第27話 遺跡の内部 ― 禁断の兵器

 扉が開いた瞬間、奥から冷たい風が吹き抜けた。

 それはただの空気ではなかった。

 長い年月を越えてもなお、そこに閉じ込められてきた「人類最後の狂気」が、ひやりと肌を刺すように溢れ出したのだ。


 光の差さぬ空間の中央に、黒く光る巨大な球体が浮かんでいた。

 その表面は鏡のように滑らかで、近づく者の姿を歪めて映し出す。

 近寄るほど、心の奥底がざわめき、記憶にない怒りや恐怖が芽生えてくる。


 ミラは両手で頭を押さえ、呻いた。

 「……これは、声じゃない……叫び……! この球体が、人の感情を……増幅させている……」


 リザード将軍が低く唸る。

 「兵器……これは核とは違う。心そのものを破壊する兵器か……」


 やがて、遺跡の壁面に隠された記録媒体が作動し、かつての科学者の映像が浮かび上がった。

 『我々は失敗した。核は都市を焼き、放射能は命を奪った。だが……最後に造られたこの装置は、人間の“心”を直接制御する……』

 科学者の顔は苦悩に歪んでいた。

 『恐怖と憎悪を増幅させ、敵を互いに滅ぼさせることができる……。それは究極の抑止力であり、同時に最悪の破滅装置だ……』


 ミラは震える声で問いかける。

 「なぜ……なぜ、こんなものを作ったの……?」


 映像の中の科学者は、まるで答えるように目を伏せた。

 『人類は恐怖に勝てなかった……。だから、お前たちに託す。もしこの兵器を使えば、種族間の憎しみは増幅し、やがて誰も生き残れない……』


 映像は途切れ、沈黙が広がった。


 レイが深く息を吐いた。

 「これは……触れてはならない禁忌だ」


 しかし、その場にいた全員が悟っていた。

 ――この兵器こそが、昆虫属の怒りを呼び覚まし、やがて彼らとの最終決戦を引き起こす。

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