第39話 球体の反撃
黒く光る球体に走った亀裂は、ほんのひと筋にすぎなかった。
しかし、それを痛みと認識したかのように、球体の鼓動は急激に高鳴り始める。
ドゥン……ドゥン……と大地そのものが震える音が響き渡り、戦場の兵たちの胸を内側から叩く。
「うっ……!」
リザードの戦士が胸を押さえ、目が虚ろになる。
次の瞬間、その戦士は仲間へと槍を振り下ろしていた。
「やめろ! 心を操られている!」
レイが割って入り、剣で弾く。だが、黒い脈動は次々と広がり、ホモサピもモスキート属も、倒れた者から順に心を侵されていった。
球体の亀裂からは黒い霧が溢れ出し、それぞれの種族に囁きを投げかける。
——ホモサピには「裏切られる前に、殺せ」と。
——爬虫属には「人の子はお前たちを滅ぼす」と。
——モスキート属には「飢えを満たせ、今すぐに」と。
女王の複眼が強く輝いた。
【幻惑に呑まれるな! これは心を裂く欺きにすぎぬ!】
その声は波紋のように広がり、モスキート兵たちをわずかに正気へと引き戻す。
しかし、球体の反撃は止まらない。
黒い触手のような光が亀裂から伸び、地面を這い、空を裂いて飛び出す。
一本はリザード将軍の尾を絡め取り、一本はミラへと迫った。
「ミラッ!」
レイが駆け寄るが、その一撃は速すぎた。
ミラは迫り来る黒い光を目前にして、必死に心を集中させる。
【こんなものに……私の心は渡さない!】
両の掌から放たれた眩い光が、触手を押し返した。
しかし力は拮抗し、膠着する。
「ぐっ……誰か……!」
ミラの声が震える。
その瞬間、女王の巨大な翅が風を巻き起こし、リザード将軍が剣を叩き込む。
三つの力が重なり、黒い触手はようやく弾き飛ばされた。
だが——球体の鼓動はますます早く、大きくなっていた。
今の攻撃はまだ「小手調べ」にすぎないと告げるかのように。
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