第30話 鍵を継ぐ者

 黒い兵器の前に立つミラの姿は、誰よりも小さく、そして誰よりも強かった。

 球体は脈動を続け、時折、低い唸りのような音を響かせていた。それは、ただの金属ではなく、意思を持った生き物のように感じられた。


 「……兵器は“封印”を拒んでる」

 ミラの声は震えていた。

 「でもね、心に届いたの。『選ばれた者の声でなければ眠らない』って」


 カイが思わず叫ぶ。

 「選ばれた者……って、お前のことか!?」


 ミラは黙って兵器に触れた。するとまた、意識の奥底に映像が流れ込んでくる。

 炎に包まれる都市、叫びながら逃げ惑う人々。その中に、彼女自身の姿もあった。

 ――いや、違う。未来の彼女。戦場に立つ戦士の姿。


 レイがそっと彼女の肩に手を置いた。

 「ミラ……見えたのか?」


 「うん。これは……ただの兵器じゃない。旧人類が作った“記録”でもある。使えば世界を滅ぼす。でも、触れた者が未来を見て、道を選ぶこともできる……」


 リザード将軍が低く唸った。

 「つまり、この兵器を制御できるのは……お前しかいない、ということか」


 その場にいた全員の視線がミラに集まった。

 彼女は小さな拳をぎゅっと握りしめ、震えながらも言葉を返した。

 「私は……封じるよ。もう誰にも使わせない。私の声で眠らせる」


 その瞬間、兵器の脈動が少しずつ弱まっていった。黒い球体の表面に光の紋様が浮かび上がり、ゆっくりと閉ざされるように沈黙していく。


 「……本当に、止まったのか?」

 カイが息を呑む。


 ミラは汗に濡れた額を拭いながら、力なく微笑んだ。

 「完全にじゃない。でも……しばらくは大丈夫。次に開くときは、私じゃなく、未来の誰かが決める」


 ――その言葉に、誰もが言い返せなかった。

 大人たちがどう決めようと、この兵器の運命を握っているのは、もはやミラという「次世代」だったからだ。


 レイは彼女を見つめ、心の奥で誓った。

 俺たちは守らねばならない。この小さな背中を。この未来を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る