第42話  球体の進化 ― 心を試す者

光の奔流が走り、球体の表面を深く裂いた。

 しかしその裂け目から滲み出たのは、砕けるはずの残骸ではなく……さらに濃く、重たい闇だった。


 【……浅い】

 それは低い声であり、同時に全員の頭の中に直接響く囁きでもあった。

 【憎しみも、怒りも、悲しみも……お前たちはまだ心に縛られている】


 裂け目の奥から姿を現したのは、形なき影。

 それは触手でも武器でもなく、戦場に散った戦士たちの「幻影」として姿を取った。

 倒れた仲間の笑顔、亡き者の声、かつての裏切り。

 それぞれの種族の戦士たちの前に、最も心を抉る幻が現れる。


 「……カイ?」

 レイの前に現れたのは、すでに失った仲間の姿。

 その幻影は剣を構え、微笑みながら言う。

 【お前はまた仲間を失う。守れると思うか?】


 爬虫将軍の前には、かつて滅んだ同胞たちの幻が現れた。

 【お前の誇りは何を守った? 結局は滅びではないか】


 そしてモスキート女王の前には、かつて奪われた無数の命が映し出された。

 【お前は女王でありながら、命を無駄に散らせてきた。まだ続けるのか】


 球体はただ破壊をもたらすだけの存在ではなかった。

 それは「心の奥に潜む傷」をえぐり出し、それを武器に戦う「審判者」だった。


 【証明せよ……】

 【お前たちの心が、縛られるものではなく、未来を繋ぐ力であると】


 黒い光の眼が、戦場全体を睨みつけた。

 その視線に晒されるたび、兵たちは心を乱され、武器を落とし、膝をつく。

 だが、ほんの一握り——ミラ、レイ、女王、将軍たちだけが必死に踏みとどまっていた。


 ミラは胸を抑え、強く叫んだ。

 「……なら、証明してみせる! 心は縛るものじゃない……繋げるものだ!」


 闇に挑むための、新たな試練が始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る