第23話 犯罪奴隷、ユーザー登録は意味不明
「えー? ゆーざーとーろく? なにかできるんならやってみたら? 気になる気になるー」
お嬢が朝のスープに棒状のパン(朝イチの『くじ引き』で出てきた)を突っ込みながらにこにこしている。
確かに利用不可なガラクタ枠がなんらかの動きが出るなら気にならなくはないだろう。
シュナッツ少年は「クリーンピュアゴセンが動く!?」とすごくワクワクしているし、セバスチャン氏も沈黙のまま好奇心と期待を隠しきれていない。
「ジナエーナさん。ひとつレベルを上げて魔力総量を増やしてからその『ゆーざーとーろく』をいたしましょう」
メイリーンが水をさした。
クロエもそっと頷く。
「お嬢さまが魔力を使い過ぎて疲れてしまう魔道具です。必要魔力量が高い可能性があると思われます。レベルひとつ分だけでも魔力を上げておく用心は必要かと」
「必要、魔力量」
ジナエーナがハッと気がついたように、『くりんぴゅあごせん』を見つめる。
「魔道具みたいに稼働に必要な魔力を他から補充できればいいのにね。できないの? ナッツくん、セバスチャンさん」
お嬢が思ったより早くスープにとけたパンを掬い飲みながら小首を傾げる。
記憶にあるシュナッツ少年に聞くのも異世界で類似品に触れていた様子のセバスチャン氏に問うのも正しい。
シュナッツ少年とセバスチャン氏は視線を合わせて困ったように笑みを浮かべた。
稼働に必要な力は『電力』であり、魔力とは違う力であり、その対応は難しいという理解以上のものはないのだろう。
それを変質させるというのなら必要魔力量は思う以上に求められることが考えられる。
「魔力回復薬を買っておいた方が良いかもしれませんね。このガパルティには錬金術師のお店があるそうですしお値段次第ではいいかと」
移動中に周囲の大人から情報を得ていたらしいクロエがにこりと笑う。
「魔力回復薬でしたらありますね。わかりました。ジーナが魔力切れを起こした際はこのセバスチャンがなんとか致しましょう。しかし、まぁ、レベルをひとつ上げるのはいい考えですな。体力もあがるでしょうし」
ぐぐっと前のめりにセバスチャン氏が自分を売り込む。買い物をさせたくないのか早く動くところを見たいのかどっちだろうか。もちろん、俺も動くというなら見てみたい。
「お嬢さま、そろそろ役所にむかわれるお時間ですよ」
「はーい」
味が好ましくなかったのかぐずぐず飲んでいたスープを一気飲みしたお嬢がクロエとジナエーナに笑いかける。
「迷宮管理局で待っててね! あ。ナッツくんは……」
「あー? おれはガパルティ観光行ってくるよ」
「うん! レベル追いつくから!」
「いや。一日一レベルなんだから無理だってよ」
冒険者としてレベル上げしているシュナッツ少年に追いつくのはお嬢には難しいな。
あるとすれば少年を邪魔するくらいか?
ただ、お嬢はそれ望まないだろうな。
「レベル上げした後で今日は外壁から水を流しておきましょうね」
メイリーンがにこりと予定を追加する。
おそらくこの街でも水路の循環で水をぎりぎりまで再利用して外に流さないようにしているのだろう。
それをすると『彷徨いの森』が城壁を殴るという前例が存在するので辺境伯様に頼まれていたか。
「瘴気が強いので、お嬢さまの安眠に良くないんです。『彷徨いの森』がくれば、多少は散るでしょうよ」
「え! 彷徨いの森さんがきたら瘴気散るの!?」
お嬢が驚いている。
「血潮に混じる魂が植物の芽吹きにつられて輪廻に旅立てると言われておりますね。変異種も潤う緑の環境では生じ難いそうですし。やはり私のお嬢さまはまごうことなく聖女様ですね」
「え。聖女じゃないし」
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