第八章 紅影は生きる

昼、もうすぐ警察が助けに来る。

「やったぜ!」

 皆は荷物を持ちルンルンだった。

「また来ます。」

「まだあったら来てください」

 勝也と碧華は二人で笑っている 

 蘭丸はというとガタンガタンと音を立てながらと荷物を運んでいる。

「やっと……ここまで泣けてくる……」

 うるさいな

「なに?悩み事」

「事件について話すことがあるんだ。」

「終わったんじゃないの?」

 僕は静かに首を振る。

「航さんが犯人じゃないってこと?」

「犯人だよ」

 蘭丸はきょとんとした目で僕を見た

 僕はそんな蘭丸に封筒を蘭丸に見せた。

「これが最後だ」

「封筒?」

 僕はさっき航の部屋で見つけた封筒を開けた。

「皆さん聞いてほしいです」

 皆は僕のほうを不思議そうに見る、僕は深く深呼吸をし、手紙の内容を話した。


 『我々は紅影となる。

生きることに失敗した我々が、物語として生き続けるために。

この館に、新しい伝説を刻むために。』


『一人が殺し、一人が殺される。

最後の一人が死んだとき、物語は完成する。

我々は登場人物であり、同時に作者である。』


『この計画を解ける者が現れるなら、それが我々の勝利だ。

我々の物語を語り継げ。

そうすれば、紅影は生き続ける。』

 

 次の紙では色んな筆跡で書かれていた。

 『僕は大学に落ち、親とも喧嘩ばかりだった。

未来が見えなかった。

なら、せめて最後くらい自分で物語を選びたい。』


『私は部長に救われた。

生きていていいんだと教えてくれたのは部長だった。

だから、部長の物語の登場人物として死ぬことに意味がある。』


『あの夜、友達に裏切られた。

もう誰も信じられなかった。

でも、この計画なら信じられる。

最後まで一緒にいられる。』


『生きるのは怖い。

けれど、死ぬなら怖くない。

物語になるなら、それは少しだけ輝いて見える。』

 

 最後のページ最初と同じ筆跡でこう記されていた。

 『この物語を解いた者へ。

どうか、我々のことを忘れないでくれ。

それが、私たちの唯一の生き方だから。』

 

 読み終えた瞬間あたりは沈黙で落ちた。

「それは本当に皆で書いたのか?犯人が捏造――」

「これを見てください。」

 僕はテーブルにカメラを置いた。

「これはただの推測ですが、こんな仲良く写ってる航さんがミステリーサークルの皆を皆殺しにしますかね?」

「じゃあその手紙は本物……」

 僕は話した。

「これは人生に疲れたミステリーサークルがおこなった自殺、一人を殺し次に殺される最後の人は最初に殺された人が死ぬ前に仕掛けた罠で死ぬ」

「最初から最後まで迷惑なやつだな。」

 英雄は下を向きながら言った。


 ずっと暗かった緋鴉館に明るい光が差し込む。

「ミステリーサークルの人達は死んでいない、物語として生き続ける、この館に――紅影として。」

 

 皆は口々に喋った

「彼ららしいわね」

「面白い!酒が進むー!」

「こっちとしては迷惑だ、あいつらは……」

「ここを潰さない理由ができましたね。」


 僕はみんなを見て思った。

 皆怒らないんだな、特に英雄なんてブチギレてもおかしくないのに。

「なぁ疑問に思ってたことってこれのことなの?」

「まぁ僕がずっと疑問に思ってたのは、航が部員を守ってた所だよ。自分に不利なことをするなんておかしくない?って思っただけ。」

「へぇ以外」

 以外とはなんだ?悪口だよな?

 すると後ろから碧華が抱きついてきた。

「え?!なに?」

「さすが名探偵、君はコロンボ、ブラウン神父、ドッズ」

 もうちょっと探偵詳しくない人にも配慮してほしい。

 あと僕は、シャーロック・ホームズがいい、いやエルキュール・ポアロでもいい。

「あれじゃないの?アガサ・クリスティ?」

 蘭丸が言うと碧華は大きく笑い言った。

「それは探偵じゃなくて、ミステリー小説家だよ。」

  

 少しすると外から車の音が聞こえた。

「警察です」

 ドアを開けると顔に傷がある男が立っていた。

「不審者!!」

 英雄は近くにあったモップを男に向けた。

「警察です、二階堂菊治郎と言います。とりあえず落ち着いてください。」

 菊治郎は警察手帳を見せ皆を落ち着かせパトカーに乗せた。

 僕はふと緋鴉館を見たら黒い影が手を降っていた。

 目を擦りもう一回見た時にはもういなかった。



 あれから三週間後、僕は蘭丸と一緒に緋鴉館館に来た。

 あれほど恐ろしく見えた場所は、すっかり青い空の下にさらされて、綺麗にかがやいている。

 あの紅い炎も、血の匂いも、まるで夢だったかのようだ。

「工事したのか?綺麗になってるな、特に門、ギィーって言わなかった」

「一部燃えちゃったからね、でも良かったあんなボロボロじゃ誰も止まりたくはない。」

 僕は苦笑いをする。

 ポケットには、あの日見つけた遺書が入っていた。

 そこには、彼らの順番、計画、そして最後の願いが淡々と綴られている。

 普通なら寒気がするはずなのに、いまは不思議と心が軽い。

 彼らが選んだ死は、ただの悲劇じゃない。

 彼らなりの青春の証明だったのだと、今なら思える。

 

「映画みたいだったな……」

 蘭丸が言った。

「そうか?映画だったらお前は死んでたよ絶対!」

「なんで!?俺は主人公だ!」

「それはないな、今回の探偵役はこの僕だったんだぞ、僕が主人公だろ。」

 僕たちは大声で笑った。

 あの日では考えられないほど、大きな声で。

「来てたのかい」

「二人ともお久しぶりです!」

 館から英雄と勝也が笑顔で出てきた。

「英雄さん、勝也さんお久しぶりです。」

「めっちゃ綺麗になりましたね。」

 英雄はふんっと言って喋った。

「まぁあのまま潰しても良かったが、ここは思い出の場所だからな、あいつらのためとかではない。」

 英雄はドンドンと足音を立て去って行った。

「父親はツンデレなんですよ、本当は緋鴉館を有名にしてくれたミステリーサークルの人たち大好きなんです。」

 勝也はニコニコして館に戻った。


 後ろから聞き馴染みのある大きな声と大きな笑い声が聞こえた。

「あれあれ?あれは名探偵さんじゃないですか!」

「違います碧華さん」

「えー!?名探偵なの?もしかしてあの……あれ!」

 わからないんだ。

「何しに来たんですか」

 ハイテンションの海介が僕たちに突撃して言った。

「泊まり!」

「それじゃ」

 碧華と海介は緋鴉館に入っていった。

 

「そろそろ帰ろう明日学校あるし」

「はぁ嫌だなー明日英語ミニテストだぜ」

「僕は大丈夫だし」

 僕たちは帰るために山道に入った。

 僕は最後にもう一度、振り返って館を見た。

 青い空と草の匂い。

 あの悲劇の日のボロボロの館とは変わって全てが綺麗に輝いていた中からは四人の大きく明るい笑い声が聞こえた。


「紅影は、まだ生きているな。」

 僕が呟くと、蘭丸はニヤリと笑った。

「だったら、もうあいつらに負けないくらい楽しいことしようぜ。

 次はちゃんとした旅行に行くぞ。観光して、温泉入って、飯食って、絶対誰も死なないやつ!」

「それ、普通の旅行だろ!」

 思わず吹き出す。

「確かに普通の旅行がいいかもな、今度はお前が化け物に怯えて死にそうな顔しなくて済むからな。」

「は?!は?ち、違うからあれは紅影にビビってたんじゃねぇから」

「じゃあ何に?」

「は?……」

 また二人で笑った。

 その笑い声が空に吸い込まれ、どこか遠くで誰かが一緒に笑ったような気がした。

 きっと彼らも、今は少しだけ穏やかな顔をしているのだろう。

「行こうぜ。」

 友人の声に頷き、俺は最後にもう一度だけ跡地を見やった。

 紅影は、きっともう怖いものじゃない。

 俺たちと一緒に、これから先も生き続ける伝説になったんだ。


 明るい陽射しの中、俺たちは並んで歩き出した。

 笑いながら、次の旅行の話をしながら。

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緋鴉館殺人事件 凛月 @abcDEF0802

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