第3話 ウホ(首印)
最初の首印は、ド派手にしようと決めた。
とはいえ、10年ですっかり俺を知らないメンバーも増えた。
アシュリーはまだ俺にぞっこんだが、それ以外はそうでもない。
ここで一発決めてやる必要があった。
群れを率いるボスにはそれ相応の力が求められるのだ。
「ウホ(アシュリー、早速ですまないが団員の練度をみたい)」
俺は早速圧縮したウホ語を操り、アシュリーに問いかける。
「ウホホ(連れてくメンバーの厳選だね?)」
話が早くて助かるな。
さすが俺の相棒。
10年経っても変わらず忠誠を尽くしてくれる。
昔はやる気だけは一丁前のクソガキだったのに。
変われば変わるもんだな。
「ウホーー!(お前たち、修練を積んでいるか?)」
「ウホウホ(ボス!)」
「ウホーーー(あたしは今日岩を三個破りました!)」
「ウホ(うむ)」
まだ小さい女の子が、練習の手を止めてアシュリーに歓声をあげる。
叩いてる岩は随分ひび割れている。
話を聞くに、この岩は女の子達にとって木の板と同じ認識でいくら割れるかで競い合ってるらしい。
あまりにもゴリラ過ぎないか?
「ウホ(慕われているな)」
「ウホウホ(まだまだ、ボスには負けるよ)」
お前の中ではそうでも、実際小さな女の子たちはアシュリーを尊敬しているのは間違いない。
俺なんかより、よっぽどな。
「ウホウホ(それよりボス、その男は?)」
「ウホ!(あたしたちの救世主だ!)」
「ウホホ?(救世主?)」
「ウホ(あんた達は若いから知らないだろうけど、昔あたし達を救ってくれた男がいるって話をしたろ?)」
恐ろしい圧縮言語の使い手だ。
たった二文字で恐ろしい感情が込められている。
究極のウホ語の使い手になったな、アシュリー。
だがここからは俺の心が理解を拒むので、圧縮言語内の言葉のみ抽出させてもらおうか。
『初めましてだな。俺の名はラク。ボスであるアシュリーとは昔馴染みだ』
『あたし達の言語を!?』
『ラクはウホ語の開発者だ。語れないわけないだろう?』
『そういうことか!』
『じゃあ、本当に戻ってきてくれたんだな?』
『でもどうして今? もっと早く戻ってくることもできたはずだ。だったらマリーやヴィレッタも……』
どうやら俺がいない間、尊い犠牲があったらしい。
涙を流すくらいには親しい仲。
いや、アシュリー達はどこで生まれようとも家族として扱うんだったな。
俺がそう教えたし、それを今でも守っているんだ。
けどアシュリーは目を伏せて首を横に振った。
俺がいたところで解決しない話題。
『貴族の連中か?』
『うん。あいつらあたし達を捕縛して尋問したんだ。でも情報を抜けなくて、腹いせに』
当然だ。
ウホ語は自白系スキルの対抗手段。
普段からウホウホ言わせておけば、情報を抜いても記載される言語は『ウホウホ』で埋まる。
しかしそれのせいで相手は激昂。
捕まっていた奴が尋問にあったか。
この世界の女は弱い女にとことん厳しい。
戦えない奴は死ね! が横行している。
男に対しても似たような行いはするが、戦いじゃなくて稼げるかどうかの判断基準がある。
戦うのは女に任せ、男は家を守るというのがこの世界の基準なのだ。
特に貴族と平民の間には並々ならぬ溝がある。
弱い奴は強い奴に何をされても仕方ない風潮があるのだ。
とんでもねー蛮族なんだよ、この世界の住人。
適性のない奴にはとことん地獄なんだよな、ここ。
貴族といってもアルテイシアは悪い奴ではないが、それはビジネスとしての関係だ。
向こうは俺を気に入ってくれてるが、素性が清い時に限るだろう。
テッサを通じて俺が強盗団の一員であることは耳にしていることだろう。その場合、馬鹿正直に仲間だと思っていてはてひどい裏切りに会いかねない。
それでも俺のコインを欲するはずだ。
その時にどう出るか。
俺も準備を進めておくか。
『ここにいる10名を見繕え。首印を刈る』
『ここにいる10名? まだ若く実戦が足りていないのに?』
『忘れたか、アシュリー。俺たちが出会った時を』
『そうだった。あたし達はなんの練度もない時に出会って、多くの命を刈り取った』
『そうだ、その気持ちを忘れるな。それに強気者を率いて狩りをしても俺の成果にはならんからな。守り、そして仕留めてこそ蒸れの長だ』
「ウホーーーーーーーー!」
あ、今回は普通に叫んでるだけだな。
この世界の女子は興奮しすぎるとウホしか言わなくなる。
俺が推定ゴリラと呼んで理理由はそこに起因する。
『首は何を刈る?』
『三級のサンダーライガーだな』
『三級?』
アシュリーは訝しむ。
群れのボスとして狙うには低すぎるからだ。
『いきなり大物はさすがに新人には手に余る。俺という存在を知らしめる歓迎会だ。なぁに、そのついでにいくつか手土産も持たせてやるつもりだ。狩猟の経験は?』
『まだだ、首印を一人で狩るには修練が足りない』
だろうな。
だから見せるのだ。
この世界の首印がどのような存在かを。
この世界の女が蛮族と呼ばれる由来を。
岩を割って喜んでる女子達に見せつけるのである。
アシュリーに道案内をさせつつ、俺はコインを指で弾きながら幸運値を高めていく。
「コインシュート」
俺の個性は日本で取得したので、圧縮言語のウホ語では認識されない。
クリティカルを最大限まで上げた『コインシュート』はどんなに固い防御力ですら貫通する。
俺のコインは皮膚が固いことで有名な四級首印のロックリザードの皮膚を神のように貫通した。
『ヨシ、今だ飛びかかれ!』
「ウホーーーー!」
石斧を持った女子達が首印に飛びかかる。
岩を割る膂力を持ってしても、ロックリザードのトドメを刺すのは難航した。
しかし俺のコインシュートの援護があれば、数の暴力はたちまち首印を劣勢に追い込んだ。
『ヨシ、メインを仕留める前に何匹か仕留めて飯にする。アシュリー、火打ちの知識と剥ぎ取りの知識は教えているな?』
『もちろんだ!』
なんとか形になってきているが、まだまだ甘いな。
穴を掘り、ハラワタなんかを捨てていく。
『どうして食べれる所を捨てちゃうんだ?』
俺は口元で人差し指を立てた。
はらわたを捨てた場所には、肉食のモンスターがやってくる。
その肉が強ければ強いほど、いい撒き餌になるのだ。
それに食べられるとしても、ここではその道具もない。
しっかり焼かなきゃ腹を壊しかねない部位なのである。
『見てみろ。今回は頭数が多いからな。こうやって無理に食わずとも食い出のある奴らが寄せられてくる。覚えておけ』
『すごい!』
野生の獣は探しても見つからない場合が多い。
なんだったら罠をかけても引っかからない。
しかしこういう措置をすれば入れ食い状態で引っ掛かる。
はらわたを食う手段もなくはないが、準備がかかりすぎる。
何も持たずに出てきているので、今回は撒き餌として使った。
人数分が腹一杯になったのを確認していよいよメインディッシュに進む。
全員が五級くらいなら一人で彼そうなほどの意気込みを持っている。
最初こそは俺の方針に疑問を持っていた少女達も、その考え方や腹一杯食わせてやった恩義を感じてかきちんということを聞いてくれた。
『いた、今日のメインディッシュだ』
『あたしが前に出るか?』
『まずは俺が気を逸らす。それから鼻っ柱を追ってやれ』
「ウホーーーーーー」
気合いの咆哮。
おいバカ、大声を出すな。
サンダーライガーがこちらに気づいてうなりを挙げた。
チィッ
まだコインスナップの回数が足りてない。
「コインシュート!」
目玉にクリティカルヒット。
一瞬動きが止まり、その隙をアシュリーは見逃さなかった。
「ウホーーーーーーーー!」
アシュリーの強力な一撃。サンダーライガーの首がくの字にへし折れる。どう、とサンダーライガーが地に伏せた。
完全に意識を持っていかれてる。
『みんな、襲い掛かれ!』
「ウホーーーーーーーーーー!」
そこへ女子達の石斧アタック。
その間に俺はコインスナップで幸運値を爆上げしておく。
『離れろ! 起き上がるぞ!』
「ぐるるるるぅぁあああああ!!」
サンダーライガーからバチバチと電気が起こる。
三級首印は首をへし折ったところで死なないのだ。
止まった心臓も、この静電気現象で無理やり起こされる。
ここから先、行動の全てに落雷攻撃が混ざり込む。
まだ五級を狩って喜んでる女子達にこいつを仕留める腕はない。
『アシュリー! 五秒稼げ!』
「ウホーーーーーーーーー!」
アシュリーなら勝てるだろうが、全員を庇っての勝利は難しい。
ただ吠えるだけで周囲に落雷が走る。
その落雷は意思を持ってアシュリーに襲いかかった。
「ウホッウホッ!」
自らを興奮させて士気を高めているが、それは空元気だ。
だから俺はコインスナップを失敗させるわけにはいかない。
そしてついにといくていの幸運数値を稼げた。
「俺の女を甚振って喜んでんじゃねーよクソ獣野郎!」
コインポゼッション。
それが俺のとっておきの切り札。
モンスターを生きたままコインに封印する術だった。
全ては金の為。
けど、それに付き合う義理は彼女達にはない。
自分が酷い偽善者であることを自覚しつつも、自分一人じゃ大金を稼げないことを理解していた。
「アシュリー、俺は決めたぜ」
『どうしたの、ボス?』
金を稼いだ後、その金の使い道を決めてなかった。
生き延びることさえできればよかった。
けど、俺の腕の中には、こんなダサい男のために命をかけてくれる少女がいる。
男なら、女のために命を賭けるのも悪くない。
昔はそうやって動いてたはずだ。
けど、力及ばず逃げ帰った。
異世界にはなんの夢もない厳しい現実だけがあった。
逃げた。
アシュリーを置いて、我が身可愛さで逃げたんだ。
だからこそ、俺は当時の自分の甘ったれ具合に吐き気を覚えた。
「俺の命は、このパワーゴリラ盗賊団のために使う。そのためにも俺に力を貸してくれ」
『いいの? ラクにはここでやる目的があったんじゃないの?』
「それは成り行きだ。命をかけてまで成し遂げるもんじゃない。俺はお前を捨ててまで、金を稼げる男じゃなかったってことさ。アシュリー、いきなりこんなことを言うのも烏滸がましいが、俺と番わないか?」
『えっ?』
言葉の意味が飲み込めず、アシュリーは放心したままだ。
流石に戦闘直後にプロポーズなんて流石に臭すぎだな。
でも、これは俺の本心だ。
いまの今まで、どこかで切り捨てられると思い込んでいた。
でも、ちょっとピンチになっているのを見たらダメだった。
『あたしでいいの? あたしはほら、あんまりおっぱい大きくないし。体も小さいもん。ラクはもっとムチムチしてる子が好きなんだと思ってた』
それは正直ある。
けど、だとしても。
俺はアシュリーをまっすぐ見据えた。
この子が俺の知らないところで命を落としていたら。
それを考えるだけで胸がはち切れそうになるんだ。
今になって、それが恋心なんだって自覚した。
自分でも今更すぎるだろって思う。
「俺はお前がいいんだ。ダメか?」
『全然! ダメじゃないよ。あたしがお嫁さんか。えへへ。みんなは祝福してくれるかな?』
「そこは俺も頭を下げるから、一緒に説得してこうぜ!」
『うん!』
アシュリーは素直で可愛いなぁ。
多分俺は、この素直さに惚れ込んだんだと思う。
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