者（29）が、健一容疑者の母親・佐藤和子さん（当時51）を殺害し、裏山に遺棄したとして、殺人および死体遺棄の容疑で県警に逮捕された。

警察の発表によると、健一容疑者は消息不明となっていた父親が残した資産の相続を目的に、妻と共謀して母親を殺害。事件は昨年10月頃に発生したとみられ、和子さんの遺体は自宅裏の山林に埋められていた。

その後、連日の大雨により山肌が崩れ、近隣住民が露出した白骨遺体を発見。通報を受けた警察が捜査を進めた結果、健一容疑者宅から母親の所持品やロープなどが確認され、犯行が明るみに出た。

容疑者らは当初、「母は家を出て行った」と説明していたが、取り調べにより犯行を認めた。県警は今後、動機や計画性の有無について慎重に捜査を進める方針。