第6章 著作権侵害のケース

 さて、ここではとりあえず日本における著作権法での、著作権違反になるケースをいくつか並べます。

 あ、分かりやすい違反事例は割愛します。

 許諾もなくガイドライン等で許可されてない他人の著作物(海賊版と呼ばれるものです)の画像や動画をSNSなどで共有とかは問答無用なので。

 ここで述べるのは『厳密に言えば著作権法に違反する』ケースで、これによって訴えられるリスクの大小は考えません。


 なお、以下の事例に出てくる『著作物』は全て行為者が著作権を持っていない、他者が著作権を持つ著作物を、正当な方法で手に入れたものとします(違法ダウンロードなどではない)。


 また、アメリカでは考え方が全く違うため、判断はかなり違うものになるのでご了承ください。本項の記載事項は、あくまで日本の現在(2025年)の法律に基づいた判断です。


 それから、ここでいう『グレーゾーン』というのは、法律のみを解釈するとアウトになりうるが、文化庁の行政解釈上は問題なしと判断されている場合を指しますので、基本的には大丈夫だと思っていいです。


【ネットワークストレージ(Googleドライブ等)へのアップロード】

 ●著作物を非公開フォルダにアップロードする。

 ⇒ グレーゾーン(私的利用に含まれると考えられている)


 ●著作物を同居する家族の共有フォルダにアップロードする。

 ⇒ グレーゾーン(私的利用に含まれると考えられている)


 ●著作物を遠方の家族の共有フォルダにアップロードする。

 ⇒ グレーゾーン(私的利用に含まれると考えられている)


 ●著作物を(物理的に会える)友人の共有フォルダにアップロードする。

 ⇒ グレーゾーン(家族よりは黒に近い)


 ●著作物を友人との共有フォルダにアップロードする。

 ⇒ 違法(公衆送信権の侵害となる可能性が高い)


 ネットワークストレージに関しては、個人利用している限りは、『現在の法解釈では』適法の可能性の方が高いです。ただしこれは文化庁の現在の法解釈でそうなっているというだけで、著作権法だけ解釈する場合は違法とする見解もある状態。なのでグレーゾーンなのです。

 また、ネットワークストレージは共有設定などで公衆送信の機能を持っているため、設定を間違えると、あっという間に違法状態を作り出してしまう点で、その運用には注意が必要だと思います。


【メッセージアプリ(LINE、GoogleChat等)へのアップロード】

 ●著作物を家族に共有する。

 ⇒ ほぼ適法(アップロード時に対象が私的利用範囲に特定されているため)


 ●著作物を少数の友人(物理的に会える)のグループチャットで共有する。

 ⇒ ほぼ適法(特定少数の送信であり『公衆』とはみなされないため)


 ●著作物を学校のクラスチャット(30人と仮定)で共有する。

 ⇒ 違法の可能性が高い(対象が多すぎるため)


 ●著作物を少数の友人(遠隔地にいる)のグループチャットで共有する。

 ⇒ グレーゾーン(公衆送信権の侵害と判断される可能性が高い)


 メッセージアプリの場合は、ネットワークストレージとは異なり最初から対象が明確に限定されています。

 そのため、その対象が私的利用の範囲に収まっているのであれば、適法とみられる可能性が高いです。

 ただしこれも、ネットワークストレージ同様サーバ側で複製している、という複製主体の考え方(著作権法第30条1項)を強く適用すると、違法になりえる部分がないとも言えないことは、知っておいた方がいいでしょう。

 また、対象の数が増えると『公衆』とみなされ、違法になりますので注意してください。

 都会の人数が多い学校のクラスチャットとかは、特に注意が必要です。


【SNS(X、Facebook等)へのアップロード】

 ●著作物を公開設定でアップロードし共有する。

  ⇒ 違法(複製権、公衆送信権の侵害)


 ●著作物を特定範囲の公開設定でアップロードする。

  ⇒ グレーゾーン(私的利用の範囲外と判断される可能性もある)


 ●著作物のURLを貼りつける。

  ⇒ 適法(URLは著作権の対象外)


 まず、そもそもで厳密に著作権法だけ解釈すると、アップロードする行為はサーバ側に『複製を依頼した』という見方をされ、サーバ側が複製の主体という扱いになります。そのため、複製権の侵害になり、それを依頼した側も複製権侵害の責任を負うことになりえることは覚えておいてください。

 ただ、そもそもで基本的に不特定多数、つまり公衆に対して自身が著作権を持たない、かつ許諾されていない著作物の公開は、違法だと思っておいた方がいいでしょう。例外はURLによる誘導だけかと思います。

 分かりやすい事例では、Xのリポストはどうやっても合法になるわけです(あれは基本URLでリンクしている)


【生成AI】

 ●生成AIに指示を出してイラスト・文章を生成させる。

  ⇒ 適法


 ●生成AIに生成させた(類似ではない)イラスト・文章を公開する

  ⇒ 適法


 ●生成AIに他者著作物に類似したものを作る(公開しない)

  ⇒ グレーゾーン(翻案権の侵害の可能性あり)


 ●生成AIに生成させた他者著作物に類似した文章・イラストを公開する

  ⇒ 違法(複製権または翻案権の侵害)


 ●著作物をアップロードし、加工(翻案)し、自分だけで楽しむ。

  ⇒ 違法(複製権および翻案権の侵害となる確率が極めて高い)


 ●著作物をアップロードし、その内容の解析を行う(本来の享受目的と違う)

  ⇒ 違法(複製権の侵害となる確率が極めて高い)


 ●著作物のURLを提示し、その内容の解析を行う(本来の享受目的と違う)

  ⇒ 違法(複製権の侵害となる確率が極めて高い)


[生成AIの特殊性]

 まず、生成AIの学習についてよくある誤解を一つ訂正させてください。

 著作権法第30条の4は、確かに著作物の学習を認めるとされています。

 ただしこれは、『AI運営側が情報収集のための学習させる』場合に限った話であり、一般利用者が生成AIにアップロードすることは、その目的が大きく異なる(学習のためではない)ため第30条の4の適用外です。

 よって、他者の著作物を生成AIにアップロード(またはURL提示)することは、単純な複製行為と解釈され、別の条項が適用されます。

 そして、その複製行為それ自体がサーバ側で行われること、そしてサーバ機能の性格の違いのため、現在の文化庁の指針でも違法と判断されます。

 似た動作をするクラウドストレージへのアップロードもこの点は同じのためグレーゾーンでしたが、クラウドストレージと比較して生成AIは公衆(特定されない多数または不特定の者)に向けた機器という性格が強いため、現在の法解釈ではより違法となる可能性が高いです。

 学習拒否もしていれば権利者に発覚する可能性がまずないため、親告罪である著作権違反に問われにくいだけです。


[独立した生成AIの場合]

 もし生成AIがクラウドストレージ同様、完全に個人別で、アップロードした素材が学習にも使われないと明確なった場合は、そのリスクはクラウドストレージ並みになりえますが、それでも加工を行った場合、それが翻案権の侵害になる可能性はあります。


 ただし個人で物理サーバを設置し、ネットワークを外部から遮断し、その中でAIを構築した場合は、これに著作物をアップロードすることは、私的利用の範囲として複製権の侵害にはなりません。

 そしてその結果を著作物の本来の享受の目的とは違うこと(統計的データの解析や画像の分析等)に使う場合は、基本的に著作権侵害とはなりません。

 ただし、改変してしまえば翻案権の侵害になりますのでご注意ください(公開しなければ発覚する可能性はほぼゼロでしょうし、二次創作に対するガイドラインが提示されている場合は問題ない可能性もありますが)


[生成AIで他の著作物に似たものを生成させる場合]

 サーバ上にある生成AIで既存の著作物との類似性が強い作品を生成することは、クラウドストレージへの他者著作物のアップロード同様、著作権法だけを見れば違法性がありますが、公開さえしなければ文化庁の指針から、私的利用の範囲とみることはできます。

 ですが、公開は避けた方が無難でしょう。


 なお、AIに対して過激な意見を持つ人の中に、生成AI自体が違法存在という人もたまにいますが、さすがにそれはありません。

 少なくとも現状、学習素材に著作物が含まれていることの是非についてまだ法的結論が出ていない以上、それを断言するのは適切ではありません。

 そしてその結論が出た場合、AI運営側は直ちに違法状態を解消すべく動き出すでしょう。その動きがどうなるかの予測は別項にて述べます。


 そのため、現状では生成AIに、少なくとも既存の著作物を連想させるものを生成させない限りは、何を作らせても違法にはなりませんし、公開するのも現状問題はありません。

 ただし既存の著作物を連想させるようなものを生成させ、それを公開した場合は、違法となる可能性が高いです。

 これらは既存の二次創作(ガイドライン等で認められているとする)に近いという見方は可能ですが、生成AIに作らせた既存の著作物に類似した生成物がガイドラインで許容された二次創作と見てもらえるかは、断言はできません。

 現状の生成AIが生成する既存の著作物に類似した生成物への社会的な見方からすると、『ガイドラインを踏み越えている』として著作権侵害を訴える可能性もある。

 それを考えると、少なくともそういった類似生成物のSNS等での公開は、極めてリスクの高い行為だと思います。


【その他】

 ●スマホなどの直接通信(赤外線やBluetooth等)で著作物を共有する。

  ⇒ 適法の可能性大(私的利用の範囲とみなされる可能性大)


 ●ローカルにダウンロードした素材を改変(翻案)する。

  ⇒ 違法(翻案権の侵害)

    ※ただし二次創作のガイドラインがあれば適法の可能性あり


 ●著作物をそれと分からないくらい加工する。

  ⇒ 適法(元の著作物の創作性が失われ、新しい独立した著作物となるため)

   ※二次著作物とみなされない

   ※ただし元の著作物の提示をすると同一性保持権の侵害となる


 ●著作物のファイル形式を変更する

  ⇒ 適法(翻案とはみなされない)


 ●著作物をごくわずかに加工する(トリミング等)

  ⇒ 適法(ただしやり過ぎると翻案権または同一性保持権の侵害になり違法)


 ●著作物のほんの一部(もとが分からない程度)だけ利用する

  ⇒ 程度によるが適法(元の著作物の特徴が残っていないため)


 ●著作物をそのままに、スマホ背景用に空白領域は自分で描く

  ⇒ 私的利用に留まる限り適法(複製に該当するため)


 前項でも述べましたが、日本で『私的利用』として認められているのは著作権法第30条1項にあるように『複製』のみです。軽微な変更(トリミング、コントラストの変更等)であれば『翻案』とはみなされませんが、例えば、元の著作物の上に別のキャラクターを描き加える、キャラクターの表情を意図的に変更する、新たなパーツを追加するなど、著作物に新たな創作性を加える行為は、翻案権の侵害となり、違法と判断されます。

 変更するなら、元の著作物が分からなくなるくらい変えてしまえば、それはもう元の著作物とは無関係となり、新たな著作物として認められますが。



 他にも色々微妙な案件はあると思いますが、とりあえず思いついた範囲で列挙しました。もしこういうのはどうなのか、などありましたら、コメント等いただければ調査して書き加えます。

 また、これらはあくまで日本の現在の法律及び法解釈に基づく判断(かつ現在の法解釈による判断)なので、法律が変わらなくとも法解釈の変化によっても適法・違法が変わることは十分あり得ますし、アメリカではまた違う判断になりえます。


【総括】

 ●他人の著作物は、自分または家族。近しい人とだけと共有するに留めるのが無難

 ●公開、サーバへのアップロード、生成AI利用時は各種著作権侵害に注意

 ●法解釈は今後も変わりうることに注意(適法行為⇒違法行為になることもある)

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