無能と呼ばれ追放されたけど、隠しスキルで勘違いされ英雄扱い!? ~気づけば国中から求婚されてました~

妙原奇天/KITEN Myohara

第1話 無能追放、そして――勘違い英雄伝説の幕開け

 「――カイ、お前は今日限りでパーティを追放だ」


 石造りの広間に、冷たい声が響いた。

 勇者パーティのリーダーであるアレスが、まるで何でもないことのように言い放つ。


 俺――カイは、ただ呆然と立ち尽くした。


 「……なんでだよ。俺、戦いでは後方で支援してただろ?」

 「だからだ。お前の魔法は地味で役立たずだ。勇者パーティには不要だ」


 仲間たちは目を逸らし、誰一人として庇わなかった。

 ――ああ、やっぱり俺は“無能”なんだ。


 胸の奥で小さく諦めが灯り、俺は笑うしかなかった。


 装備もろくに与えられず、追放された俺は、王都を離れて人気のない森を歩いていた。

 夜の帳が下り、風が冷たく肌を刺す。


 (……まあいい。俺には生まれつきの“隠しスキル”がある。誰にも言わなかったけどな)


 〈反射同調〉。

 敵の攻撃を、無意識に“受け流して返す”スキルだ。

 ただし、完全に制御できず、今まで表に出すことはなかった。


 「どうせ、俺一人の力なんて……」


 そう呟いた瞬間、地鳴りが響いた。


 ――ガアアアアアアッ!!


 現れたのは、鋼鉄の鱗を持つドラゴン。

 王都でも討伐に失敗したばかりの、危険指定魔獣だった。


 「な、なんでこんな所に……!」


 剣を構える暇もなく、巨体が迫る。

 鋭い爪が振り下ろされ、俺は咄嗟に身を捻った。


 次の瞬間――


 轟音。

 ドラゴンの爪が自分自身の腹に突き刺さり、血が噴き出したのだ。


 「……え?」


 俺はただ避けただけ。

 だが〈反射同調〉が発動し、攻撃の軌道をそのまま跳ね返したらしい。


 ドラゴンは絶叫し、巨体を震わせ――そのまま崩れ落ちた。


 ――ドサアァン。


 「お、俺が倒したのか……?」


 呆然と立ち尽くす俺の耳に、歓声が飛び込んできた。


 「す、すごい……! ドラゴンを一撃で……!」

 「まさか……伝説の勇者が帰ってきたのか!?」


 森の外れで怯えていた村人たちが、俺の姿を見て膝をついた。


 「救世主様! 我らをお救いくださり、ありがとうございます!」

 「どうかこの村にお泊まりください!」


 ――は? ちょっと待て。

 俺はただ避けただけだぞ!?


 しかし彼らは完全に誤解していた。

 俺の頭上に舞い散る月明かりを「神聖な後光」だと勘違いし、土下座まで始めたのだ。


 「……え、えぇぇ?」


 翌朝。

 村の広場はお祭り騒ぎになっていた。


 「伝説の勇者カイ様が復活なされた!」

 「聖女リリア様にもお伝えしなくては!」


 俺の知らないところで、噂は一気に王都まで広がっていく。


 そして――


 「あなた様に仕えさせてください!」


 現れたのは、白い修道服に身を包んだ聖女リリアだった。

 彼女は潤んだ瞳で俺を見上げ、ひざまずいている。


 「私の命、あなた様に捧げます!」


 「……は?」


 ――こうして、“無能追放”されたはずの俺は、

 勘違いの果てに“英雄”として祭り上げられることになったのだった。

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