第4話

といった具合に、ここにいる理由を目の前の悪魔に話した。初めのうちは相槌を元気に打っていたものの話が中ごろあたりに至った時点で静かになり、真剣な顔へと変わっていった。彼女にこの話しているのは自分だが元々心に募る鬱憤を吐き出す溜息がわりの代物のつもりであったためこんなに聞いてくれると思っていなかった。

他人に聞かせるものでもなくただの自己満足の産物だろう、こんなもの。

「ごめん、軽率に聞いていいものじゃなかったみたい」バツの悪い顔で謝罪が行われた。

「別にいいですよ、これくらい」少しスッキリしたし。

そんな自分の内心を知ったのか満足した彼女は微笑みを浮かべ、誰に聞かせるわけでもないように

「そっか」と呟いた。

ふと流し見た彼女の笑顔はとても美しかった。暗い夜で優しい光を発する月のようでつい、見惚れてしまうほどには

それからはせっかくあったのだしすぐに別れるのも寂しいということで、ほどほどに温くなったお茶を飲みつつ二人で話すことにした。正直、話を続ける意味はないし、この後やることがないなんてことはない。事実、今話していることは取り留めのない学校でのことで明日にでもなったら消えているであろう内容だ。そもそも他人に話して聞かせるほど面白い話を、持ってるわけでもできるわけでもない。しかし、それでも居続けてしまったのは、そんななんでもないことでできる笑顔が素敵だと思ったからだ。警察官である叔父から聞いたが悪魔という種は心の声を聞くことができるので他者に対する警戒が目立ち基本的には家族であっても心の底から信頼することはないという。叔父は初対面ながら好感を持った悪魔は邪な考えを持っている可能性が高く危ないのであったらすぐ逃げろと口酸っぱくいっていた。だから蝙蝠を彷彿とさせる羽や爬虫類のような尾を持っていながらもそういった様子がない彼女を警戒したのだ。しかし、少し話してみると何か代償をちらつかせるわけでもなく親身に聞き続けている様子はとてもそうは見えなかった。それこそ彼女の術中だと言われればそれまでだが、ただの学生である自分の身の上話を親身になって聞くのはそこまでメリットがあるとは思えない。という理屈を並べ立てたものの結局は好意を持った人が悪人じゃないと信じたいだけなのかもしれない。クラスメイトと一緒に不良に絡まれたなんてありきたりな話でも心配し、うまく切り抜けたというわかりきった結末一つで心底ほっとしたようにする。次第にこちらも楽しくなって、叔父の調査に協力した時の話や京都の修学旅行で侍の格好をした吸血鬼にあったことなどを話した。それを聞いた彼女のリアクションは前の話とは比べ物にならないほどで、まさに自分のことかそれ以上に驚き、喜び、悲しんでいた。そんな楽しい時間は矢のように過ぎ去り、あたりは真っ暗になっていた。話もキリ良く収まったということで別れる流れとなった。

「ヨイショっと」長く座っていたからか重く感じる腰を持ち上げ、帰路に着こうとした。少し後ろ髪が引かれる思いがしたが「仕方ない」と諦めて。しかし、少し遠くのベンチから声が聞こえてきた。「明日はいつくるの?」と間延びしたような声に情けないことに救われたような気持ちになった。面倒はかけたくない、さらにいうのならばつまらないことを言ってあの笑顔が失われてしまうのはとても怖い。別に、これ以上関わる必要はないし意味もない、けれど。「今日と同じ時間夕方の5時で」という口を止めることはできなかった。

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