第11話 試験の裏で、仕組まれた罠
再査定から数日後。俺はギルド本部の訓練場に呼び出された。理由は“追加試験”。名目はスキル安定化の確認だが、空気は明らかに違っていた。
「神谷レイジ、入場!」
訓練場に入ると、観覧席には上層部の姿があった。支部長、ルシエル、そして見知らぬ幹部らしき数名。嫌な予感がする。タツヤが隣で苦い顔をした。
「なあ神谷、今日の相手……普通じゃねえぞ」
「何者だ?」
「他支部から派遣された“テスター”。実戦形式で暴走の可能性を測るって名目らしい」
扉が開き、黒装束の男が一人現れた。仮面にギルドの紋章。動きに無駄がなく、気配が薄い。明らかに戦闘慣れしている。
「……名を名乗る必要はない。試験官だ」
短い声。次の瞬間、空気が震えた。男の背後に風が渦巻く。魔力の圧が重い。俺は反射的に構えた。
試験官が踏み込み、刃が閃く。速い。初撃から殺気がある。訓練用とは思えない剣速。木剣ではない。実剣だ。
「おい、待て——!」タツヤの叫びは途中で遮られた。結界が張られたのだ。外部との通信が遮断され、空気が歪む。完全な閉鎖空間。
試験官の剣が俺の頬をかすめ、血が飛ぶ。痛みより先に本能が動いた。反撃。足を払って距離を取るが、相手の追撃は止まらない。動きに容赦がなかった。
「これが……試験か?」
「違うな」試験官が呟く。「観測ではなく、排除だ」
瞬間、黒い魔石が反応した。胸の奥で、封じていた脈動が爆発する。空気が震え、視界が反転。世界がスローモーションになる。
「——覚醒」
音が遠のき、心臓の鼓動だけが響く。手にした剣が黒く染まり、周囲の魔力を吸い上げる。試験官が驚愕の声を上げた瞬間、俺は動いていた。
一閃。
剣が交わり、火花が走る。試験官の刃が砕け、身体が宙に浮く。壁に叩きつけられ、石床に亀裂が走る。俺は息を吐き、剣を下ろした。
「終わりだ」
静寂。だが、黒い魔力はまだ消えない。暴れるように脈動し、腕に痺れが走る。抑えろ。今暴走すれば、全てが終わる。
結界が解かれ、支部長とタツヤが駆け寄ってきた。ルシエルは満足そうに拍手をしていた。
「素晴らしい。やはり予想通りだ。——“第二覚醒”は目前ですね」
「ルシエル、貴様……!」支部長が怒鳴る。「何を仕込んだ!」
「ただ少し、刺激を与えただけです。観測には必要なことですから」
タツヤが俺を支えた。目の前が霞む。黒い魔力が暴れ、意識が引きずられる感覚。だが、その奥にもう一つの“声”があった。
——まだ倒れてはいけない。ここで終われば、利用されるだけだ。
俺は奥歯を噛み、膝を突きながらも立ち上がった。ルシエルの笑みが、今にも薄暗い光に溶けそうなほど歪んで見えた。
「……これで、観測終了です。お疲れさまでした」
白衣の研究員たちがざわつく中、俺は支部長の肩に手を置き、低く言った。
「支部長……これは、試験じゃない。狩りです」
「ああ、わかっている。——必ず尻尾を掴む」
訓練場の天井から、黒い魔石の光がゆらめく。微かな声が心に響いた。
——次に覚醒するのは、お前自身の選択だ。
その夜、俺は眠れなかった。黒い脈動が夢と現を分かたず、何かが目を覚まそうとしていた。
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