最強の高校生は今日も逃げ出したい。〜狂気でもヤンデレでも掛かってこいや!〜

無糖のアールグレイ

第1話 美谷華恋は欲しい

傾きかけた夕陽が、放課後の教室を赤く染める。


上桑かみくわは、クラスメイトの美谷華恋みたにかれんと向かい合っていた。


華奢なのに、出るとこは出ている金髪美人。高いコミュニケーション能力に加え、成績優秀ときている。


当然のように、彼女はモテていた。級友とのコミュニケーションをうまく取れていない上桑ですら、彼女が何人もの男に告白されて、その全てをバッサリと切り捨てた、なんて話はよく聞いていた。


だが、美谷の真価の本質はそこではない。


その類稀なる、運動神経だろう。


テニスのラケットを持たせれば、レギュラーを圧倒。ダンスを踊らせれば、チア部が遊戯に見える程の圧倒的なキレ。ペナルティエリアの外から放たれたシュートは、ナックルシュートとして、ゴールネットを揺らした。


その噂は大学まで広がり、不特定多数のスカウトマンが、連日のように彼女を訪問している。


​そんな完璧な美少女が、何故、自分を呼び止めたのか上桑には皆目見当がつかなかった。


​「上桑君。お願いがあるの」

「お願い?」

「ええ。少し、恥ずかしいのだけど……」


​白い頬を薄紅色に染める美谷。


告白か?という妄想が一瞬頭をよぎる。この状況でするな、という方が無理だ。上桑はごくりと唾を飲み込む。


​後ろの方で組んだ両手を、モジモジとさせる可愛らしい仕草。それが止まると、薄紅色の唇がゆっくりと開かれていく。


​「あなたの子供を産ませてちょうだい」


​上桑の思考は停止した。


まさしく、妄想を遥か彼方まで飛び越えてきた、ありえない言葉。


「……あっ……えっ?」


​呆然とする上桑に、美谷は真剣な、しかしどこか切実な瞳で言い放つ。


​「欲しいの。世界最強あなたの子供が」



​その瞬間、上桑の脳裏に、ほんの二週間前の出来事が鮮明に蘇った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る