第8話 犯罪奴隷、調整する

 迷宮体験で子供達はそれぞれレベルを上げた。

 お嬢も細々とスキルが増えたらしく嬉しそうに跳ねていた。

『裁縫』スキルと『身体強化』スキルに『体術』スキルあたりらしい。あとは料理と掃除が欲しいかもと笑っていた。

 行軍ってなぁにと聞かれたので移動スキルの一種ですと答えておいた。

 確か、『行軍』は軍における長距離移動。

 旅とは少しばかり違うものだ。お嬢の巡回がそれに準ずるものであった証拠であり、過酷な移動に耐えた成果と言える。

 一度、二度行軍に同行したところでこのスキルは発現しない。街道巡回をする騎士団や兵団に所属し十回を越えて参加した者でも八割発現するかどうかである。

 旅程の無理もストレスもスキル技能により軽減されるもので集団に一人このスキルを持つ者がいると旅程が楽になると言われている。ストレス軽減が集団に適応されるからだ。幸運が高いなら水場や敵性生物との遭遇の低下、現地食糧調達の簡易化など利点が多いのだ。

 とりあえずお嬢には後でステータスカードに優先表記させるスキルについておはなしあいが必要だろう。

 途中からコドハンの警備兵(教官と見習い)が実験農場から来た見習いを引き連れて迷宮体験が大がかりになった。

 ただ、お嬢達は既に今日のレベルは上がっているので基本は兵士達の動きを見るという方向に切り替えた。

 お嬢は「わたしもみたい」と言いながらまだ乾燥して見えるちょっとはなれた場所で水の放出を続けていた。

 兵士達にとっても護衛訓練だろうし、見習い達にとってもレベル上げの機会だ。

 他の見習い達と帰ることになった妹ちゃんと弟くんと別れ、シュナッツ少年と帰路につく。

 弟くんが「おにく」とゴネていたのは兵士のにーさんが「食堂メシを楽しみにしてろ!」と胸を叩いていた。ところで兵舎での食事じゃなければ坊ちゃんよけいにゴネないかねぇ?


「お店、増えたよねぇ。買い物楽しみ。あ、ナッツくんコドハン鍋ってなぁに?」


 お嬢が指し示す先の屋台では大きめの鍋をかき混ぜている屋台の店主がいる。

 ちょっと屋台の種類が増えて配置は新しく見て回る必要がありそうだ。


「器を持っていけばスープを売ってもらえるんだよ。スープの中には割り入れたボウメンが入っているから十分に腹に溜まるってワケ」


 なるほど。


「え。それって麺ふやけてない?」


「ボウメンのカケラは早々に引き上げてると思うぜ」


「そっかあ」


「麺を啜るのが苦手ってやつも多いしな」


 普通苦手では?

 あと、行儀が悪い。


「今日は期待しとけよ。アンシーの水があるからたっぷりの水でゆがいて、水にさらしてしめてからスープに投入して具材をのせる本格派でいくから!」


 お嬢ありきの料理。まだまだ水は不足しているようだ。

 それにしてもその調理法それが本格派なんだ?


 夕食は美味かった。ボウメンには逃げられぎみだったが。お嬢とシュナッツ少年は上手に道具を使って食べていた。メイリーンも得意げに二本の細い棒を使いこなしていた。

 食後にお嬢がお裁縫の稽古をはじめた横でシュナッツ少年に聞いておく。


「冬の間、コドハンからはなれてガパルティに行くつもりはないか?」


 ガパルティの迷宮も魔力が偏り、変異種が迷宮内を闊歩しているそうだ。もし、お嬢の水の放出で魔力均衡が整えられるのなら氾濫の危機を回避できるのではないかという辺境伯様のお考えだ。

 お嬢も知った顔がある方が気が紛れるだろうし。


「ガパルティ。大きな町で滞在費もかなりかかるって聞いてる」


 調べたことはあったのかシュナッツ少年が不安を口にする。


「冬の間の滞在費とコドハンとの往復費用は領主様持ちでいけるぞ。コドハンの兵の一部も訓練と称してガパルティ行きだからそれに往復便乗するならという条件だが」


 実験農場の見習い達もコドハンでそのまま訓練組とガパルティ訓練組と実験農場帰還組の三チームに別れるらしいという予定だけは聞いた。

 ガパルティにもお嬢の家は準備されており、辺境伯様の部下によって管理されているはずである。専用の警備員と家宰が管理しているらしい。


「そっかぁ」


 悩ましいのなら誘う理由をひとつ。


「このコドハンでの護衛依頼ではあるけどな。シュナッツ少年には経験を積んで欲しい。今はお嬢よりレベルも高いし伸びもいい。お嬢だってこれからすくすく伸びるんだよ」


「戦闘機会は少ない気がするんだけど!? ジェフ」


 横でお裁縫していたお嬢が声をあげる。

 いやだって。

 お嬢を危険に晒すワケないでしょう?


「……。ジェフさん。行ったら強くなれますか?」


「もちろん。迷宮外での訓練にも付き合える時間はできるだろうね」


「師匠面されるのがいやならはっきり言った方がいいわよ」


 メイリーンが妙なチャチャを入れる。


「メイリーンさんに魔法を教えてほしいと言ったら教えてもらえますか?」


「お嬢様が許可なさればかまいませんよ?」


 習っても使える適性があるかどうかは別だが。知識は力だよな。


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