第47話 そして現代へ
長い年月が静かに流れた。
ホモサピは繁栄を手にし、文明を築き上げた。だが、あの時代に確かにあったテレパシーの力は、少しずつ人々の中から姿を消していった。森の声を聞き、動物たちと心を通わせた者はほとんどいなくなり、やがてそれは完全に失われた。
かつてミラが寄り添った犬も、鳥も、狼も――今ではただの「動物」として、人間の傍らに佇んでいる。
だが、静かな森の奥には、あの日戦いに身を投じた者たちの気配がまだ残っている。
木陰に一瞬、モスキート女王が羽を休め、複眼に映る光景を穏やかに見つめている。人間たちが気づかぬうちに、種族を越えた絆を確かに覚えているのだ。
リザード女王は遠くの岩山に姿を現し、深く息を吐きながら、仲間たちの平和な日々を守るために静かに見守る。
リザード将軍は、もう戦うことのない大地に尾を軽く打ちつけ、かつての戦士たちの勇気を風に伝えている。
そして、カイ――かつて仲間を守り、未来を託した犬族の勇者は、森の中で微かに姿を現す。目を細めて風の匂いを嗅ぎ、かつての仲間たちの記憶を静かに胸に抱いている。
森は静かに囁く。
──風が葉を揺らすたび、かすかな声が耳に届くような気がする。
「かつて、あなたたちは私たちと話していた」
忘れられた歴史の奥に、レイとカイ、ミラたち、そして女王たちが命をかけて築いた物語が眠っている。
傷と犠牲と希望で刻まれたその物語は、いずれ誰かの心に呼び覚まされる日を待っているのだろう。
人類はそのことを知らぬまま、今日も歩き続けている――静かに、しかし確かに、過去と未来の狭間を。
風に乗るかすかな囁きが、誰かの胸に届くその日まで、森の物語は、レイたちと三種族の想いを胸に、静かに息をしている。
完
あとがき
『リバースワールド』
この物語は、滅びと再生、そして“人間とは何か”を見つめ直すための旅だった。
文明が崩れ、言葉が失われ、光と闇の境界が反転する――その世界の中で、レイたちはただ生きることの意味を探していた。
“進化”とは、強くなることではなく、理解すること。
“生きる”とは、支配することではなく、繋がること。
リバースワールドの住人たちが教えてくれたのは、そんな当たり前のはずの真理だった。
私たちの現実の世界も、形を変えればリバースワールドの延長にあるのかもしれない。
技術は進み、情報は溢れ、けれど心はどこか遠くへと置き去りにされている。
この物語に描いた“反転した世界”は、もしかすると、私たち自身が映し出した未来の鏡なのだろう。
レイが見つけた“気づき”――それは終わりではなく、始まりである。
彼の心に灯った微かな光が、再びこの現実の世界にも届くことを願って。
それでは、またいつか。
別の物語で、別の世界で。
亜香里
リバースワールド-逆転の大地- 亜香里 @akari310
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