第22話 激戦
ゼノは狙いを定めていた。
鋼の戦斧と敵の腕、その一瞬の軌道を読み取り、筋肉が極限まで緊張する。
そして、瞬時に動き、剛刃で叩き斬ろうとした。
が、斬撃は強固な拳に弾かれる。切れない!
しかし、刃は確かに傷を残した。
『ダメージは入る!徹底的に左腕を狙え!』
マキヤは一瞬の隙も逃さなかった。
双剣が閃き、風を裂いて咆哮する。
彼女の身体が残像を描き、烈風と共に左腕へ乱舞の嵐を叩き込む。
金属の悲鳴が響き、火花が散った。
だが、伝説級の双剣をもってしても、ガーディアンの腕を穿つには至らない。
傷はわずかに広がっただけ――それでも、確かに道を拓いた。
その刹那、アーサーの視線が鋭く光る。
全ての魔力が一点に収束し、空気が震えた。
「──我流四式、《ルナティック・スラッシュ》!」
エクスカリバーが天へと掲げられ、月光のような軌跡を描きながら振り下ろされる。
重力すら引き裂く一閃が放たれ、地を割る衝撃波が奔る。
しかし、ガーディアンは無機の巨腕でその一撃を受け止めた――。
光と鉄がぶつかり合い、世界が一瞬、悲鳴を上げた。
火花と金属音が爆音のように鳴り響き、空気が切り裂かれる。
ガーディアンはすかさず、アーサーに全力の拳撃を放つ。
アーサーはガードを構え、衝撃を受けながら後方へ弧を描いて飛ばされる。
ガーディアンは次にイーライを狙う。
その背後では、ゼノとマキヤが剣撃を雨のように降らせる。だが、無機質の巨体は一向にひるまず、右拳を振り下ろす。
イーライは神聖魔力を込めたセイクリッドハンマーを叩きつけ反撃するも、巨大な拳に弾かれ、強烈な痛みが全身を走る。
だがイーライは歯を食いしばり、魔力を体内で練り直すと、自己治癒によって傷を塞ぎ、再び立ち上がった。
その間に、最後衛のリナは魔力の緻密な生成に集中していた。
壁や天井から砂鉄を吸い上げ、高回転を与え、鉄へと姿を変える。
魔力を練り込みながら尖らせた刃は、まるで回転する鋭利な槍のように形を成していく。
リナは魔法発動の絶好のタイミングを計る。
しかしガーディアンの高速な動きに翻弄され、瞬間を見極めるのに苦戦していた。
『ゼノさん、ガーディアンを背中向きにしてもらえませんか?』
リナが小声で頼む。
『少し待っておれ』
ゼノが冷静に答える。
ゼノは右手に膨大な魔力を集中させる。
自身の魔力だけでなく、周囲の自然界の魔力も吸収し、右手の掌は燃えるように輝く。
短い時間で、右手には凄まじい力が宿った。
ゼノは神速でガーディアンに飛び、顔面に右ストレートを叩き込む。
拳が顔面に当たり、表面に少しだけひびが走る。
ガーディアンは姿勢を反転させ、背中を向けることに成功した。
(きたっ!今がチャンス!絶対外さない!)
第十六階梯魔法
──
刹那、膨大な魔力を練り込んだ真っ赤な尖った鉄が超高速で回転し、轟音を立てながらガーディアンに突進する。
衝撃波が周囲の空気を裂き、砕け散る鉄粉が光を反射する。
ガーディアンも攻撃を察知し、振り向いたその瞬間、左肩にリナの魔法が炸裂した。
装甲は砕け、部品が四方に飛散する。
しばらく停止していたガーディアンはブルブルと震え、怒りを宿して形態変化を始める。
四肢は鋭利に尖り、肘や膝には刃物が付く。頭部は尖塔のように変形し、負傷箇所も修復されないまま、全身が凶器と化していた。
ガーディアンは、いきなり飛び上がると、剣のような手足で周囲を切り刻む。
斬撃は光速に近く、普通の目では追えない速さだ。
マキヤは土遁で辛うじて回避する。
だがアーサーだけは神眼で動きを完全に見切っていた。
アーサーは一撃で確実にダメージを与えられる技を練る。
全てのスキルはマキシマムドライブにより超高速で回転している。
(ここで何とかしないと、後が苦しい)
静かに構えるアーサー。
風は止み、時間までもが凍るような静寂が戦場を包む。
刀身に黒いオーラが絡み、白と黒の光が交錯する。刃が“世界の理”を裂く音が微かに響く。
《我流五式──終焉ノ剣……》
踏み込みと同時に、空間が裂け、概念そのものを断ち切る斬撃が放たれた。
刃の軌跡には黒と白の断層が残り、数秒遅れて世界が崩壊する。
ガーディアンは斬られたことに気づかず、左肩を切られた衝撃で左腕が地面に落ちる。
怒りに満ちた雄叫びと共に、無差別に斬撃を放つ。
マキヤが反応する。
『みんな、今がチャンスだよ!ガーディアン理性失いかけてる』
『そろそろ己にも役目がきたみたいだな』
クロウは杖を構え、魔法発動の準備に入る。
杖の先に浮かんだ魔法陣が天井いっぱいに広がる。
第十五階梯魔法
──
魔法陣から放たれた光が、戦場全体を白銀に染め、稲妻が豪雨の如く空から降り注ぐ。
轟音と閃光が地響きを伴い、視界の端まで振動させる。
雷は無数の筋となり、空間を切り裂き、やがて収束して巨大な一撃となる。
その一撃がガーディアンの左肩に直撃すると、金属のような骨が砕ける音が響き、稲妻の衝撃で周囲の石や瓦礫が吹き飛び、戦場全体が光の嵐に包まれた。
ガーディアンの無機質な巨体は衝撃で揺れ動き、肩から火花を散らす。
その目は冷たく光り、次の攻撃のタイミングをうかがっているが、ガーディアンは左肩から左胸まで損傷し倒れる。
しかしすぐに立ち上がり、アトミックレイと高出力レーザーを放ちつつ、残った手足で攻撃を繰り出す。
リナ、クロウ以外のメンバーは攻撃を受け続ける。
──《遠隔オートヒール》
イーライの魔法が追従し、自動で回復を行う。
『みんな!我の元へ集まれ!完全防御結界を張る!』
ゼノが叫ぶ。
終極防壁――《ガーディアンフォース》!
黒い結界が展開され、ゼノ、イーライ、マキヤは避難する。
アーサーはガーディアンを引きつけ、神眼で動きを読み続ける。
『ゼノ!俺がガーディアンを引きつける、持って五分だ、その間に三人で左肩を削ってくれ!』
『わかった!アーサー、気を抜くでないぞ』
ゼノが笑う。
ガーディアンは右手、右足、左足で変則的な動きを取り、背中からアトミックレイを放つ。
光線が空気を焼き裂き、辺りの岩や地面を蹴散らす衝撃が地鳴りとなって伝わる。
アーサーは斬撃とアトミックレイをかいくぐり、鋭い光と熱を浴びながらも剣を握る。
深い傷を何度も受け、血が滴る中、意識が薄れゆく身体を奮い立たせ、変わることのない強さと、燃え上がる闘志を込めて刃先を操る。
そして──アーサーが光とともに覚醒する。
『──我流五式』
剣先が天を指すと、空に浮かぶ光の輪が低く唸りをあげ、ぐるぐると回り始めた。
周囲の空間を切り裂く無数の光の刃が、風のような音を立てながらアーサーの剣に向かって集まっていく。
その光の奔流は、まるで天そのものが割れ、世界のすべてを引き寄せるかのようだ。
黄金色の瞳が強く輝き、周囲の空気までが静止したように感じられ、世界が──一瞬止まった。
──
大気が震え、時が軋み、すべての力が一つの斬撃へと収束する。
アーサーの剣が大きく弧を描いた瞬間、空に光の輪が広がり、まるで天と地が一瞬でつながったかのように見えた。
その光は時間の流れを逆にたどるかのようで、世界全体を巻き戻すかのような圧倒的な力を放つ。
空気が裂ける轟音が響き、岩や瓦礫、神殿の床までが光の衝撃で粉々に砕け散った。
斬撃の輪は敵を中心に幾重にも重なり、空間そのものを切り裂いていく。
一度目の刃がガーディアンの肩を鋭く切り裂き、二度目の刃は体に深く傷を刻む。
だがガーディアンは反撃を止めず、背中からアトミックレイを十発同時に放つ。
光線が視界を埋め尽くすが、アーサーは全てかわし、頭部を狙って剣を振り下ろす。
が、弾かれる。
その背後から、マキヤ、イーライ、ゼノが連携攻撃に入る。
ガーディアンの視線はアーサーに集中しており、狙うなら「今」だ。
ゼノは魔剣グラムを高々と空に投げた。
この技は上空から剣や光の槍を突き下ろす、あるいは跳躍からの超高速落下攻撃だ。
叩きつけた地点には衝撃波が生まれ、周囲の敵や障害物を瞬時に粉砕する。
発動時には空気を裂く轟音と眩い閃光が伴い、視覚と聴覚の両方で圧倒的な迫力を生み出す。
場合によっては重力や時間を操作し、落下速度や衝撃力をさらに強化することも可能な、魔王特有の技だ。
『剣魔一殺――
ゼノが指を鳴らすと、遥か上空から、魔剣グラムが炎をまとい、常軌を逸した速度で急降下してくる。
振動する空気と共に魔剣はガーディアンの背中を貫き、衝撃で地面の石が砕け飛んだ。
『みんなで一気に叩くぞ!』
ゼノが叫ぶ。
イーライとマキヤは左肩と胸の破損部を集中的に攻撃する。
ゼノは魔剣グラムを回収し、再び攻撃に入る。
アーサーはガーディアンをその場に留めるため、攻撃を避けつつガードに専念する。
至近距離から放たれる高出力レーザーを避け続けるのは至難の業で、既に何十発も直撃を受けていた。
オートヒールの効果も消え、ボロボロのアーサーに、イーライが魔法を放つ。
──《遠隔パーフェクトヒール》
ガーディアンの防御は確実に弱体化しており、イーライのハンマーでも確実にダメージが通る。
マキヤも双剣でガーディアンの体力を削り続ける。
追い詰められたガーディアンは、突如白く光りだした。
光の粒子が空間に迸り、この世の物質ではない尖った刃が三六〇度あらゆる方向から光速で飛び出す。
視界が白熱し、衝撃波で周囲の地面も空中の破片も吹き飛んだ。
アーサーは瞬時にマキヤのもとに移動し、勇者の絶対防御──《ノヴァ・ガード》を発動する。
ゼノとイーライも即座に防御魔法を展開し、リナは余裕の表情のまま防御を維持する。
クロウは防御魔法を使わず、死ぬこともないので攻撃に動じない。
その隙を突き、マキヤが忍法を発動する。
『氷遁──《流氷旋風の術》』
口元から吹き出す凍てつく風と氷の欠片が渦を作り、ガーディアンを巻き込み凍結させる。
渦の中では氷の衝撃が連続して走り、肉体を削りながら動きを鈍らせる。
範囲内の地形も巻き込み、瞬時に空間の支配を握る。
青白い光と氷の刃が飛び散る様は、まるで氷の竜が空間を切り裂くかのようで、圧倒的な威圧感を放った。
ガーディアンの攻撃は次第に氷結していき、重々しい動きが鈍くなる。
青白い光と氷の刃が周囲をちらつき、まるで空間全体が冷凍されるかのようだ。
『マキヤ!よくやった!この好機をのがすな!』
ゼノは全身に力をみなぎらせる。
イーライは躊躇なく飛び出し、セイクリッドハンマーを全力で振り下ろす。
ガーディアンは叩き飛ばされ、空中で回転しながら暴風のように吹き飛んでいく。
その回転する巨体の先に、冷静に剣を構えるアーサーの姿があった。
彼の瞳は黄金色に光り、剣先からは微かに炎の熱が立ち上る。
剣先から炎の奔流を生み出し、敵を貫く超破壊技。
牙のように突き刺さる炎が肉体や防御を貫き、衝撃波と火柱で周囲を焼き尽くす。
一撃ごとに視覚と聴覚を圧倒し、戦局を一変させる力を持つ─
『我流五式
──
それは一瞬だった。
アーサーが消えたかと思うと、次の瞬間、エクスカリバーはガーディアンの胸を貫き、衝撃波と爆炎が体内で連鎖爆発を起こす。
均衡を失ったガーディアンは黒い力を吸収し始めた。
膨大なエネルギーを察知したマキヤは叫ぶ。
『やばい……自爆の反応!みんな、リナの防御結界に退避して!』
マキヤの声が鋭く響く。
その瞬間、ガーディアンの体から奔流のような魔力があふれ出した。
空気が震え、神殿全体が軋む。
床の魔法陣が赤く脈動し、光の筋が蜘蛛の巣のように広がっていく。
百重のインフィニティ・プロテクションにより、空間が押し潰されるような圧が襲う。
全員が結界の内へ飛び込んだ、その瞬間――。
閃光。
世界が白に染まり、音が消えた。
次いで、地を裂くほどの爆音。
神殿の壁も、天井も、石畳も一瞬で消し飛ぶ。
ただ、光と衝撃と轟音だけが、全てを呑み込んでいった。
砂埃が静かに晴れていく。
視界が戻ると、神殿の内部は──入口と出口を除いて、跡形もなく崩壊していた。
瓦礫の山、焦げた大地、そして、中心に立つ六人の影。
その瞬間、長きに渡る戦いの終わりが訪れた。
四大神殿、全ての攻略が完了したのだ。
千年以上、誰一人として踏破できなかった絶望の地。
伝説にすら「不可能」と記された試練。
それを、たった六人が、三年で打ち破った。
もはや奇跡ではない。
──それは、人の限界を超えた“新たな神話”の誕生だった。
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