第20話 清見のレッスン
◆委員長との癒やしの時間
ユサユサと心地の良い揺れを感じて、上桑は大きな欠伸をしながら目を覚ました。
「上桑君、ごめんね。寝ている時に」
「……ん~~~っ……あ、委員長。どうしたの?」
意識が覚醒してきた上桑の眼の前には、少し屈んだ姿勢の清見が困った様な表情で微笑んでいた。
時計を見ると、現在は12時10分。昼食を取るのも忘れ上桑は机に伏して睡眠を取っていた。
たった10分だけど、何となく疲れが取れた気がするなと、首をポキポキと鳴らす。
「英語の課題なんだけど。まだ上桑君の分だけ回収出来ていなくて」
「宿題?……あっ!ごめんごめん」
慌てて自身の鞄からプリントを取り出す上桑だったが、そのプリントは真っ白だった。
「うっ!」
当たり前だが、やっていないものに答えが書いているわけがない。ここ最近の疲労から、宿題すらまともに手を付ける事が出来ていなかったのだ。
「ふふっ。そんな事だと思ったわ」
「ご、ごめん。放課後までには何とか……?」
上桑はプリントを凝視するが、最悪なことに一問目から全く分からない。放課後どころか週明けまで掛かってしまいそうだ。
「上桑君。良かったら教えようか?ご飯を食べながらでもやれると思うし。課題も量自体は少ないから、直ぐに終わると思うの」
「い、いいの?」
「うん。最近、疲れているでしょ。もしかして、また練習が忙しいの?」
「そうなんだよ。次の試合が近くてさあ。会長の練習に熱が入っちゃってね」
「そっか……お仕事だからあまり言えないけど……」
清見は心配そうな表情を浮かべると、小さな口を開いた。
「怪我しないでね?」
「はうっ!」
美谷に結衣もそうだが、基本的に試合が決まると周りから言われるのは、『頑張れ!』か『勝てよ!』。大別すればこんな感じだろう。
応援してくれるのは凄く嬉しい。ただ、それが時に虚しくなる瞬間がある。
そんな中で、自身の身体を労ってくれる存在がいることに、上桑は心臓を射抜かれていた。
(け、結婚したい)
◆お勉強の時間
「そうそう。このWhatはここに係るから……」
「成程!つまり、主語はここになるのかな?」
「そう!よく分かったね。凄いわ」
「そ、そうかな~。へへっ」
上桑の机に弁当箱とノートを広げながら、二人は向かい合って座っていた。清見の色彩鮮やかな弁当をたまに見ながら、上桑は結衣が作ってくれたブロッコリー主体のサラダを食べ進める。
ドレッシングも美味しいし凄くありがたいが、もう少し甘みが欲しいかも?と、考えながら。
清見の解説はとても分かりやすく、決して勉学方面に優れているわけでは無い上桑でも、サクサクと理解する事が出来た。
お陰で20分も経過する頃には。
「終わったあ。いやー、本当に助かったよ。いつもごめんね。今度、何かお詫びさせて」
「ふふっ。そんなに気にしないで……。それより、疲れているのに頑張ってくれて嬉しいわ。だから、ご褒美ね?」
「ご褒美?……あっ」
呆けた顔をしている上桑の口元に、清見は自身の弁当箱から取り出した苺を優しく放った。細く綺麗な指先、それが唇に触れた気がした。
「美味しい?」
コクコク!と、顔を赤くして無言で何度も頷きながら、上桑は真剣に考える。
(ハネムーンは何処が良いだろう?)
浮かれていた上桑は気が付かなかったのだろう……清見がその指先を、ペロリと舐めていたことに。
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