第33話 禁術融合
前線では、原初の闇が巨大化し、暴虐の限りを尽くしていた。
しっぽが蠢き、空中を鋭く切り裂き、両腕の巨大な拳で叩きつける。
まるで嵐が渦巻くかのような攻撃に、前衛の三人も耐え続けていた。
アーサーは巨大な拳を受け、壁に吹き飛ばされる。
ゼノはしっぽに数カ所刺されたが、表情は変わらない。心配はなさそうだ。
マキヤは土遁で攻撃をしのぐが、体力の消耗は明らかで限界が近い。
彼女は胸の奥で焦燥感が燃え上がる。
(この戦いで、ほとんど何もできていない……!みんなの力にならなきゃ、絶対に後悔する!)
決意が、マキヤの体を突き動かした。
獣忍法奥義
──《鬼神降臨》
白い巨大な怪物が、マキヤの体に吸い込まれると、変貌が始まった。
赤黒い炎が体を覆い、瞳は赤く見開かれ、口元は笑いを浮かべる。
舌を出し、体からは湯気が立ち昇る。低い構えで戦闘体勢を取り、何かを渇望しているかのようだった。
鬼神マキヤは、一瞬で原初の闇に目を定める。
瞬時に接近し、腹に拳を叩き込んだ。
拳は肉体にめり込み、今にも突き破りそうな勢いを見せる。
原初の闇が反撃に転じ、拳を振り下ろす。
鬼神マキヤは即座に避け、背中から双剣を抜き放ち、拳の腕を乱舞で切り刻む。
さらにしっぽが飛びかかるも、宙に舞い、身を翻してかわす。
鬼神マキヤは術の体勢に入った。
禁断の忍法──使用者の生命力と魔力を同時に燃焼させ、掌の一点に圧縮する。
放たれれば、紅蓮の花弁の如く空間が爆ぜ、周囲一帯を灰燼に帰す。
鬼神忍法
──
それは原初の闇に直撃し、腰あたりを切り裂いた。
怒りに燃えた闇は、次の瞬間、空に巨大な魔法陣を浮かべる。
古代魔法
──
二十の魔方陣から直径二百メートル級の隕石が次々と姿を現す。
灼熱の火を纏い、こちらに向かって落下してくる。
『ゼノ!来たぞ!今度は二十個だ!俺とお前で四人を防御するぞ!』
『わかった!最強の防御で防ぎきるぞ!』
アーサーは第十階梯魔法
──
そして勇者の
ゼノは第十二階梯魔法
──
さらに魔王の
『さあ、こい!前回とは訳が違うぞ!殺られる覚悟ってもんを教えてやるよ』
二百メートル級の隕石が、一個、二個、三個……火を吹きながら勢いよく落下してくる。
十個が同時に着弾し、最後の三百メートル級の隕石が衝突した瞬間、大地震とともに大爆発が発生。周囲は焦土となった。
アーサーとゼノは、かろうじて四人を守り抜く。
千枚の防御魔法はほとんど砕かれ、ギリギリの防衛であったことを物語っている。
アーサーは後方を確認し、全員が集中を切らしていないことを確かめると、再び前線へ走り出す。
前線では原初の闇が大暴れしていた。
大きな拳を振るい、闇の大剣で切り裂き、しっぽはヘビのように飛びかかる。
目からは黒いレーザーが放たれ、容易に近づくことはできない。
だが、アーサーとゼノは打開策を練る。
『ゼノ、あいつの動きを少しだけ止められないかな?』
『承知。』
ゼノは魔剣オメガを上空に投げ上げる。
アーサーは聖剣ゼータに魔力を注ぎ、全てを切れる刃をイメージして練り込んでいく。
聖剣ゼータも応えるように光を増していく。
剣魔一殺
──
ゼノが指を鳴らすと、魔剣オメガが黒炎をまとい、尋常でない速度で落下。
振動する空気と共に、原初の闇の右肩を貫き、地面に魔剣オメガが突き刺さった。
刹那、アーサーは我流五式を発動する。
全魔力を一点に収束させ、紅蓮の牙と化した炎を放つ奥義。
螺旋状に回転する炎牙は大地を抉り、数百メートル先の敵を貫く。
防壁も肉体も溶かし尽くすその一撃──
我流五式
──
ゼノとアーサーの剣撃が原初の闇を貫いた。
「ぐっはっ……ははははー!」
原初の闇は笑いだす。
――――
その間に、クロウは古代創世魔法に自らの禁術を融合させることに成功していた。
残るは神聖禁術の融合。
クロウは両方の魔力の質量を慎重に合わせながら、二つの魔法をゆっくりと融合させていく。
順調かと思えば魔力が暴れ、無理に押し込むと静まり、また暴れる。まるで意思を持った生き物のように、光と闇の力が手のひらの上で蠢く。
クロウは呼吸を整え、指先で微細な振動を感じ取りながら、一つ一つ丁寧に魔力を制御していく。額に汗は滲まないが、手がわずかに震える。
時間をかけ、集中を極限まで高め、ようやく三つの魔法は一つにまとまった。
その瞬間、目の前に歴史上、未曾有の魔法が現れた。
古代創世魔法と禁術、さらに神聖禁術が一体となった、唯一無二の魔法──
──
クロウはリナに問う。
「大丈夫か?三つの魔法が融合した魔法だ、起動しただけで、普通なら死ぬ」
リナは全神経を集中し、別々の暴れる魔力を一つに制御する。
『はい!大丈夫です!何とか操作出来ています。ですが、三つの魔法を安定させるのに手間取っています』
――――
前衛では原初の闇が更に力を増しだした。
その身にまとわりつく闇が濃くなり、黒い光が滴り落ちる。
次の瞬間、原初の闇の両手が変質し、四つの鋭利な黒刃と化した。
しっぽもまた剣へと姿を変え、その数は倍々に増えていく。
まるで闇そのものが意思を持ち、殺意の形となって伸びてくるようだった。
アーサーとゼノは、徐々に押され始めていた。
スキル《神眼》を持ってしても、その剣撃のすべてを防ぎきることは不可能だった。
一撃一撃が命を奪う死の斬撃。受けるよりも、かわすほかに術はない。
(この戦いでイーライのヒールは絶望的だ。攻撃はできるだけ回避に徹するしかない。原初の闇には充分ダメージが入っているはずだ!)
アーサーはそう判断すると、すぐさま魔力を全身に巡らせた。
何層にも重なる防御膜が光を放ちながら展開される。
そこへ、原初の闇の大剣が轟音と共に振り下ろされた。
空気が裂け、衝撃が地を揺るがす。
アーサーはぎりぎりのタイミングで剣を構え、受け流した──が、次の瞬間、鮮血が口から溢れた。
原初の闇のしっぽが、防御膜を貫通していたのだ。数本の尾剣が下腹部と脚を深く突き刺していた!
「ぐっ……!」
アーサーは歯を食いしばり、刺さったしっぽを一気に切り払った。
黒い血と共に飛び散る光の粒。彼は後方へ飛び退き、息を整える。
しかし──目の前に原初の闇の姿が、もう迫っていた。
アーサーの反応は一瞬遅れる。
だが、それより早く、ゼノが動いた。
まるで空間そのものを飛び越えるかのように滑り込み、原初の闇の額へ突きを放つ。
だが、原初の闇は寸前でそれをかわし、逆に両手の黒剣でゼノを四度切り裂いた。
そして追撃のように、無数のしっぽが槍の雨となってゼノを何度も何度も串刺しにした。
「ぐぉっ…!」
その声と共に、地面に黒い波紋が広がった。
ゼノの身体から、黒い影が滲み出す。
それは空気を喰い、光を奪い、徐々に周囲を覆っていく。
……ゼノの第三形態が始まろうとしていた。
少しずつ、少しずつ、影が集まりだした。
闇の粒が風に逆らうように蠢き、ゼノの身体に吸い込まれていく。
その影は怒りとなり、憎悪となり、圧倒的な“存在”へと形を変えていった。
そして、それは“影の王”として顕現する。
影の王は巨大な鉤爪を持ち、牙を剥き出し、体に黒雷を纏っていた。
右手には魔剣オメガ。その刃は雷鳴と共に唸りを上げる。
闇の咆哮が響き、影の王が一気に踏み込んだ。
斬撃!
雷を纏う刃が原初の闇を切り裂き、衝撃波が砂塵を巻き上げる。
続けて拳、蹴り、肘、膝──嵐のような連撃。
そのすべてが爆発的な速度で叩き込まれ、最後に影の王の口が開いた。
次の瞬間、影の王の口から黒光のレーザーが放たれた。
一直線に原初の闇を貫き、爆音と共に炎が咲く。
だが、ダメージは浅い。原初の闇の身体を、ほんの少し焼いただけだった。
今度は原初の闇が動いた。
数百のしっぽの剣が、空間を裂く音と共に放たれる。
一瞬で影の王の身体を貫く。
しかし、それは無意味な攻撃だった。
影の王の体は霧のようにそれをすり抜け、光速のごとき速さで原初の闇に接近。
左の剣が唸りを上げて突き刺さる!
だが、その瞬間、原初の闇の右拳が影の王の胸を撃ち抜いた。
両者が弾かれ、激しく地に叩きつけられる。
影の王は肩で息をし始めた。
その形態の維持に、膨大な魔力と生命力を消費しているのだろう。
アーサーは息を整えながら、急いで傷口を布で縛り上げ、再び剣を構えた。
原初の闇は、一瞬の隙を見逃さなかった。
影の王のまばたきが終わるよりも早く、距離を詰める。
黒刃が天から地まで弧を描いて振り下ろされる。
影の王はギリギリで見切った──だが、それは錯覚だった。
斬撃の速度が視認を超えていたのだ!
影の王の身体が、顔から股へと縦に裂かれ、衝撃波で吹き飛ばされる。
そのまま地に叩きつけられ、第二形態へと戻り、倒れ込んだ。
『ゼノ!大丈夫?意識はしっかりしてる?』
マキヤが駆け寄り、叫ぶ。
だが、ゼノの瞳は虚ろで、返事はなかった。意識はすでに闇の中に沈んでいた。
原初の闇はゆっくりとアーサーへと向き直る。
その姿は、まるで“絶望”が歩いてくるかのようだった。
両手の大剣が交差し、無慈悲な斬撃が襲いかかる。
アーサーは全スキルを高回転させ、防御と攻撃を同時に展開する。
火花が散り、地面が砕ける。
だが、背後から飛ぶしっぽの剣が、絶え間なく襲い続けた。
アーサーは跳躍して宙を舞う。
原初の闇の頭上に回転しながら飛び上がり、剣を構えた。
アルティメットスキル──
この世界に存在する「空間」「時間」「概念」すら分断する究極の斬撃。
斬撃が走るとき、世界そのものに“切れ目”が生まれる。
──
アーサーが剣を振り下ろした瞬間、世界が震えた。
光が消え、空間が軋み、時間が砕け散る。
生物の存在すら許さぬ究極の一閃。
その斬撃は、確かに原初の闇を切り裂いた──かに見えた。
だが、原初の闇はその斬撃を“飲み込んだ”。
そして、まるでアーサーを嘲笑うように立っている。
闇がうねり、空間が歪む。
その直後、原初の闇は古代魔法を放ってきた!
古代魔法
──
天地が燃え上がった。
刹那、炎と爆風が世界を覆い尽くす。
アーサーはギリギリのところでノヴァ・ガードを発動。
爆発の中心に叩き込まれ、吹き飛ばされ、地へと叩きつけられる。
鎧が砕け、彼の身体は動かなくなった。
『アーサーっ!!』
マキヤの絶叫が響く。
だが、返答はない。アーサーは静かに横たわっていた。
マキヤは息を呑む。
アーサーとゼノが倒れ、戦えるのは自分だけ──。
(しょうがない……あれ、もう一度やるかっ!命が尽きるのが先か、古代創世魔法が完成するのが先か……一世一代の勝負だよ!)
マキヤは印を結ぶ。
その瞬間、空気が震え、地が鳴動した。
白い光が彼の背から噴き上がる。
獣忍法奥義
──《鬼神降臨》
白い巨大な怪物が姿を現し、轟音と共にマキヤの身体に吸い込まれていく。
世界が震えた。
光と闇が交錯し、空気が裂ける。
マキヤの瞳が赤く輝いた瞬間、戦場の空気が変わった。
――――
鬼神マキヤは狂人化していた。
瞳は赤黒く光り、口元は歪み、荒々しい呼吸が戦場に響き渡る。
速さを生かし、原初の闇を翻弄する。
一撃入れれば即座に身を引き、チャンスがあれば双剣乱舞で切り刻む。
しっぽの剣も、相手の動きを読み、縦横無尽に交わしていく。
空気を切る風と金属音、そして地面に爪が叩きつけられる音。
全てが戦場の緊張を増幅させる。
しかし、原初の闇は容赦なく反撃してきた。
高速で振るわれる大剣が突き出され、鬼神マキヤも反応がわずかに遅れ、胸を深く貫かれた!
血が飛び散り、叫びと共に空中へ吹き飛ばされる。
原初の闇は手応えを感じ、剣に刺さった鬼神マキヤを無造作にぶん投げる。
だが、瞬間、鬼神マキヤの双剣超乱舞が原初の闇の頭部に叩き込まれた!
鋼鉄がぶつかる鈍い音と、衝撃で振動する大地。
原初の闇が振り返ると、そこには転がった丸太だけが残る。
原初の闇の怒りは頂点に達した。
黒煙と火花が飛び散り、戦場に緊張の圧がさらに重くのしかかる。
鬼神マキヤは命が尽きるまで、何度でも打ってでる。
超連続の高速技を何度も繰り出す。
目にも留まらぬ速さで双剣を振るい、荒々しい軌跡が空中に描かれる。
動きは狂気の化身のようで、戦場に残響が響き渡る。
しかし、鬼神マキヤに疲れが見えはじめた頃、原初の闇の左ストレートが放たれた。
瞬間、土遁──防御岩壁を何十層にも重ねる。
しかし、左ストレートは全てを打ち砕き、マキヤの体に直撃。
宙を舞い、壁に叩きつけられ、地面に激突した。
前衛三人は全滅した。
血と土埃、金属音と衝撃波が交錯し、戦場は恐怖と絶望に包まれる。
ゼノの意識がわずかに戻る。
『くっ、ゼロス……よ、我ら三人を守……れ。』
ゼノの影から、漆黒のオーラを纏った五人のデーモンロードが姿を現した。
ゼロスは鋭い光を帯びた魔剣グラムを呼び出し、原初の闇を包囲するように陣を敷く。
風が巻き、地面が震える中、五人の気配と剣の光が戦場に嵐の前触れを告げる。
攻撃の嵐が再び、凄まじい轟音と共に戦場全体を揺るがしていった。
爪を自在に鋭利な刃へと変えるイゼラ、腕そのものを凶器の刃に変化させるニーセ、両腕が異常なまでに太く力を増したサブザ、そして魔法を自在に操るシシア。
五人は互いの攻撃を呼吸のように連携させ、斬撃と打撃、魔法の嵐が戦場を裂く。
原初の闇も黙ってはいなかった。
古代魔法
──
左手からゆっくり放たれる魔法。
虚無と闇の力を結集し、対象を完全に消滅させる破壊魔法だ。
デーモンロードたちでさえ生き残れる可能性は極めて低い。
だがその瞬間!!
第二十階梯禁術
──
シシアが即座に反撃魔法を発動。
黒き炎が螺旋状に渦巻き、原初の闇を焼き尽くす。
光と闇がぶつかり合い、轟音と爆風が戦場を震わせる。
一瞬にして空気が焼け、戦場全体が灼熱の渦に包まれる。
その衝撃で、アーサーが目を覚ます。
ゼノも完全ではないが、動けるまで回復した。
マキヤもまだまだやる気だ。
双剣を握り、血を振り払い、再び前線を見据える。
デーモンロード隊の斬撃が嵐のごとく押し寄せる。
確実にダメージを与えつつも、確実に自らも傷を負う。
長期戦になれば、デーモンロード隊が確実に不利になる。
(俺も前線に戻らないと……!)
アーサーは体を起こす。
倒れたままでも、戦意の炎は消えていなかった。
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