第40話 球体の変貌
戦場を揺らす脈動は、ついに鼓動ではなく「心臓の咆哮」そのものへと変わっていた。
ドクン、ドクンと大地を震わせるたび、砂が宙に舞い、空気が黒く染まっていく。
「……これは……目覚めようとしている……!」
ミラは息を呑み、球体を見つめた。
亀裂は音を立てて広がり、漆黒の光の下からは、硬質な装甲めいた殻が姿を現す。
ただの球体ではない。まるで殻を破って「何か」が孵化しようとしていた。
女王の複眼が強く輝いた。
【……眠っていた中枢が、動き出したか】
その声には焦りと怒りが混じっていた。
やがて、球体の表面が裂ける。
中からは無数の触手のような光が蠢き、形を持たぬ「意思の腕」が戦場に伸びていく。
触れた地面は瞬時に崩れ、兵の心は掻き乱され、叫び声と羽音と咆哮が入り乱れた。
「これは……兵器なんかじゃない……!」
レイが歯を食いしばる。
「……生きてる……心を喰う化け物だ!」
その言葉を裏付けるように、亀裂の奥で「眼」が開いた。
真紅の光を宿した巨大な眼球が、ゆっくりと戦場を見渡す。
その視線を浴びた瞬間、誰もが心臓を掴まれるような圧迫感に襲われ、膝をついた。
【我は……記憶……】
【我は……意思……】
【命を縛り……心を喰らうもの……】
声ではなく、直接脳に響く呻きが全兵の意識を侵す。
ホモサピも、爬虫属も、モスキート属も、その場で頭を抱え、立っていられなくなる。
「負けるな……!」
ミラは必死に立ち上がり、声を張った。
「これは心を奪う存在! なら……私たちの心で抗うしかない!」
しかし、その瞬間——球体の中枢は全身を震わせ、黒い光の嵐を解き放った。
戦場は一面、闇と絶望の渦に呑まれていく。
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