第38話 共闘の第一撃

球体の表面を走る漆黒の光は、まるで大地そのものの血管のように広がり、戦場全体を包み込んでいた。

 その光に触れた兵たちの目が虚ろになり、仲間同士で刃を向け合いそうになる。まさに「心を縛る鎖」が動き出していた。


 「いけない……このままでは、誰も彼も操られてしまう!」

 ミラの声が震える。


 その瞬間、モスキート女王が翅を大きく広げ、轟音のような羽ばたきを放った。

 【まずは心を縛る膜を裂く……我らの振動は、球体の干渉を乱せる!】


 空気そのものが震動し、戦場を覆う黒い光がわずかに揺らぐ。

 すかさずリザード将軍が吠えた。

 「今だ! 奴の防壁が揺らいでいる!」


 リザード族の戦士たちが一斉に地を踏み鳴らし、溶岩のような熱を帯びた槍を構える。

 炎と鱗が渦を描き、矢のように球体へ突き立つ。

 轟音──黒き殻に赤い亀裂が走った。


 「今しかない!」

 レイが剣を高く掲げ、ミラと目を合わせる。

 ミラは両の手を胸にあて、心の力を解き放つ。

 彼らの意志が、光の矢となって剣に注ぎ込まれていく。


 「──これが俺たちの選んだ未来だッ!」

 レイの一閃が黒い球体に突き刺さる。


 亀裂はさらに広がり、内側から不気味な脈動があふれ出す。

 球体は悲鳴のような低音を放ち、黒い光を撒き散らすが、三つの種族の連携の一撃は確かにその巨体を揺るがせていた。


ミラの心に、確信が生まれる。

 ──まだ、抗える。滅びではなく、新しい道を選べるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る