第31話 沈黙の代償

遺跡の奥で眠りについた黒い兵器。

 ミラの声に応じてその脈動は止まり、場にいた誰もが安堵の息を漏らした。


 だが、静寂は長くは続かなかった。


 「……聞こえるか?」

 犬族のカイが耳をぴくりと動かした。

 地下深くから、かすかな羽音のようなものが響いていた。


 レイは剣を抜き、仲間たちに視線を走らせる。

 「何か来る……」


 次の瞬間、壁の岩肌が崩れ落ち、無数の小さな影が闇から這い出してきた。

 甲高い羽音とともに、兵器の残したわずかな「脈動」に惹かれて現れたのは――昆虫属だった。


 「……やはり眠ったか。だが、まだ完全ではない」

 群れの奥から現れたのは、細長い体を持つモスキート属の戦士。

 その声は鋭く、心の奥にまで刺さるように響いた。

 「人間よ、その子が兵器を封じたのだな。ならば我らの女王にとっても脅威となろう」


 リザード将軍が唸り声をあげる。

 「虫ども……まるで待ち構えていたようだ」


 レイは剣を構え、ミラの前に立った。

 「お前たちには渡さない。これはもう誰のものでもない」


 昆虫属の群れは羽を震わせ、遺跡全体が轟音に包まれた。

 その音は「戦の宣告」のように響き渡り、仲間たちの胸を震わせた。


 ミラはカイの腕を握りしめ、小さな声で囁いた。

 「私のせいで……呼んじゃったんだね」


 カイは首を振り、真剣な眼差しで答える。

 「違う。お前がいなければ、あの兵器は今も暴れ続けてた。……だからこそ、守るんだ。お前を」


 レイは強くうなずき、仲間たちへ叫んだ。

 「ここからが本当の戦いだ! 兵器だけじゃない、未来をも守るんだ!」


 その瞬間、モスキート属の羽音がさらに激しくなり、遺跡の闇が吹き飛ぶほどの突風が巻き起こった。

 ――そして、昆虫属との最終決戦が、ついに幕を開けるのだった。

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