Eternal nights

 この島はかつては太陽が輝き、真夏のように明るかった。人々の髪は金色に輝き、瞳も黄金の様な色をしていた。ここは最も太陽に近い国だった。太陽の神殿があり、人々は謙虚に、誠実に太陽を崇めながら生きていた。太陽の神殿は選ばれた神官だけが入ることができ、一日に3回太陽へ食事を捧げていた。その神殿の奥に、神官ですら入れない神聖な部屋があった。そこには太陽の燃えさしがあり、年に一度、夏至の日に太陽がその燃えさしの火を新しくしていた。古いままでは島を守る力が弱まってしまうからだ。


 ある若者はその燃えさしの事がどうしても見てみたかった。彼は神官に名乗り出た。長い期間、他の人たちの中で、彼は最も誠実に働き、最も熱意があった。長老たちは話し合い、彼を神官にすることに決めた。彼は念願の神官となった。そこでも彼は懸命に働き、最高位の神官となるべく努力した。最高位の神官は神殿の奥の部屋の鍵を授かり、夏至の日に太陽の為に鍵を開ける役目を任される。彼は何年もひたむきに働き続け、ついに最高位の神官に命名された。神殿の前で任官式に現れた白い服に身を包んだ彼は威厳に溢れ、彼の母親は感動のあまり「私の息子!」と叫んだ。彼は太陽に向かい自分の名を宣言した。その途端晴れやかだった空が曇り、太陽が顔を隠した。人々は恐れおののいた。何故太陽は彼から顔を背けたのだろうか、と。最も驚いたのは彼自身である。彼は太陽に何がいけないのか尋ねた。太陽はすぐに顔を出すと、元通り彼を照らした。人々は安心して式を続けた。だが彼は、自分の密かな願いに太陽が気付かれたのではと不安になっていた。輝く金の鍵を授けられたが、彼は燃えさしを見に行く勇気は無かった。そのまま月日が過ぎ、彼は今までの情熱が嘘だったかのように燃えさしについて考えなくなった。代わりに太陽に認めてもらうため、誠実に仕え始めた。夏至の日がやってきた。彼は久しぶりに燃えさしの事を思い出した。誰一人としていない静かな神殿の奥に向かい、彼は鍵をドアに入れる。鍵が開く音と共に、彼の心の鍵も開いた様だ。かつての情熱がそっと彼の背を押した。一瞬見るだけだ、彼はそう言い聞かせ、かつてないほど鳴り響く心臓を抑え、その口から洩れる高まった息使いを聞かれないように祈りながらドアを開けた。眩しい光が彼の目を眩ませ、温かさが彼の体を包み込んだ。彼は暫く立ち尽くしていた。目が輝きに慣れると、その足を部屋の中へ入れた。部屋の中央には琥珀でできた燃えさしがあった。輝く黄金色の拳ほどの球体がその中央で燃えている。これこそが太陽の燃えさしだ。彼は燃えさしの前に跪き、その美しさに息をするのも忘れ見とれていた。彼は暫くしてその燃えさしをどうにかして手に入れたくなった。目の前にある美しさに、一体誰が逆らえるというのだろうか。だからその部屋は神官ですら入れなかったのだ。あまりにも魅力的で、人の心ではそれを自制することができないのだ。彼は燃えさしに手を伸ばした。琥珀は熱く、燃えている様だった。彼は太陽の燃えさしを盗み出そうとしたのだ。突然黄金色の炎が掻き消えた。部屋が一気に暗くなる。それは神殿の外も同じだった。人々は空を見上げた。太陽の輝いていた空は消え、代わりに夜の暗闇が訪れていた。人々は互いの顔すらわからなくなり、暗い恐怖に陥っていた。彼は光の消えた燃えさしを持ち、その神殿で固まった。自分のしたことの重大さに気付いたのだ。だがもう遅かった。彼が燃えさしを戻しいくら許しを請うても太陽は顔を見せなかった。彼は跪いた。そのまま許しを請い続け、とうとう彼は石になってしまった。彼の母親もまた、嘆きのあまりかつて叫んだ場所で石になってしまった。彼らが石になった後でも、太陽はこの島を訪れなかった。そして、この島に罰を与えた。影が人々の中に送り込まれ、人々を襲うようになったのだ。その影は周りの闇よりも濃く、目の穴から黒い涙を流している。また、人々は島の外に出て太陽に見つかれば、焼かれて灰にさせられ、崩れ去ってしまうようになった。


 


 リトーンアイランド・太陽の伝説、夜の島の伝説

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