屈折ラブコメ光学―恋愛記号の意味作用における機能の相互依存関係の問題についての形而上学的試論―
鮫島竜斗
人は最初試す時、大抵生真面目なのだ。
第一話 潜在的な線はいつか交点となる。
はっきり言おう……俺は天才だ。
言語化は出来ないがおそらく何かしらの天才的なポテンシャルを持っている。
世の中の連中はインテリアピールする本はどうせ岩波文庫とか?俺は違う。
みすず書房
この税抜き本体価格6600円の『新装版 過程と実在 1』を読んでいる。
今ここはバス停。ただ看板と時刻表が置いてあるだけのシンプルなバス停てこの前購入した『過程と実在』を読んでいる。
アカデミアで通用するかは知らないがそれなり解りはする。あの『過程と実在』をだ。
ホワイトヘッドの『過程と実在』はまさに哲学書の古典の中でもおそらく難易度はSランク。その領域だ。普通なら何がわからないかがわからない、意味不明な言葉の羅列にしか見えないだろう。
しかし、俺はモノにしている。血肉に変えている。
くく……この領域はなかなかの天才と言えるじゃないか?
さて、俺は今どこに向かうのか?
青春の場所である学校というやつだ。
偏差値は51……平々凡々と言える。そんな高校。
地方の面白くもない虚無それ自体が現出したかのような個性のない幾何学的建築。そんな校舎とも言える。伝統やら歴史はあるが実態としても誰も知らない。OBOGは俺の知っているような有名どころは特にいない。
やれやれ、実際は真面目に受験勉強すれば……いや、正確に言えば受験する学校自体はわりとランクを下げた。
まあ、はっきり言えば学校学習に意欲的でない以上、俺は途中でついてけなくなるからだろうと思い、このなんの面白味もない高校の生徒になった。
ちなみに進学先はなし、就職希望もない。将来の夢はニートってやつだ。
まあ、社会なるものについていける気がしないからな。
そして、だ。今この俺と言われる存在は所謂バスなるモノを待っている。
その間の暇潰し。と言える。しかしまあ、周りを見れば記憶にない顔ぶれ、わりとこの時間はバスがよく来るので15分も待てばバスは俺の眼の前の空間を占有するだろう。
しかし、物事をよく考えてみれば、今は『ない』バスがそのうち『ある』という状態になるのだから、不思議なものではある。
『運動』これは有と無というとモノが絶対的なものとして了解されているならばあり得ない。もしバスが『絶対無』なり『絶対有』なりならばバスは常にあるかないかのどちらかだと言えよう。
何にせよ存在するだけでも努力が必要なのかもしれんな、憎たらしいことにその努力をすることにも怠ることにも『苦痛』は付き物だ。
「あいかわず、そんなん読んでの?」
女の声…明らかに俺に向けられているし、これは知り合いの声。
「ん…ああ」
特に意味のない生返事をすると
「はぁ、何がそんなに面白いの?」
と、女は話す。
「四万十さん…俺に話しかけてるのか?」
四万十三絵…数少ない俺の『友人』と目される一人。
「ああ…いや、なに?他の誰にそんなこと言うの?」
四万十は明らかに不機嫌な感じでそう言う
四万十三絵…はあまり褒められたパーソナリティの持ち主とは言えない。実際に仲良くなったきっかけも四万十の褒めることは厳しい行動の結果起きた事象に対する俺の態度がきっかけ、と言える。
パタン少し威嚇するかのように勢いよく『過程と実在』を閉じる。まあしかしこの手の書籍にしてはあまり分厚いとは言えない、このソフトカバー本を勢いよく閉じてもそこまで音は重くはならない。
「…はあ、別に何読んでようが構わないだろ?何がそんなに気になるんだ?」
「いや、別に話しかけるきっかけじゃん?何イラついてんの?」
「別に、まあ強いて言うなら俺は誰に話しかけられても今は割とイラついたと思うよ。俺とお前の付き合いも長いんだ、わかるだろ?」
「ん~…わかないや」
「あ、そう。で、きっかけ作ってなにを話したいの?」
「?別にこれってなにそれはないけど…?」
「ん、ああ。他愛ない話ししたいの?ふぅ、あんまり気分じゃないけど別に構わないかな?」
「…なんか、イヤミ」
「当然、イヤミだからな」
「友達なくすよ」
「生憎持ち合わせのないものはなくしようがないんでな」
「えーアタシは〜?」
「ん?なに構わないと縁切る?て話し?」
「いや、そこまで言ってないけど…でもなに?アタシは友達カウントしてないの?」
「してもいいならするけど」
「じゃあして」
「はい1カウント、俺も遂に失うモノが出来ちまったな」
「じゃあ、大切にね〜」
「ああ、それなりにね」
「え〜ボッチになりたいの?」
「わざわざなりにいく気もないが、別になるならなってもいいかな?」
「は、なにそれ?エラソー」
「すまんの、だから友達0人なんだよ、俺は話していて不快な人物だから、な」
「あーそれわかる〜」
「やれやれ、四万十さんよお前も大概といえるな」
「そっかなー」
「自己意識をもって反省することだな」
「どゆこと?」
「…説明が面倒だ、忘れてくれ」
「えーウザ」
「だろ」
「確かに」
こんな全く無意味、無内容、無価値な会話をした後、四万十はスマホをいじり始める
iPhone…なのか?機種はわからんが。四十万みたいなイマドキJKは皆iPhoneなんだろう。
四万十は随分アレなパーソナリティだか、なんか派手な女子とよくつるんでいて大抵女王になっている。これは小学生の頃から変わらんな。
しかし四万十は、なんというか支配的で高圧的…そんな態度をとる。特に女子にだ。まあ、だからたまに下剋上食らって都落ちしてる。その度になんとなく俺が最低限のケアをしていたな
四万十三絵、美少女…というのか大袈裟かもしれんが可愛い女の子と言っても過言とは言い難い、ごく普通レベルの見た目のいい女の子。家がそこそこ裕福でバイトしてるからかもしれんが、なんか色々見た目には気を使っている。ブランドバッグは意外にハイブランドのでも比較的かなり安価なモノを好んで持ち歩く。そして物持ちはいい。そんな女だ。
無理矢理Instagramを交換させられたが何が面白いのかわからん写真がいっぱいだ。適当にたまにいいね押すと少し喜ぶ。ちなみに俺も書籍をInstagramに何枚か写真共有してるが四万十からいいねが来た試しがない。興味ないからか、正直なヤツだ。ウザいところばかりだか、そこは可愛げがある女だと言える。
こうしてポツポツ話してると、バスが見えた。
すぐそこの信号に引っ掛かってる。よく引っ掛かってる。この道は車があまり通らないが。まあ、交差している道はそこそこ通るから統計的に見えよく信号で引っ掛かてる姿を拝む羽目になるのだろう。
さて、バスの流れる窓を眺めながら世界が『まだ在る』ことを確認しながら、学校に行き。教室に入れば
一人。目を引く少女がいる。
シモーヌ・ド・マロルロン。
文武両道才色兼備を地で行くような女。極めてムカつくヤツだ。
「ごきげんよう」
マロルロンは俺に手を振る。少し濃い青い瞳を細ませ白い歯を長いがよく手入れされた栗色の髪から覗かせる。
「どーも」
俺はマロルロンと話したくない。が
「あなた、今日どんな本を持ってきたの?」
とマロルロンは興味津々だ。目を輝かせている。
「ホワイトヘッド、みすず書房の『過程と実在 1・2』バディウ、藤原書店の『存在と出来事』ジジェク河出文庫の『イデオロギーの崇拝な対象』中央公論社の世界の名著の『フィヒテ シェリング』これには人間の使命とかブルーノとか人間的自由の本質があるな、スピノザ、岩波文庫『エチカ 上下』エーコ、講談社学術文庫の『記号論Ⅰ・Ⅱ』トロツキー、光文社古典新訳文庫の『永続革命論』カッシーラー、みすず書房の『実体概念と関数概念』の11冊」
やれやれデカイカバンもう一個持ってきてパンパンで重そうだから目を付けられたな、はあ…
「Oh... c'est merveilleux(おお……すばらしい)相変わらず優れた審美眼ね、一見すると無関係だけども、体系的、内省的そして意欲的なものばかり、すばらしい選定ですね」
……原語で読まないの?とか思ってるんかね、マロルロン嬢様は英才教育を受けているのでフランス語、英語はもちろん西洋系の近代語はドイツ語、イタリア語、ロシア語。古典語はラテン語。東洋系なら中国語と韓国語と日本語という感じはで9カ国も出来ちゃう才女様。翻訳本なんかとは縁遠い御方なんでね。
「そうですか」
「せっかくですし、放課後、向かいのカフェで話しませんか?」
周りの男子がざわつく。別に俺が誘われたからじゃねえ、マロルロン嬢は誰でも茶ぐらい誘う、しかしマロルロン嬢の随分高級な教養高いインテリ会話について行けるのが俺しかいないから、なんか羨ましがられている。
はっきりと断りたいが、それでは角が立つ、クラスの有象無象なんぞどうでもいいが有象無象は野蛮な力は不必要に持ちそして容赦なく振るうモノだ。断るわけにもいかん。
「ウィ」
「Merci d'avoir accepté l'invitation(お誘いお受けしていただきありがとうございます)……待ってますよ!」
マロルロン嬢は一礼し、自分の席に座った。随分楽しそうなもんだ。
「なに?シーモに誘われてうかれてんの?やれやれ、以外に青春する、ね」
四万十はそう圧迫感のある声を出す。シーモとはシモーヌの愛称だ。
「……そりゃうかれてるさ、マロルロンさんはね」
俺が少し肩を竦めると
「話し合う、数少ないといか唯一の知り合いなのに、なんか他人行儀じゃない〜」
四万十、お前は……言うまでも、ないか。探りたいんだろ。マロルロンと俺の関係を、はあ、お前はお前で大変だ、な
「別に誘われたから行く、それだけ。俺からはそんなに誘わないだろ?」
「ふーん」
と言って四万十は派手な女子の群れに戻った。
はあ、実のこと言えば四万十三絵からは一応、『告白』……キリスト教的ではない方つまり恋人関係を持ちかけられしばらく留保している。いや、正確には留保させられてる。断ったのだが俺に彼女出来るまで留保しておいて、だと。やれやれ俺の何がいいのかよくわからん。これが乙女心なのかね?
まあ、たしかにジュリアン・ソレル……『赤と黒』の主人公も当時としては大してモテない男だ人物造形として、はだ。しかしボーボワールからフェミズム的には結構評価のたかいフランス文学。男と女……ね。『性的関係は存在しない』なんてラカンはテーゼ出してたけどどんなもんだかね。
俺は自分の席座り置き勉でパンパンになった机に突っ伏した。授業はあんまり真面目に受けなくても赤点からは余裕はある。なら真面目に受けない、俺はそうする。そういうヤツだからだ。
カランカラン。
軽妙な鐘の音がなる。学校にて将来立派な剰余価値を搾取されるための訓練を不真面目にこなして、俺は近場の個人経営の喫茶店に入る。
「どっこいっせっと……金ないぞ俺」
というとマロルロン
「Je comprends(わかってるよ)……私の奢り。紅茶を砂糖とミルクたっぷり、と。そしてハムエッグトースト。これでÇa marche(いいね)」
「Ça marche(サ・マルシュ)。OKOK、いつもおんなじの頼むから覚えられてるな」
「bien sûr(もちろん)覚えるのは得意ですよ」
マロルロンは口に手を当て微笑む。
シモーヌ・ド・マロルロンはじつは齢8を超えてフランスの土を踏んだことがない。なんでも父親の仕事の都合だとか。
「で、何話すの?」
俺は、割と毎日に近い週に4から6は茶に誘われる。
「L'ordre du jour est préparé(議題は用意してます)ズバリ!認識と行為についてです!」
マロルロンは教室で見せる落ち着いた雰囲気から外れ鼻息を荒くする。
「やれやれ、それは……」
俺はいつの間にか斜め前に座っている四万十を見て
「俺がマロルロンさんと茶をすると聞きつけ認識すると必ず俺の斜め向かいに居座る四万十さんの行為についての哲学的な回答か?」
「Oh cher(やれやれ)……四万十さん、すいませんね、ボーイフレンドを借りてしまって」
マロルロンが軽く会釈すると
「……ん、別に貸してやるよ、タダでな。貸すだけならね」
四万十はiPhoneのになにを熱心にタップしながらそう言った。
「Désolé(ごめんなさい)、申し訳ないね」
やれやれ、いつから俺は四万十の『彼氏』になったんだか……。
「Retour au sujet(話を戻して)。認識と行為。面白い話題じゃない?」
「まあね、確かに色々と面白いな記号論……パースとかなそのへんは、となるとシグナル、サイン、シンボル。カッシーラーやS・ランガー……もってはいるが未読だ」
「Moi aussi(私もよ)フランス記号論……から外れたアメリカ記号論は、あんまり造詣が深くないわね、私」
「うーん、じゃあハーバーマス?『認識と関心』ガダマー『真理と方法』?生憎両方とも未読の上に持ってすらいない。」
「D'accord(なるほど)確かにね。意外に行為の哲学は、こっち(日本)じゃ聞かないわね」
「まあ、ねそもそもフランスは科学哲学や数理哲学が本領。アングロサクソン系に乗っ取られているが、実際にはデカルトもパスカルも哲学者というよりは科学者だろ?ベルクソンもドイツ風の『教養文学』じみた精神現象学とは縁遠いしな」
「Oui, tout à fait(ええ、確かに)サルトル、メルロ=ポンティ、レヴィナス、レヴィ=ストロース、ラカン、デリダ、ドゥルーズ。"現代"フランス思想の面々はヘーゲル、マルクス、ニーチェ、フロイト、フッサール、ハイデガー……なかやかドイツ哲学に強く影響されているわね」
"現代"フランス思想。ね……現代というには古い面々だバディウとかメイヤスーとかあの辺だろ現代的なのは?いやもう古いか……そもそも英米だのフランス、ドイツ、ロシア、イタリアだのお国哲学というのはインターネットが未発達で普及していない頃の名残だろう。
さて、俺とシモーヌ・ド・マロルロン嬢の会話は大抵こんな感じで他愛ない。
マロルロンからしたらこういった話を他愛なく出来るのは貴重らしい。
そうして喫茶店を奢ってもらい、外にでると
「相変わらず、お楽しみでしたね」
四万十が肩に手を置いて話しかけてくる。
「簡単にパーソナルスペースに侵入するヤツは男女問わず警戒しろってことだ」
俺がそういうと
「……シーモみたいなのが彼女にしたいの?」
四万十は感情の読めない声音でいうと
「だね、でも高嶺の花だな」
「……彼女出来そう?」
「無理だね、俺にそんな大層なものはできない」
「ならさ……」
「言ったろ?大層だと、身に余るよ、背負いきれない」
「……そんなに深く考えなくてもいいのに」
四万十が少しむくれると
「そんなもんかね」
「……高級彼女シーモより廉価彼女三絵のほうがコスパいいよ〜」
「コスパで彼女選ぶのはありだが、俺はしない」
「何をそんなに意地張ってんの?」
「何も張っていないが」
「はぁ〜やれやれ。アタシは結構男子どもに人気あるよ」
「そうかい」
「えーなにその興味なさげな反応」
「ないからね、興味」
「シーモには?」
「多少」
「正直だね」
「まあな」
太陽は地平線に割られて空は紅に染まる。影は伸び、そして
「OKだ。付き合わせていただくよ四万十三絵」
すると三絵は少し目を見開いて
「え。」
と一言
「いや、二ヶ月と保留して引かないなら俺が折れる。そんだけ。不束者だか頼むぞ」
三絵は
「こっちも不束者だし。お似合いじゃん!」
と軽く小突いてきた。
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