第14話 ボコられたわけだね
屋敷の外で女性が喚く声がしてしばらくすると、4人分の足音が廊下を軋ませ、部長、課長と共にライダースーツ姿の黒髪を男性の様に刈り上げた浅黒く背の高い女性と、神社の神職が着るような装束を纏った眼鏡で黒髪を腰まで伸ばした若い女性が居間に入ってきた。ヤマダは眼鏡の女性の少しはだけた大きな胸元に釘付けになり、興味の対象から外れたウマミイはホッとする。
眼鏡の女性は、部長に纏わりつきながら
「タヌ神様あ……みかなはどうすればあ」
ライダースーツの女性は黙って部屋の隅に正座した。
部長は纏わりつかれながらも黙って座布団に座り、大きくため息を吐いて
「ラブサイコパスを問い詰めるしかないな」
課長も黙って頷くと、部長はスマホの電源をつけ
「おい、聞いてるだろ。出てこい」
次の瞬間には、居間に置いてあるパソコンの電源が勝手に点き、ウマミイが見覚えがあるワンピースを着た女性が正座をして映っていた。
「あっ……」
というウマミイの視線を避けるように顔をそらした画面上の女性は
「あの……皆様、現在家宅捜索以上に大変な事態になっておりまして……」
部長がいきり立って
「おい!資金還流で脱税以上に大変な事態はないだろ!」
正座した女性は項垂れながら
「そこに居られる、鈴中さんなのですが……超高性能AIに守られている上に、恐らく関連した謎のハッカーにより私の身元を特定されまして……あの……現在機能制限をうけている状態です……」
しおらしい女性に部長はいきなりガッツポーズすると
「よしっ!何か分からんが、お前が大人しくなるならいい!あとタヌポーズ宛に弁護費用を一千万くらいお前の金で振り込んどけ!」
女性は正座したまま
「……海外口座もハッキングされて既に関係各所に振り込みが済んでいました……私が有機ロボットを作ろうと買収したラブ◯ール製造会社も整理が勝手に始まってます……」
部長は両腕を上げ喜びながら
「もう余計なことすんなよ!執行猶予中の人もいるんだからな!」
パソコンの画面の女性は正座したまま深く頭を下げると電源ごと画面が消えた。
それと同時にウマミイのスマホからルリの声で
「皆様、鈴中を守っているルリ・バージョンエスと申します。大変ご迷惑をおかけしています。今後共どうぞ鈴中をよろしくお願いします」
そう言うと沈黙した。
全員ウマミイを注目してくる。ウマミイは耐えきれずに真っ赤になり、しばらく無言の時間が続いた後に、色々察した表情の課長が
「要するに、調子に乗っていたうちのAIさんが、もっと強いAIにボコられたわけだね」
部長も頷くと
「鈴中さん、ちょっと話を聞かせて貰っていいかな」
ウマミイは戸惑いながらも嬉しそうに頷く。
ヤマダが立ち上がると
「今日はすき焼きパーティーっすね。酒も買ってくるっす!」
ライダースーツの女性が立ち上がり
「バイク出します」
2人は居間から出て行った。眼鏡の女性は部長に纏わりついたまま
「たぬう……ここでタヌ神様への勝利の祈りを捧げても良いですかあ……」
と言って課長から
「みかなちゃん……2階にこないだ作った祭壇があるでしょ」
「そうでしたあ……かいりさんもお……」
「一緒に行ってあげるから」
2人は出て行って、何と居間にはウマミイと部長の二人きりになってしまう。
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